列車2-1
乗客も閑散とした午後3時の通学列車。数人の男女の学生がところどころに固まって恋や部活の話に花を咲かせていた。



「おい、キョーコ。そのコーラ、もう飲まねえの?」

タクミ(巧)が隣に座る金山越しにキョーコの手元を覗き込んで言った。

「・・うん、なんだかおなか一杯になっちゃった。」

金山の目を気にしてか、目を伏せてしおらしく答えるキョーコ。

「・・じゃ、俺にくれよ。捨てるのもったいねーじゃん。」

タクミはそう言うが早いか、身を乗り出しサッと手を伸ばしてキョーコからコーラの缶を取り上げた。

「おい!何やってるんだよ!?」

向かいのシートで西村を相手に切手談議に熱を入れていた均が、突然座席から立ち上がると、タクミに詰め寄った。

「タクミ、何やってんだ、返してやれよ。」

その顔は真剣そのものだった。

「あ?均が何でおこるわけ?あ、お前も飲みたいの。」

気になる女子の前で突然横やりを入れられて気分を害したタクミは、意地の悪い笑みで均に答えた。

こわばった顔でタクミに詰め寄る均。

伸びる-1
険悪な空気に気づいてキョーコが止めに立ち上がる。

「ちょっと均!何怒ってるの?アタシもう飲めないから別にいいんだよ。
・・タクミ君、飲んでいいよ。」


薄笑いを浮かべたタクミが缶を口に近づけた・・その時、均の右手が鋭い音を立ててタクミの手を払い、缶を車両の床にはじき飛ばした。床に飛び散る炭酸の飛沫。

唖然とする一同を前に、均はタクミを睨んだまま低い声でつづけた。

「聞こえなかったか?おれはやめろって言ったんだ。」


驚きから我に返ると、恥辱に耳まで赤くなったタクミは、立ち上がって均に顔を突き合わせ、その目をにらみ据えた。

「均、俺のコーラ。どうしてくれるんだよ!」


「そんなに大事か?」

均は睨みつけるタクミの目を正面から受けたまま、学生ズボンのポケットを探って、古びたがま口をタクミの足元に放った。床に散る少額の硬貨。

「・・ほら、何本でも飲めよ。俺のおごりだ。」

無言で顔を突き合わせる二人。

レール-1
そのとき汽車がホーム近づき減速した。


「おい、タクミ、ついたぞ。均も、もういいだろ。発車するぞ。」

金山がその場をとりなすようにそう言うと、タクミの肩に手をかけて乗車口の方へ引っぱった。ドア口でキョーコに軽く微笑みかけて、肩をすくめてからホームへ降りる。

タクミもしぶしぶと金山に従った。

「おい、均。今日の事、覚えておけよ。」

怒りのあまり上ずり気味のタクミの捨て台詞は、途中で閉じるドアに遮られた。


汽車が動き始めると、それが合図かのようにキョーコが均に向かってまくし立てた。

「あのさ、アンタってほんっとに、馬鹿なの!?」

床に散らばった小銭を拾いながら、キョーコの文句を黙って背中で受けとめる均。


ようやく全て拾い終えると伏目がちにキョーコに向かい、弱気に呟いた。

「だ、だってよ、あれはお前が口を付けたジュースだろ、それを・・ふ、普通ありえないだろ・・?」

赤い顔でどもりながら必死に言葉を探す均。

「はぁ?何が・・?」

先端-1
列車が駅に入り、車両のドアが開いた。

「だって、あいつが飲んだら、あいつとお前が・・・その、か、間接・・」

「かんせつ・・?」

首をかしげて均の顔を無邪気に覗き込むキョーコ。

「間接・・・間接・・・あー、もう!・・・関節が、関節が痛いんだよ!
・・・柔道で肩ひねったんだ!」

均は顔の赤さを隠すように大きく頭を振りかぶると、腕をぶんぶん振り回しながらホームを駆け出した。

そんな均の後姿を見て、片手でひじを支ながら人差し指を頬にあてて首をかしげるキョーコ。

「・・あんた、ノーテンパーになったんじゃないの!?」



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