回廊ペンション-46
 タリアセンとは、建築家フランク・ロイド・ライトが設計をし、彼の弟子達とともに建設をした設計工房、及び共同生活のための建築群のことを指す。

 例のHPにフランク・ロイド・ライトの設計思想を受け継いでいるなどの言及があるが、ロイドに心酔しているというより、その威光にあやかり、自分(デビュースのオーナー)の作品をフランク・ロイド・ライトの作品の末席にでも並んでいるような印象を持たせたい、つまり、言葉は悪いが、印象操作をして、高名な建築家の名を利用することで、無価値な物を少しでも良く見せたいという、彼なりに頭を振り絞った成果であるのか。

 「タリアセンの間」、どんなものか、期待半分、ドアノブに手をかけ、ゆっくりと左に回すと、ガチャッという金属音がしてロックされている気配もないようなので、額の汗が気化熱で冷やされるぐらいの風圧が起こるほどの小気味よい勢いで、ガッと、扉を手前に開いてみた。



回廊ペンション-47
 涼風が額と頬を撫でつけて心地良かった。一瞬だけ汗が引いたような気がした。

 畳の上には名も知れぬ無数の小さな虫の死骸だらけ。窓は締め切ったままだし、ドアも同様である。無から発生するわけもなく、その端緒は何だったのだろうか。

 一切の家具や備品も無い、畳と虫の死骸だけの部屋。

「ソワールデビュース相模湖クラブはまだ元気に営業中ですよ」という、オーナーの説明も、これでは苦しい言い訳にしか僕には聞こえてこない。



回廊ペンション-48
 自分で全てを見るまでは、あのホームページでの発言を否定的に捉えるような事はやめておこう。

 先走る気持ちを抑えながら、一段、また、一段   



回廊ペンション-49
 露天風呂に到着。

 左は「モーツァルト広場」。

 実はこのデビュース名物の露天風呂、ある国立音大の教授を、デビュースオーナーが、裁判沙汰まで追い込んだという、曰くつきなのである。


 まだペンションデビュースがかろうじて営業中だった頃、あのHPをみてよく泊まる気になったなと、宿泊する側の感性を疑ってしまうが、どういった経緯からか、とある音大教授とゼミ生らがソワールデビュースにやって来た。

>ぎっしり宣伝文句の書き込まれたそのチラシは、期待というより、妙に不安を抱かせるものでした

あのHPをみて、不安を抱いていたものの、一応納得の上で来たのは間違いない様子。

>道ばたに、荒れ果てた塔のような建物

音大教授が、ペンションデビュースの外観を見た時の第一印象。

>まさかと思って目を凝らすと、それが、かの超長い名前のペンションなのです。

ネットのホームページにこれでもかと知り得る材料はふんだんに用意されていたはずだが、きっとデジカメの画質が悪いだけで、ここまでとは、思っていなかったのかもしれない。

>入り口は雑然としていろいろなものが散乱しており、その中に、犬がつながれている(のちに、白百合にちなんで「リリーちゃん」という名前であることが判明)。ちょっと離れたところには、 ヤギだのウサギだのがたむろしています

