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 キョーコさんの見た”へんな夢”というのは、参院代表質問の時にもみせる、狂人が憑依したかのような、怪演ぶりがひときわ光っていた山本太郎の生徒役が強く印象に残る、あの映画「バトル・ロワイヤル」のようでもあり、または、カットニスことジェニファー・ローレンス主演の「ハンガー・ゲーム」の方が近かっただろうか。

 現実にはあり得ない設定ながら、キョーコさんの学校の実在する人達が参加をする、ある島を舞台としてサバイバルゲームが繰り広げられる、彼女いわく「おそろしいゆめ」をみてしまうことになる。

 彼女は言った。「もう二度とみたくない夢だった」と。

 最近では、ツイッター上で、普通の人が何かをする人になりたくて、「ホームレスが牛丼を食べようと松屋に入ろうとしていたが、所持金が無いのか入店せずに去って行った。私に恵んであげられる勇気があったら・・・」などと、ネットに爪痕を残したいがために軽はずみに思わずついてしまう嘘のことを「嘘松」と言うらしい。

 キョーコさんの場合は、自分しか読まない日記帳であるし、しかも、何冊も書いておきながら、最後にはそれらを封印するかのように、家に置いたままにして、何処かへ行ってしまったのだから、他人から注目を浴びたいがためにつく”嘘松”、女性アイドルがラジオのフリートークネタに困って話すような明らかに構成作家が考えたような嘘っぽい夢ネタなどとは大きく異なる。嘘偽りのない、本当の中学三年生の体験した話がここにはこれでもかと書かれていることはもうご承知の通り。

 僕がその日記を拾って東京に持ち帰らなければ、北の最果にてひっそりと展開されていた、いち少女の小さな物語など、やがて土に埋もれてしまい、このように表面化することも無かった。再度、念押しするようにしみじみ思ったが、本当に、やって良かったなと、自分のしでかしたことを正当化するわけではないが、土の藻屑と消えるなら、ある意味、救われた、助けることができたのではないかと、今では多少  背筋を伸ばして、へりくだったりせず、問われれば  言い返すことができるようになってきているというのが、正直なところなのかもしれない。

 そして、愛する我が弟、豊ちゃん。

 初期と、中盤ぐらいだけに少し出てきた程度で、彼については多くは言及されていない。お婆ちゃんが豊を子守りしているとか、キョーコさんがあやしているような表現があったので、まだ言葉の喋れない赤子であると予想されていた。が、今回、豊ちゃんの誕生日を迎えるにあたり、キョーコさんの口から、豊ちゃんの衝撃の年齢が発表されることになる。

   でっ、ということは、お婆ちゃんと家にずっといるのは不自然だし、キョーコさんが「豊も、もうX歳になったのね」の発言も実に不可解なのである。

 彼女の口より多く語られることのなかった、弟の豊ちゃん、もしかすると、体と精神年齢の乖離が著しく激しい、何か特殊な事情を抱えた人なのかもしれないという疑念が、生じてきたようなのであった   



9a
 1978 年 . 12月 9 日   (土)  *   1 1: 5 0

今 日 は 休みで し た 。  頭 が 痛 い の で  お昼まで
寝てた の 。  受験生 が こ んなの で  よ い の か ?
へん な 夢 を  見て しま っ た。  ほ んと う に へ ん な ゆめ  .
あ の 夢  二度 と 見たく ない  ひや あ せ が 出 る ほ ど  。
戸田 さ んと . 均君 と が 出て く る の  ,  あ る  島 で   .
私 は なぜ か 逃げ て い た  先生 は ひ っ し に な っ て .  お にの
よ う な か んじ . . . .  .  お っ か な か っ た  .  こ わ か っ た 。
私 は 逃げ た  先生は  ほ ん とに お そ ろ し い .  .. そ し て
私 を つ か ま えよ う と  お っ て く る .   私 は 舟 の と こま で
 行 こう と が ん ば る  先生は 行か せ な い よう に  じ ゃまする.
先生は 本 気だ 。 私 は い っ しょ う け ん命 に走って逃げた.
 さか をの ぼ っ たり  . ひ っ し に 先 生 を お し の けて 逃げ て .
 もう 死 にものぐ る い だ っ た 。  そ して 舟 にのり
 本土 の 方 ( そ の 島 の ** む こ う にあ る 陸 が その島 の 本土)
 へ 私は 逃げ た  .  先生 は ま だ  しつこく  一歩 お くれて
 舟 にの り あ と を お っ て きた .  私 は ** ほ んど についた
  ら . す ぐ に 身 を か く し て  . 先生か ら の が れ た.

