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 チニカを去る前に、探索をした者の礼儀として、”かけがえのない物”がまだ埋まっているのではないのかと、最後に、入念に探してみようと、最終チェックを敢行することにした。

 それは、僕にとっての”かけがえのない物”ではなく、勿論、ここのオーナにとっての物である。

 不慮の自然災害により、着の身着のまま、山荘を飛び出したっきりで、再興をしたくとも、諸事情で如何ともし難く、ただいたずらに時が過ぎていき、その間隙を縫うようにに、フラリと迷い込んで来たのが、招かれざる訪問客であったのか、結果的に、功労者として足り得るのか、それは、後の評価に委ねるしかないが、数十年ぶりの、幼少の頃の、闇の淵の口腔に恐れをなして引き返した、あの雪辱を果たそうと、積丹半島に向かおうとしていたのこの僕が、その折、立ち寄った荒廃した山荘、チニカで、最初は確かに、口とは裏腹に、面白半分で見て回っていたことは否めなく、一部、抗議の声もあったことは、甘んじて受けるしかない動かしがたい避けようのない事実に違いない。

 ただ、探索を一時間、数時間と、重ねていくうち、僕のよこしまな好奇心は、次第に変化を帯びていったのである。これほどの、歴史のある山荘をただ見過ごしたままにして、朽ちるに任せて良いものだろうかと。オーナーの抱えきれない程の残された思い出を、吹きさらしにしたまま、いいアクセス稼ぎになるわいと、撮るだけ撮って、あとはそのままで、後ろ足で砂をかけるように、痛々しい姿だけを拡散するような行為は、決して許されないだろうと。

 その想いを、記憶にのこそう。記録しよう。共有しよう。情感のこもった、品々の一つ一つを、できる精一杯の今を保存して、積丹の地に、チニカ山荘ここにありと、喚起すべく、共感を呼び、後世に語り継いでもらおうと、山深くに野晒しにされ、人々の思い出から消えつつあった、このチニカ山荘の、隅から隅までの保存活動へと、次第に心は傾いていったというわけなのである。

 極めの最終チェックによる、”かけがえのない物”の探索とは、例えば、エンゲージリングであるとか、孫の写真、天皇陛下訪問記念写真、夫婦茶碗、といった、替えのきかない物のことである。

 もし、それらの物を発見したら、持ち主を自腹で探し出す覚悟で、それが最低限のマナーであると考え、最後の探索に臨むこととなった   



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 少し前にここを通った時には、ただ瓦礫を踏みしだいて行っただけであったが、今は、一枚一枚、ひっくり返してみる。



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 100円ショップで手に入るような自転車のベルに、ペコちゃんの缶バッジに紐を通したアクセ。これは見切ってもいい。



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 かつての、宿泊客が、送ったのだろうか。届いた、届いてたんだと、そう、思ってくれれば、写したかいもあったというもの。



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 厨房で、器具目線で凝視するが、本人に手渡しするようなものは、残されていないようだ。



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 ホーローのマグカップは、一つ一つ、持ち上げて、おそ松くんの、茶筒も、中を覗く。



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 お地蔵様を祀る、お祭りを楽しみにしていらっしゃったのか。



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 鳴ることのなかった、火災報知器   



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 1998年のコカ・コーラのカレンダーが残されていた。

 宿泊者によると、女性のヘルパーが二人いたこともあったようなので、バブルが弾ける前ぐらいまではバイトを雇う余裕があったのかも。



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 元従業員の方にも、目に焼き付けてもらいたい。



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スローで行こう!

 あのねじり鉢巻をして、本人も、積丹半島のくねった道を、駆け抜けていたのでしょうか。

 宿泊者の情報としては、この宿にはガタイのいいおばさんがいつもいて、つきっきりで話をされたとのことなので、もしかしたら、その女性が、オーナー、もしくは女将という可能性もある。

 そうであるとすると、ハッピ姿の男性は、ただの期間ヘルパーか、親族であるのか、詳細な情報は得られていない。



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 朝早く、窓の向こうに霧も立ち込める中で、ライダー同士が肩を並べ、今日一日のルートを、語り合ったりしたのでしょう。

 僕にも、そんな時代がありました。駅寝をしたり、バス停の小屋で寝たり。今だってできるだろうと思われるかもしれないが、全くお金が無いわけじゃなし、そういったことに感激をする瑞々しい感性は、若い時だけのものなのです。迷っている方、今すぐにでも、出発することを、お勧めします!



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 今では見るも無残なこの部屋に、虹が架かっていました   



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 Tシャツやデニムを干すとレールからコマが重みでもげ落ちてしまうので、靴下専用の三連ハンガーか。



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 何人もの旅人を眠りのまどろみにいざなったお手製ベッドも、大地の養分としかなりようがない有様に。


 残る最終チェックを終えたあと、ようやく、積丹半島に向けて、出発する運びとなる   
 
 


つづく…

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