廃墟以前に既に入り口付近にはガラクタなどが散乱していた様子。犬はともかく、ヤギやウサギまでいたらしい。

>案内されて螺旋階段を上がっていきましたが、どうも掃除したことがないようで、あちこち散らかっており、べとべとしている。なんとも不潔なペンションです

デビュースのオーナーも、せっかくもてなした後で、こんな辛辣なことを書かれたら、営業妨害であると、訴えてやろうという気にもなってしまったのだろう。

>屋上のモーツァルト広場に上がってみました。しかしゴルフ道具だの何だのが足の踏み場もないほど散らかり、湿気がじめじめ。

今と変わらない・・・

>このどこがモーツァルトなの?手前にお風呂場があり、それが露天風呂だと認識しましたが、 とてもこれでは、入る気がしません。

まともな感性の人であるとしか言いようがない。

>すると学生が言うには、さっきまで苔むした感じだったのが、マスターがゴシゴシ掃除して、「さあどうぞ」と言われたのだという。 

しばらく誰も利用することなく苔むした露天風呂を、あのデビュースオーナーが学生の目の前で、慌ててゴシゴシと掃除をやりはじめた。

>マスターはにこやかな人だが、この神経はどうなっているのだろう。

この音大教授も問題のある人らしく、某掲示板で晒されていたようだが、彼をしてオーナーには憤慨している模様。

>お客はきっと久しぶりなのではないか。

それは間違いないし、宿泊施設としての稼働実態はほぼ無いと思われる。

>ずっと前に来た客は、もしかするとヤギやウサギの姿になってしまっているのではないか。 そう思うとますます不安にかられる、私なのでした。

まるで、デビュースオーナーが拉致監禁でも行っているような行き過ぎたブラックジョークであり、この一節がオーナーの怒りに火をつけ、訴訟騒ぎに発展したのだろうか。

>次の問題は、部屋の電気がつかないこと。

>やがて誰かが、押し入れのふとんをどけたところにスイッチがあることを発見

>ちなみにこの部屋の名前は「月光の間」といい、女の先生の泊まられた隣の部屋は、 なぜか「ロダンの間」と名付けられていました。

シュールさを語る、音大教授。 

>月光の間はガラス張りで、雨戸がない。 レースのカーテンは付いているが、その長さは、ガラスの幅の6割程度にしかなりません。 

>朝になり、異様な暑さが部屋に満ちています。クーラーは作動しているのに、言いようのない暑さで、寝ていられない。

>ガラス越しに真夏の日光が早朝から照りつけて、事実上、日なたで寝る形になっていたのです。あえぎながら起き出し、部屋の表札を見直すと、 昨夜はたしか「月光の間」となっていたこの部屋が、今朝は「日光の間」となっていたのでした(うそ)。

駄文を挟みながらも惨状を書き綴る。せっかくの教授とゼミ生の親睦の機会が、不衛生で設備に不具合の多いデビュースペンションにより台無しになったのなら、嘆きの一言をネットの日記に書きたくもなるのは理解できるところである。


 なお、この音大教授自身が、楽譜転載疑惑を以前からネット上で指摘されており、このようなデビュースに批判的な内容の日記を公開したことにより、楽譜転載疑惑を追求していた人らから、「あんたが言うな」「名誉毀損だろうが」と、付けけ込まれることになった。挙げ句に、楽譜転載疑惑追求メンバーの一人がデビュースオーナーに知らせたのか、この日記がデビュースオーナーの知るところとなり、訴える訴えないの騒ぎへと発展。日記はその後、削除されたそうだ。



回廊ペンション-50
 客の目の前で磨き出したという、露天風呂へ   



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 苔の培養液みたいになっている。

>すると学生が言うには、さっきまで苔むした感じだったのが、マスターがゴシゴシ掃除して、「さあどうぞ」と言われたのだという。

 当時、ここまででは無かっただろうけど、音大教授のボヤキも至極真っ当か。



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 モーツァルト広場。

>このどこがモーツァルトなの?

 デビュースオーナーの圧力に屈した音大教授の恨み節が聞こえて来そうな気が・・・



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 二台ある洗濯機には学生達も重宝したのではないか。



回廊ペンション-54
 周辺環境は素晴らしい。それだけはオーナーも胸を張って言えるに違いないだろう。



回廊ペンション-55
 屋上から一気に一階の下に来た。崖ぎわに建っているので、正確にはここが一階になる。さらに地下室が存在する。



回廊ペンション-56
 地下室を探索し終えた後は、いよいよ、目の前の窓の外にひろがる、一触即発の、空中回廊へと乗りだすことになる   




つづく…

「危険!ソワール建築を行く」空中回廊のある、廃墟ペンション.6

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