土曜の昼過ぎまで呑気に寝続ける受験生。少し前なら受験生という意識はまるでなく、妄想につぐ妄想に明け暮れて何もしなかったのだから、受験生という立場を自覚するという意識が芽生えただけでも、大きな進展があったと見るべきなのだろうか。

>へん な 夢 を  見て しま っ た。  ほ んと う に へ ん な ゆめ  .

>あ の 夢  二度 と 見たく ない  ひや あ せ が 出 る ほ ど  。

寝汗でもグッショリとかいたのだろうか。キョーコさんは、うなされるような夢を見てしまう。

>戸田 さ んと . 均君 と が 出て く る の  ,  あ る  島 で   .

フロイトなど知るはずもないキョーコさんは、むやみに夢の中の登場人物や舞台を語るが、きっと、日頃の思うところが、夢に反映されているに違いないだろう。戸田さんに均君、どちらも最近一悶着あった相手である。

>私 は なぜ か 逃げ て い た  先生 は ひ っ し に な っ て .  お にのよ う な か んじ . . . .  . 

ある島というのは、キョーコさんが閉じ込められている、そう、北海道のことを指している(無意識に)のではないだろうか。キョーコさんは北海道から出たい、道外に就職したい、別天地なら、しがらみも過去の自分を知る人もいない中で、殻を破った新しい自分を見せられるかもしれない、そう思ってそうだ。先生、私を蹴ってでもいいから、津軽海峡の向こうへ、放り出してくれないかしら!と。

>私 は 逃げ た  先生は  ほ ん とに お そ ろ し い .  .. そ し て私 を つ か ま えよ う と  お っ て く る .  

キョーコさんは逃げたと言うが、言い方を変えれば、逃げたかったのかもしれない。先生は追って来るようで、実は、先生には追って来て欲しい。捕まえようとしているのではなくて、本当は突き放して欲しい。怖い先生に無慈悲に(むしろそれが希望)ドンと背中を押され、津軽海峡を飛び越し、下北半島の突端ぐらいまで、、とでも。

>私 は 舟 の と こま で 行 こう と が ん ば る  先生は 行か せ な い よう に  じ ゃまする.

キョーコさんは青函連絡船のところまで行こうと奮闘する。先生というのは夢の中のあくまでも象徴的な存在で、親の経済状況や世間体が、函館まで行くのを阻んでいる。

>先生は 本 気だ 。 私 は い っ しょ う け ん命 に走って逃げた.

北の果ての酪農家の、お父さんに、お母さん、可愛い我が娘が「東京で就職する」と言おうものなら、本気で反対するだろう。上のお兄ちゃんだけでじゅうぶん、おまえはこの町にいなさい。東京なんて物価だけが高くて人は冷たいし、住む場所じゃないよ。

それでもキョーコさんは一生懸命、逃げる。東の方へ   

>さか をの ぼ っ たり  . ひ っ し に 先 生 を お し の けて 逃げ て . もう 死 にものぐ る い だ っ た 。

狩勝峠をのぼったり、降りたり、もう、死に物狂いだった。

>そ して 舟 にのり 本土 の 方 ( そ の 島 の ** む こ う にあ る 陸 が その島 の 本土) へ 私は 逃げ た  . 

