多摩湖-172
 最奥部の、にしきのあきらと並ぶ女性オーナーらしき記念写真のあった住居棟を見終え、ここからあとの出口まではもう僅かしか離れ部屋も残されていないということで、一息つく余裕もあったことから、カメラ用バックパックの背面チャックから、小パック入りのクラッカーを取り出し、そのバックパックのサイドメッシュからはペットボトル入のミネラルウォーターの上部分を掴んで、枠のゴムを人差し指一本で器用に緩め、上に引き抜いてボトルを取り出した。

 白いクラッカー。歯で噛み砕くと口の中でフライドチキンの滓みたいなのが増殖して息苦しくなるので、それを水で強引に喉奥に押し流す。決して旨くはないが、腹持ちはいい。こういう場には適している。

 同行者がいる場合、食事は何を持っていけばいいでしょうか?と、事前に訊かれる場合がある。なかには、食べログで周辺の店を調べておきましたよと、候補の食事処の店名をリストアップする者もいた。昼食は是非そこで食べましょうと。

 冗談でも言っているのかと思わず我が耳を疑ってしまった。途中で廃墟から出ようものなら、昼食を食べてからまた入るわけで、総合計、四倍もの(朝夕も加えて)、周辺監視のリスクに晒される危険が高まってしまう。廃墟なんていうものは本来、申し訳なさそうに頭を下げながら、そっと入って、シュッと出ていくものだ。

 食った食ったと、お昼を食べたあとにまた探索をしましょうと、ゾロゾロ入って行く際に、見られようものなら  それは朝イチと違い、当然ながら人の目は格段に多い  通報でもされてしまうと、その時点で続行が難しくなってしまい、一瞬で、そこまでの旅費と時間が水の泡となってしまうことになる。

 僕は口が酸っぱくなるほど、食事は、カロリーメイトやクラッカーのような、携行食を持って来て下さい、と言うことにしている。

 マクドナルドに寄ってバーガーを買い込もうとか、コンビニ弁当持参はどうでしょうかと、後先考えずに、言う者もいたが、廃墟という場所で食ったあと、ゴミ屑はどうするんですか?持って帰るにしても、嵩張るし、まさか捨てていかないですよね。両手は必ず空いた状態でいて下さい、その臭いは、変な野生動物を引き寄せることになりかねませんよと、無用の事故を極力避けるために、僕は嫌われる勇気を持って、同行者には強く、ことに食に関することだけは、そう言い聞かすようにしているのだ。

 今まで無事故でいられるのは、そういった積み重ねの賜物であると言ってもいいのではと思う   



多摩湖-173
 小パック入りのクソ不味いクラッカーを食べ終え、出口へ向かって少し歩くと、ファッションヘルス店を模したかのような部屋があった。

 潜入少年達の、他愛もない浅はかな演出なのだろう。仲間内では手を叩いて爆笑していただろうその場の盛り上がった情景が、容易に思い浮かべることができた。



多摩湖-174
 この部屋は狭いということもあり、ホームレスの寝床化はしていない模様。



多摩湖-175
 チェッカーフラッグがあるわけではないが、ゴールが近づいてきた。



多摩湖-177
 別の部屋の玄関横には、原付きスクーター用の純正マフラーだろうか。つまり、社外製のチャンバーへ、ここで交換したらしい。

 イキった原付きスクーター乗りのヤンキー少年達も、すっかり見かけなくなった。お金が無いのでしょう。



多摩湖-176
 幅広い募集年齢。重労働であるのに低賃金。アメリカやヨーロッパの先進国なら、この倍は貰える。僕はロスやニューヨークにかつて住んでいたことがあるので、実生活の内情をよく知っていますが、アメリカは外食をしなければ、本当に安く暮らすことができる。日本人から法外に掠め取って、その儲けたお金で国外で買収を繰り返すような、Yahooや楽天のようなエセグローバルカンパニーばかりが得をする今の世の中。日本人が、疲弊して、日本の国が益々衰退して行くのも納得。



多摩湖-178
 この時点では知らなかった。怪しいドラッグかシンナーかなとも思ったが、CMで似たようなのがあったので、トイレの芳香剤でしょうか。



多摩湖-179
 出口はもう目前。それにしても、荒れている。



多摩湖-180
 最後の部屋。



多摩湖-181



多摩湖-182
 長かった、湖畔のラブホテル巡りも、ようやく終焉が見えてきたようだ   



多摩湖-183
 アスファルトは浮き、鉄骨には錆。無用の品々が散乱をし、勝手な落書きに、所かまわずの、植物の旺盛さ。



多摩湖-185
 自家用車で来い、ということか。変なのに襲われたらたまらないから、最低でも身元保証となるような、担保の、車があれば、まだ信用できるという、考えだったのだろうか。



多摩湖-184
 緑に侵食されて埋まる寸前のような、廃墟でした。



多摩湖-186
 フロントと従業員部屋の施設を通って、外に出ようとしたら、こんな皿が二つあった。ごく最近のもののようだ。

 近所の子供が、家では動物を飼えないので、ここに来てこっそり猫の餌付けをしているのだろうか。いや、子供だったらキャットフードを買うお金もそう用意はできない。ホームレスが、空き缶を拾って捻出した僅かばかりのお金で買った、キャットフードである可能性が高そうだ。つまり、ここの廃墟ラブホテルには現役の居住者がいるという、ことなのだろう。



多摩湖-189
 廃墟ラブホテル「クイン」の敷地外へ出る。脇の森の中を進んで行ってみる。



多摩湖-190
 五分ぐらい歩いたが、果てしなかった。どこまで続くのよ、と、心細くもなった。

 ずっと森が続くので怖くなり、結局引き返すことに。



多摩湖-194
 家に帰るために、取り敢えずスクーターで道に出る。すると、向こうから、今時見かけないような、車高短のセダンがやって来て、すれ違って行った。僕は家の方向に進むべく、Uターンをした。改造車の車高短セダンの車両は、走り屋のスクーターに狙いを定められたと勘違いをしたのか、咄嗟にフルアクセル、けたたましい改造マフラーの轟音をがなり立てて、急加速で去って行った。エアロゴテゴテで、車種は不明。

 昭和の族車みたいな香りを漂わせる人が車が、まだこの多摩湖界隈には残っているのだなと、そんな車両で溢れていた頃を思い浮かべ、遠ざかるマフラー音を微かに聞きながら、誰もいなくなった周遊道路をゆっくりと安全運転で、コーナーを若干膨らみ気味にして駆けて行った   




おわり…

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