廃墟ラーメン屋-60
 選択をしたのかもしれない、最後の場所、どさん子ラーメン店の化粧室。

 行き場を失った彼にとって、ここが最適の場所であるように思われた。

 遊びで来る奴らが、一番奥まったトイレまでは、そう覗いてみようとは思わないだろうと考えられるからだ。

 本人も、できれば、腐敗が進行中で異臭を放った状態を、盛大には晒したくないであろう。じゅうぶん乾燥し、ミイラ化してから人の目に触れられることが、本望だったのではないだろうか。

 であるにしろ、でないにしろ、何かその痕跡が、まだこのトイレには残されているはずである。

 ロープかもしれない、床に描かれた、人体型のチョーク痕かもしれない。或いは、拭いきれていない、どす黒くなった血痕だろうか   



廃墟ラーメン屋-63
 化粧室のドアを開けようとする時、僕はなぜかドアノブを丸ごと掴もうとせずに、UFOキャッチャーの不安定なアームのように、指の先だけでドアノブを掴み、力なくワナワナと抵抗に抗いながらも、最後までノブを回そうとした。

 そして、回しきった。了解を告げるような、ガチャッという音がした。

 ドアは、音も無く開いた。



廃墟ラーメン屋-62
村村と
くり出す
ねぷた
岩木


明石

 化粧室に入ってすぐ、吸い込まれるようにして視線を注いだのが、一番奥の壁に飾ってあった、この額の絵。

 元店長の出身地、東北の青森を一句詠んで描かれた絵であろうか。

 近寄って撮ったように思われるかもしれないが、実際は、化粧室内の荒涼とした得も言われぬ重苦しい空気に怯んでしまい、僕の脚は石膏のように固くなり動けずに棒立ちとなってしまっていた。

 この写真は、化粧室のドアを開けてすぐのその場の開口部から、望遠で撮ったものなのである。

 心霊とかはまず信じない僕だが、このトイレ内に踏み込むことはなぜかためらわれたのだ。



廃墟ラーメン屋-61
 亡骸が横たわっていたか、または、ぶら下がっていたような跡はあるだろうか。

 日本酒の一升瓶や飲料のペットボトルがやけに多い。

 天井からぶら下がる電灯の頼りない線では、人ひとりの体重を支えるのは無理に思われた。

 警察の鑑識班が検分を行ったような形跡は見受けられないようだ。ただ、散乱するごみ類を意識的に退けて、人がひとり寝られるスペースを設けたような意図的な床の空白部分は確認出来る。

 大便器は水垢が黴びて埃が積り混じって変色して汚泥がこびりついたようになってはいるが、それ以上の何かがあったわけではない様子。

 夜捨て人が寒さと人影から身を守ろうと、この化粧室の冷たい床で寝ていたこともあったかもしれない。吐く息も白い寒い冬の夜、身体の中から温まろうと、ひとりで酒盛りをした可能性もあるだろう。

 この状況証拠から察するに、ここを最後の場所に選んだことは無いように思われた。

 限りなく少ないながら、彼にだって選択肢はある。地球上に生を享け生まれてきて、永遠の眠りにつこうとする時、ただでさえ息の詰まりそうな廃墟の中のさらに鬱々とした掃き溜めのようなトイレの中、人間の尊厳を自ら踏みにじるような行為をしてまで、ここを敢えて選ぶ人間がいるだろうか。

 自然死ということも考えられるが、警察が入ったということを考慮すると、いまだ雑然と放置されたままのここではない、という可能性は高そうなのである。


 霊など嘘だ、取り憑かれるとかは全て詐欺師の妄言であると、常日頃から標榜している僕だが、結局、この場を支配する陰鬱とし総毛立つようなたただならぬ気配に始終圧倒され続け、ただの一歩も、化粧室内に入ることは無かった。

 人間の根源的な呼び覚まされる恐怖、原始の時代から脳の一部の領域に埋め込まれた、死を感じ取る手立てとしての恐怖、それが、呼応したとでもいうのであろうか   



廃墟ラーメン屋-59
 化粧室のすぐ横。

 従業員の休憩室か、倉庫か。

 倉庫であったなら、スチール製のラックぐらいはありそうだが、それも無い。

 ここにも寝具のようなものがある。

 トイレで酒盛り、従業員の休憩室で睡眠と、使い分けをしていたのかもしれない。何か便宜的な理由でもあったのか。

 ここにも、死臭は漂っていないようが気がした。



廃墟ラーメン屋-28
 ここからは、厨房の中を進んで行くことになる。



廃墟ラーメン屋-30
 客席とカウンターからの死角。



廃墟ラーメン屋-32
 ゴキブリのように脂ぎっていて黒い見るからに不潔そうな厨房が、その全貌をあらわす。



廃墟ラーメン屋-31
 一歩、



廃墟ラーメン屋-33
また一歩、



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廃墟ラーメン屋-36
 使い込まれた、中華鍋・・・・・・




つづく…

「厨房裏保管庫のデッドスペース」遺体の発見された廃墟ラーメン屋に行って来たよ.5

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