そして、青函連絡船「八甲田丸」あたりに乗船し、島(北海道)の本土  つまり、本州のことだろう  へキョーコさんは逃げた(辿り着いた)。

見事に僕の夢判断がズバリと怖いぐらいに当てはまってしまったが、何もこれは『そ して 舟 にのり 本土 の 方 へ 私は 逃げ た』の部分を先に読んでから、キョーコさんの夢の分析をしたわけではない。順に読み進んでいき、行き当たりばったりでやっていたら、偶然にもこのような展開になってしまったのである。地方に住んでいればことに中学生ぐらいの時なら誰しも都会への憧れはあるだろうから、キョーコさんが本土に行きたいということ(潜在意識下で)を的中?させたのは、何も特別なことでもないと言えばそうなのかもしれない。

>先生 は ま だ  しつこく  一歩 お くれて 舟 にの り あ と を お っ て きた .  

先生に内申書や推薦状を良く書いてもらいたいという願望でもあるのだろうか。海を渡った先(本州)でも私の助けになって、見守っていてねと。

>私 は ** ほ んど についた  ら . す ぐ に 身 を か く し て  . 先生か ら の が れ た.

東京でも、仙台でもいい。本州の大都市が希望の地。先生の紹介状で就職が出来たなら、もう、私ひとりでやっていきます。先生、ありがとうございます。後で御礼のお手紙でも書かしてもらいます。ではさようなら。



9b
 こ*の 夢 の は じ ま り は た ぶ ん  .  先生 と 均 君 が 勉 強 すれ
  だか な ん だ  か  と  い っ  て  . .. .  . . . .  . そんな か んじ か な  ?
  私 ノイ ロ ー ゼ に か か っ たの か し ら . 考 え すぎ かな ?
  で も 社会 は お ぼ えな い と . . . . .  _      _      _      .。
  明日 は  歯科 検診 だ  。  豊 の たん生日 だ .
  歯科検診 に  東並 木 も  来 るの か な ?  (歯科
  検診 を並木 で や る な ら) 気に し な い  気にし な い  .
  豊のた ん生日 だ け ど な ん にも 出 来 な い なあ
  何 しよう?  今月  史之舞が 帰 って 来 た 。
  あ とは べ つ に な し  .
(社)石 油 輸出 国機構  .  フィ ン ラ ン ド     都  ヘルシンキ ,
  もうね る .  .  .  .  .      .    お や す み  。

夢の始まりは、先生と均君だった。勉強面では先生、数少ない友達の中でも比較的会話が多いのが、均君だ。実際に学業と人付き合いで頼れそうというのがこの二人だというのは、日記の文面からもよくわかる。金山君や宮脇君は、存在感が希薄な、いうても憧れの人でしかない。

> 私 ノイ ロ ー ゼ に か か っ たの か し ら . 考 え すぎ かな ?

死に物狂いで先生から逃げて島を脱出するという、映画みたいな夢をみて、自分の頭の具合を本気で心配をしてしまう、キョーコさん。周囲に話せないと、こんなことでも思い悩んでしまう。

>明日 は  歯科 検診 だ  。  豊 の たん生日 だ .

歯科検診のついでに、弟である「豊」の誕生日を思い出す、姉。弟に関する注目度はとりわけ低い様子。

>豊のた ん生日 だ け ど な ん にも 出 来 な い なあ  何 しよう?  

折り紙で作る、輪っかの鎖みたいなのや、手作りバースデーケーキ、出し物の手品、なんていうのが用意されていないことからも、まだ話せない歩けない幼子という可能性がじゅうぶん考えられたが・・・。

>社)石 油 輸出 国機構  .  フィ ン ラ ン ド     都  ヘルシンキ ,

一口勉強法も復活を果たし、心機一転、受験勉強に邁進する破竹の勢いをみせ始めたかにみえた、キョーコさんだった。



10a
10b
 1978 . 12 . 10  (日)    1 1:  4 2

  今日 は * 日 曜日  で   した。 だ け ど 今 日 は 学校
  で した .   歯 科 検 診 が あ り まし た。 東並木 の
  *バ ス が  もう来ていた。 廊 下 を  あ る い て . 音*
  *楽 室 に 行 く と . . .。 東並木 の 人 々 は いたので す.

