725奥多摩-155
 忌々しく思いながらも、やはりワンポイントの付け合せとなり絵も華やぐので、改札から下ったホーム壁に描かれているお化けペインティングを後方に捉えるカットを撮っていると、僕の背後で、同行者のSさんと、別の誰か達が話す声がした。振り返れば、高校生ぐらいの二人組で、ビデオカメラを携行している。

「君達、動画を撮っているの?」Sさんが、低姿勢で彼らに話し掛ける。

「そうです、YouTuberです   

 YouTuberとは、絶え間なくお喋りをしながら動画を撮るものばかりと思っていたが、一言も発することなく、黙々と、彼らは誰もいない駅構内の映像を取り続けていた。

 青木ヶ原樹海の自殺死体を弄んだとして、大炎上をした世界的に有名なYouTuber「ローガンポール」は、つい先日、ユーチューバー同士でボクシング対決をして、その様子がCNNやBCCでも伝えられていた。「つい数年前なら、動画制作者によるボクシング対決なんて鼻で笑われたでしょうけど、今は、そういう時代になったのです」ローガンポールを担当したボクシングトレーナーは語る。

 ファイトマネーは驚くべき金額であり、しかも、勝った方が全額貰えるという、AbemaTVの亀田興毅と素人対決がなんともせせこましく見えてしまうような、実に夢のある企画であった。

 死体蹴りをして、世界中から顰蹙を買いながらも、何十億も稼ぐYouTuberもいれば、息を止めるようにして、静寂の中で、廃車の錆びついたロープウェイ車両を黙って撮り続けるYouTuberもいる。

 そんな裾野の広い、一発当たれば大きい、動画の世界、Sさんを含めて、よくいろいろな人に同じような質問を受ける。カイラスさんは、何故にこの時代、本格的に動画をやらないのですかと。

 僕が動画に手を出さないというか、そもそも出来ないのは、まず、お金がかかってしょうがないということがある。

 例えば、一つの廃墟に行った場合、収録して編集を終えて流す動画は、せいぜい十五分とか三十分ぐらいだろう。視聴者は比較的低年齢層が多いので、三十分以上だと、飽きてしまうし、それ以下だと、物足りないということになる。

 人気YouTuberが毎日更新をするのは、飽きっぽい子供のためであり、動画は当たれば大きいが、若い視聴者の次なる欲求を満たすために、次から次へと動画を制作し続けなければならないという、消耗戦に陥ることになる。

 廃墟動画とて、当たれば再生回数は多いだろうが、それは瞬時に消費されてしまい、すると絶え間なく物件に行くことになり、膨大な本数を提供し続けないと、新手の参入者によって、あっという間に今の地位を譲り渡すことになる。ゲーム配信と違い、諸経費の支出は多い割に、収入はそれほどでもないだろうし、やがてカツカツとなり、身を滅ぼすなんてことになりかねない。

 僕のブログの場合は、一箇所の廃墟や廃屋に行けば、畳の下まで覗いたカットなどもあるので、連載回数は数回から、時には十数回にも及ぶ。一気に同じ場所の物件を更新し続けるのではなく、一箇所の物件は複数回のボリュームがあることから、ネタの溜め置きが可能となり、各物件をローテーションで更新してゆくことができる。大型物件の場合は、時には半年以上の長いシリーズになる。

 ブログの場合、検索をすれば、ネットの確固たる場所に記録されていて、それはサーバーが消えでもしない限り、ずっと生き残り続ける。今日も誰かが情報を求めて、数年前の古い記事だろうが、この視点のこれが読みたかったんだと、あの日あの時、身を削って血を滲ませた文章に、有難がって目を通してくれる。

 動画は、初動が高くても、瞬時に右から左へと消化されて、新たしい動画はちやほやされるが、古い動画は産廃のように、井戸の深みのような暗い場所に積み重なっていき、次の動画に存在を薄められてゆく。

 一瞬を切り取って、細密な情報を絞り出す、これが、流れ作業の動画では、見過ごされてしまいがちなので、懐具合が寂しいのなら、こういった利点を活かし、ブログの良さを追求するしかないのだろう。

 まぁ、僕が動画をやるなら、廃墟に行って撮って出しではなく、川口浩探検隊(古い!)のような、ドキュメンタリーのようであり、多少演出の加わったものになると思う。ロープウェイの車両ドアを開けると、人形が座っていたり、駅舎のカウンターに、自殺を仄めかすメモが置いてあったり、現地の不良に絡まれたりと。



725奥多摩-154
 YouTuberから距離を保とうと思い、またホームの方へ出てみることにした。

 Sさんは『もう、いい加減にして下さいよ!』みたいな険しい顔をしていたが、お互いに作品を生み出す者同士、彼らへの、僕なりのせめてもの気遣いでもあった。



725奥多摩-156
 つくづく、あの落書きには違和感しかない   
 


725奥多摩-157
 この黄昏時の精気の薄れてゆような幽かな色が、一番似合っているに違いない。



725奥多摩-158
 自由に出入り出来る、歴史博物館、「みとうさんぐち」駅です。



725奥多摩-159
 普通は吸い殻とか落ちていそうなものですが、誰か有志が清掃作業をしているのでしょうか。
 


725奥多摩-162
 下の駐車場の会話がよく通る。あれは廃墟でなんだとか。休憩中のタクシーの運転手と、プロボックスに乗った外回りの営業マンだろうか。



725奥多摩-164
 ラスコー洞窟の壁画も、元は先史時代の落書き。そのままにしておけばと、僕は思いますけど・・・



725奥多摩-165
 埼玉の山の中に住むSさんが、YouTuberだかなんだか知らないが、もう待てないと、このままズルズルいけば何時に家に帰れるのだと、僕に、今すぐ、屋上へ行こうと、袖をグイと引いてせがむ。



725奥多摩-166
 姿を消したYouTuberが本当にいないことを確認し、ようやく、最後の屋上探索に向かうために、数時間ぶりに、駅舎の外へ出ることになった   

 


つづく…

「逮捕者を出した、廃墟ロープウェイ」乱された廃墟ロープウェイ.8

こんな記事も読まれています