自分の本当の気持ちに否応なく気づかされた均と、その想いに戸惑うキョーコ。
不器用にぶつかり合う二人の想いは一体何処へ行きつくのか・・?
均は息を切らせながら屋上への階段を駆け上ると、鋼製のドアを押し開けた。
キョーコは屋上の手すりに腕をかけて、彼方の湖面に差す朝日の輝きを眺めているところだった。
「なんだよ一体、こんなところに呼び出したりして・・・。」
キョーコの目から視線を逸らしながら、均は気まずそうに言った。
雪の日の言い争い以来、キョーコと面と向かって話すのは初めてだった。
(とう校したら すぐおく場に来て キョーコ)
今朝早く学校に到着すると、均の靴箱の中に小さなメモ書きが入っていた。
均は、毎朝遅刻寸前で登校するはずのキョーコからの意外な伝言に戸惑いながら、かばんを教室に投げ込んで、急いで階段を駆け上がったのだった。
「あのさ、均、後向いて目をつむってくれる!?」
そう言いながら微笑んだキョーコの瞳は、なぜか均には少し寂しげに見えた。
「・・はぁ?うしろって?」
「いいから、いいから!」
均の肩に手をかけて身体を回す。均は戸惑いながらも言われた通り後ろを向くと固く目をつむった。
突然、均の首に何か柔らかいものが巻き付いた。驚いて目を開くと、その目に赤いニットが映り込んだ。真っ赤なマフラー。
均はマフラーの首元を押さえたままキョーコに向きなおった。
「何だよこれ、このマフラー!?」
キョーコはそれに答えるかわりに大きく一歩後ろに下がった。腕を組み首を傾げながら、値踏みするように上から下まで均を眺め下す。
「うーん、合格!なかなか似合ってるよ!やっぱ私の編み物の腕かなあ~!」
「・・編み物って、これお前が・・!?」
キョーコは伏せた目でさみし気に首を振った。
「・・ううん・・均のために編んだんじゃ、ないよ。」
暫しの沈黙。だが、敢えて均は何も訊かなかった。
「・・でもさ、今は均に使ってほしいんだ。」
均はその言葉が含む意味を理解して、驚いたように目を上げた。
「キョーコ、お前・・!?」
その時、始業のチャイムが小さな校庭に鳴り響いた。
キョーコは顔を上げてにこりと微笑むと、均の手を取る。初めて握り合うふたりの手。
「いっけない、遅れちゃうよ!授業!」
キョーコは屋上のドアを開けるが早いか、均の右手を引っ張ったまますごい勢いで階段を駆け下りる。
キョーコは髪をなびかせ息を切らせながら、途切れ途切れにあえいだ。
「・・金山君のこと・・・あきらめたんだから・・均が・・均が金山君よりかっこよくなってくれないと、アタシ困るんだからね・・・」
「・・おい、そんな無茶な!・・あッ、前!、前!」
均がそう叫ぶのと、階段を駆け下りた二人の身体が職員室のドアから現れた戸田先生に衝突するのは、ほとんど同時だった・・。
(了)
こんな記事も読まれています
コメント