いよいよ開かれたウタリ山荘の入り口。山荘内で彼らが目にしたものは・・!?

薪にでも使うつもりだったのだろう。引き戸の背後の玄関の床には、白樺の切り株がごろごろと転がっていた。中には土産として売ろうとしたのか、切り株の断面に枝を差し込んで何かのスタンドに組み立てたものもあった。

ホール-1
先頭の黒岩は、切り株の隙間を飛び石のように踏み越えてホールに入ると、LEDランタンを高くかざした。


<廃墟サークル『薄昏(うすぐれ)』メンバー>
 黒岩(男)35歳:リーダー。
 サブロウ(男)34歳:開錠のプロ。
 (女)24歳:女子大生。
 金城(男)40歳:廃墟写真マニア。
 ホイさん(男)42歳:在りし日のウタリ山荘をよく知る元登山家。
 ミッチー(女)33歳:同、ホイさんの恋人。
 (女)29歳:廃墟情報の生き字引。
by sabu


それは、黒岩が予想していたよりはるかに広くて立派なホールだった。

目の粗い木目調の壁が2階の高さまで吹き抜け、同じく木製の天井の濃い茶色がランタンの光をぼんやりと呑み込んでいる。

左手の壁に沿って上方へ板張りの階段が続き、階段の先には隣の部屋か廊下へと続く真っ黒な空間がぽっかりと口を開けている。

階段の登り口付近の壁に一つ、正面の壁の右手に一つ、右手の壁に一つ、それぞれ次の部屋への連絡路が開いている。いずれもウッド調のドアが手前に大きく開かれている。

正面左手、階段の下の壁面にはカウンターが設置され、その奥には事務所だろうか、奥まった小さなスペースが設けられていた。

10人掛け程の大きな木製のテーブルが一基と、折り畳み式の細長いテーブルが数基、乱雑にカウンター側の壁に寄せられている。

テーブル-1
テーブルの上には空き缶やら空き瓶、額縁にカレンダー・・廃墟でおなじみのあらゆるガラクタが所せましと積み重ねられている。


「・・・さすがウタリ・・。大したものねえ・・」

切り株やガラクタを乗り越え、ガラガラと足音を立てながら黒岩に続いて部屋へ入り込んできたメンバーたち。腰に手を当てた姿勢で部屋を大きく一回り見渡すと、ミッチーが感慨深げに呟いた。


黒岩はLEDランタンを部屋の中央の床に置いて、金城から手渡された懐中電灯に持ち替えた。

各自、懐中電灯を手にして思い思いに部屋を歩き回る。

コーヒー-1
『さわやかミントジュース 350円』『あつあつ珈琲 550円』『コロッケ定食 750円』・・

ホイさんは秩序なく壁に張り出された手書きのメニューを指さしながら、ミッチーを相手その値段設定をブツブツと批評していた。

澪は壁沿いの床に落ちていた競馬の騎手のような格好の布人形を拾い上げた。どうやら手作りのようだ。3頭身に素朴な表情が可愛らしい。


金城は、色褪せたカウンターの上に鮮やかなオリオンビールの空き缶が転がってるのを目ざとく見つけた。

その光沢色と背景のコントラストを上手く捉えることができれば、かなり面白い写真になる・・

物語性に溢れた対照に魅せられた金城は、カメラを構え、最良のアングルを得るべくしゃがみこんだ体勢でファインダーをのぞいたまま後退った。

・・数歩さがると金城の背中が折り畳みテーブルにぶつかり、その上でゴトリと何かが倒れた。

ビール-1
カメラから目を外してのそりと立ち上がる金城。その目にビールの空き缶が倒れて中身がテーブル上に扇型に流れ出しているのが映った。

“こっちはキリンラガーですか・・。中身が残ったままだったんですな・・。”


気を取り直してもう一度ファインダーをのぞきかけた瞬間、金城の頭の中をたった今見た液体の画像が、得体のしれない違和感とともに稲妻のようによぎった。

「・・えッ・・!?」

衝動的に再び背後のビール缶を振り返る。


―流れ出したビールが”細かい炭酸の泡をシュワシュワと爆ぜながら”、テーブルの表面をゆっくりと這い進んでゆく―


「く、黒岩隊長・・!」

ランプ-1
ふらふらとテーブルから後ずさりながら金城が黒岩の名を叫びかけたその瞬間、凄まじい衝撃音とともにLEDランタンが微塵に砕け散った。

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