 あの 何だ か 君 も い た し .  菊 地 さ んも  .中村君 も いた。
中村君  . リウ マチ が 痛 む  んだ  っ て サ! ア ー ホカ?
 * 1 5才 な の に リューマチ だ   っ て  ..  _  _   。アーホカ?
 そうで しょ .  宮脇君! ( あ と べ つ に コレと いっ た こ とは なかった。
 今日も しつ こ く 史之舞 は いま し た。
 今日は  豊 のた ん生 日 で した。   ケー キ 食べ ちゃった.
 五もく ご は ん  うメ か っ た。 豊も もう  14才 だってサ!
早 いも んだ ね え _  _    ・           ・ .。
明日は  ま ち に またな い . 英語 の テス ト が あ る .
 う ~~~ ~   . . . .  6 0 点 とる** **自信 が
ない 。  ド ー スル  !  ド ー ス ル !*
 社会が 悪か っ た せい で  英語 に  ズ シッ と かか って
 くる ! う ~~~~~  ん た す け てよ  英 語 好き に
  な ら なきゃ  .  宮脇君たすけて         !
 明日 の 英語 の テス ト  6 0 点 異常で あ ります よ う に
たのみます  .  .  .  .   これは 自分 自信 の こ と よ !
それで は もう そろ そろ  ねます か  ?
 おやすみ なさ い. 宮脇元弘 君  !山角君 . 金山 君.
 ウシシシシ ! 宮脇君  お やす み ♡  .

日曜日だったが、歯科検診のために土曜日と振り替えで日曜日に学校へ行かされる、キョーコさん。地域の大きい中学校でまとめてやるせいだろうか。たかが歯科検診のために、バスまで用意されていた。

>あの 何だ か 君 も い た し .  菊 地 さ んも  .中村君 も いた。

東並木の人々、菊池さんに中村くんもいた。あの”何だか”君というのは、さして興味もない、均君程度の人のことなのだろう。要は東並木版の均君。

>中村君  . リウ マチ が 痛 む  んだ  っ て サ! ア ー ホカ?

>1 5才 な の に リューマチ だ   っ て  ..  _  _   。アーホカ?

中学三年生が爺さんじゃあるまいし、リュウーマチだって?彼女は 笑いや驚きさえ通り越して、呆れて情けなくなり、蔑みの笑みを浮かべ、嘲りの言葉を内面で中村君にぶつけたようだ。

>今日も しつ こ く 史之舞 は いま し た。

とうとう妹から、しつこい扱いを受けてしまう、史之舞さん。お見合いが自業自得でご破算となり、それからというもの、就職をして一人住まいというのに、いい若い女が、毎週末ご飯目当てにたかりにやって来るというのだから、受験生の妹もさすがに煙ったくなってきたに違いない。妹としても近所の人の眼が気になるのかもしれない。お姉ちゃん、ブラブラしてないで、早く結婚してってば! と。

>今日は  豊 のた ん生 日 で した。   ケー キ 食べ ちゃった.

>五もく ご は ん  うメ か っ た。

お店で買ったのかお母さんのお手製かはわからないが、慎ましい家ながらも、バースデーケーキは用意されていたようだ。キョーコさんはどうみても100%受け手なので、彼女が弟のために丹精込めてつくったとかではない模様。

誕生日に五目御飯。時代のズレと地域のズレはあるが、なぜか僕の家でも、誕生日の時は決まって五目御飯がでた。友達の誕生日に呼ばれて行った時も、勿論、チキンとかも出されたが、大概五目御飯が用意されていたのを、特に疑問がわくわけでもなく、自然と受け入れていた。そのことについて、誰かと後年、話し合ったことも共感し合ったこともないが(漠然とそういうものだと思っていた)、今ここで、”バースデー五目御飯”と邂逅し、しかも、北海の地の昔の日記の中の話という、僕の地域の風習のようなものとどういう関連性があるのか、いささか興味がわいてきたが、きっと、その二つの土地を結びつけるものは、テレビのドラマあたりであり、ドラマの中のお誕生日会に庶民ながら派手な演出のアイテムの一つとしてテーブルに加わっていた五目御飯が主婦の印象に強く残り、そういったフォーマットが時代を越えて根付いていったのではないかと思う。

>豊も もう  14才 だってサ!早 いも んだ ね え _  _    ・           ・ .。

口を開けば「バブーー」と叫びながら右手に持ったガラガラを揺らす、豊ちゃんはよちよち歩きもまだの、乳飲み子だとてっきり思っていたが、なんと驚くことに、14歳だという。この年令で、お婆ちゃんが子守りをしていたというのだろうか。キョーコさんが15歳だから、一つ下。中学二年生ということになる。だったら、同じ中学に通っているはずで、朝だって一緒に通学をするはずである。たった一つ下の弟なら、彼の年令や学年は嫌でも自分の身近についてまわるわけで「早いもんだねぇ」と呑気なことにはならないはず。年の離れた赤ん坊ならともかく。

狂気じみた猫のモノマネを寝ずにやり続けたり、性行動の赴くままに不倫をして、不倫を解消することなく、何食わぬ顔でお見合いを決行したりと、常軌を逸した行動の目立つ姉の史之舞さんが、精神を患っている、そんな噂もチラホラと聞こえた来た時もあったが、そのこと(噂)は、極めて情報の少なかった、弟である、豊ちゃん、いや、豊君のことであったようだ。

ドラマ「ひとつ屋根の下」の開かずの間のように、このずっと閉じられた部屋、何だろう?と不思議に思ったノリピーこと酒井法子が、ある日、その部屋から出てきた車椅子の少年「山本耕史」と対面するような、寝たきりとか、部屋から一歩も出られない状況なのか、歩けるけれど、体つきは少年ながら、精神年齢は幼児程度であるのか。事の詳細は、これからのキョーコさんの描写を待つしかない。

>た す け てよ  英 語 好き に  な ら なきゃ  .  宮脇君たすけて         !

キョーコさんが、頻繁に日記の中で心の恋人たちに助けを求めることが多くなってきた。これは何も、ただふざけているのではなく、いざという時のために、彼らと、一対一で対峙した時に、スラスラと言葉が出て来るように、今から、訓練をしているのだと思う。肩を張ることなく、身構えるでもなく、自然と金山君や他の男子達と会話がはずみ、場を仕切りさえもした、あの奇跡の、修学旅行のトランプの夜。あれでいいんだ、自然体の私を皆、受け入れてくれていた。今は、相手を強く思うばかりに、重苦しい負のオーラで人を遠ざけてしまっている。なら、普段から自然に接して馴れておこうと、日記の中で涙ぐましい努力をしているのだろう。

>ウシシシシ ! 宮脇君  お やす み ♡  .

今晩の心を解きほぐす相手は、宮脇君だったということ。普段から、助けてよ、お早う!、おやすみ、と例え日記の中でも言葉を交わしておけば、不意に駅の待合室で二人っきりで会った時などに、臆することなく、接することができるのだろうと、いたいけな少女なりの、考えあってのことではないだろうか。



 ここのところ宮脇君推しだった理由は、やはり金山の不細工顔がどうしても気になる、ということらしい。笑いネタで弄って、顔が不味いといいながら「でもそんな金山が好き」と自分を納得させてきたが、そこは十五歳の女の子、同じくスポーツマンで、金山君ほど不細工じゃないまだマシな顔の、宮脇君の方がいいかなと。顔だけだったら、山角一番だけど、足が遅いし、いやらしいときている、といった問答を繰り返す。

 恋人選び以上に、志望高校にもキョーコさんは真剣だった。

「西澤になんとしても入る。南もいいけど、出来たばっかの高校って、設備は新しいかもしれないけど、歴史は無いでしょ。例えばあの高校の文化祭は、有名なファッションショーがある。新設校って、そういうのがないからね」

 この時期になって、いよいよ、恋より進学を優先し、着実に輝ける未来へと前進しつつある、彼女であった   
 

 

つづく…

「舵を切った少女」実録、廃屋に残された少女の日記.89

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