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 長い間、廃墟として放置されていた「行川アイランド」が、装いも新たに「(仮称)勝浦シーサイドパークリゾート」として生まれ変わる計画が進行中であることが先々月の8月に報道されたが、ついに、2020年春に本格工事着工の運びとなることが、正式に決まりそうなのである。

 行川アイランドの跡地は国定公園内にあるため、開発には県の決定が必要だが、8月29日の県環境審議会自然環境部会でおおむね了承されたという。

 今後は環境審議会から知事への答申を経て11月にも正式決定がなされる見込みであるとのこと。

 また一つ、かけがえのない皆の思い出が染み込んだまま、封印されてすやすやと眠り続けていた、永遠かに思われた廃墟が、終わりを迎えてしまうということなのである。

 こう言いながらも、僕はこの「行川アイランド」はてっきりまだ営業中なのかと思っていた。

 聞けば随分前の2001年8月に閉園していたようだ。

 さほどニュースで騒がれることなく、ひっそりと廃業したのだろうし、東京の西に住む僕のような人間にとって、千葉ローカルのアミューズメント施設はあまり関心がないということもあり  逆もまたしかりだろう  「行川アイランド」という存在の記憶は子供の頃から今日まで数十年間ぐらい、脳の奥の引き出しに保管されたままだった。

 子供の頃に行ったことがあるのかといえば、そうではなく、朧気だが、ピンクのフラミンゴがたくさん出てくる「行川アイランド」のテレビCMに結構食いついていたような印象が僅かに残っている。

 僕の生きてきた歴史の中で「行川アイランド」との関わり合いは極めて薄いものであるけれど、海辺の一角を占有したり、広大な敷地が野ざらしになったままの廃墟は昨今では珍しいということもあり、本格的な工事が着工される前に、千葉県の正式な開発決定が下される11月以降は施設の警備も強化されそうなので、、、いや、その前に突然ということも考えられる。そんなことは今まで何回もあって苦汁をなめさせられ続けてきた。

 今が最良の見頃なのではないかと、まるで中古車を検討中に目ぼしい一台があったけどでも踏ん切りがつかず「もうちょっと考えてみたい」と店に告げたら「他にお買い上げのお客様がいらした場合お売りしてしまうことをご了承下さい」と言われた時のような、横から奪われそうで気が気じゃない日々を送るのは堪えられそうにないので、思い立ったが吉日、遠路霞むような千葉の房総半島の果て「行川アイランド」の廃墟まで、行ってみることにした   



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 地元の駅から早朝5時の始発に乗り、幾度も電車を乗り換え、この「行川アイランド駅」に到着したのが、朝の9時過ぎ。
 
 実に長かった。

 途中、東京駅から京葉線に乗車。

 車内は東京ディズニーランドに行く学生っぽい子ばかり。

 限界までスカートの短い制服のJK二人組がいたが、校章のバッジなど無し。平日だったので、四割増しぐらいで可愛く見えるJK制服を着て注目を浴びたがりの、フリーターといったところなのだろう。本当にそんなことをやっているのがいて呆れてしまった。

 いつもの僕の廃墟潜入の正装である、それでも作業着の中ではイカしているブルゾン作業着に、バートルのスキニー風カーゴパンツの出で立ちは、明らかに夢の国行きで華やいだ車内では浮いていたに違いない。

 隣に座る老婦人からもし声を掛けられて「私は廃墟の行川アイランドに行くんです」とは、口が裂けても言えそうにない雰囲気であった。



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 生まれてこの方「なめかわあいらんど」だと思っていた。そうずっと頭の中で繰り返し読んできた。

 僕の周囲で一回も話題に上ることはなかったから、注意もされず、恥をかくことがなかったのは幸い。



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 無人駅。

 下車したのは僕の他にお姉さんが一人。

 『まさか、廃墟仲間ですか?』と弱めのアイコンタクトを送るが、彼女は自分以外に下車るす人がいて驚いたような顔を一瞬したかと思うと、逃げるように足早に行ってしまった。

 普段の通勤で見慣れた乗客以外がここで降りたら、不審者と見られてもしょうがない。



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 ピンクフラミンゴの名残りがあった。

 フラミンゴが大量に飛来して湖一面をピンクに染めることで有名なナクル湖がケニアにある。アフリカ旅行中に僕はケニアには何週間も滞在していたのでよっぽど行こうかと思ったが、結局、ツアーに参加しないと行けないこともあり、ツアーが嫌いな僕は行くことを断念した。そのかわりに、日本人バックパッカー達と「日本人倶楽部」というナイロビにある日本食レストランに、連日のように通っていた。その時は、日本のスポーツ新聞を読みながら、とんかつ定食を食べることが、世界最高の贅沢であると勘違いしていたのだ。

 なんとも無駄なお金と時間を使ってしまったことか。個人旅行崇拝のようなくだらない信念を捨てて、ナクル湖のツアーに行っておけば良かったし、サファリツアーにも参加するべきだった。

 この大理石に彫られたフラミンゴのレリーフを見てナイロビでの思い出が甦ったが、あの貴重な時間は永遠に取り戻すことは出来ないだろう。日本人倶楽部に一緒に通った連中の名前は、誰一人憶えてないし、その後の交流も一切ない。
 


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 客が僕以外にいるはずもない。

 ひとりで歩道橋の階段を登っている僕の背中に、車のドライバーからの冷たい視線が突き刺さる。



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 荒れたジャングルのそこかしこに、行川遺跡の遺構が所々顔を出す、そんな景色がすでに眼の前にあった。



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 元駐車場。

 倒れた券売機。

 この世の終わりのような場所にひとりで立つ、僕   
 


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 動線用の柵。

 数十年前は、駅から引きも切らない家族連れが列をなしていたというのだから、時の流れは残酷だ。

 再び、ここが大勢の人で賑わうようなことが本当にあるのだろうか。

 この目の前の絶望的な光景を目に焼き付けておこう。

 見事復活をしたら、心の底から喜び称えてあげるために。

 そして、比較記事を書くことにする。こうも、かわりましたよと   

 それが僕に出来る最大の恩返し、償いの仕方なのではないだろうか。



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 どの券売機も倒されている。

 小銭を狙われたのでしょう。



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 復活の時をうかがう、トイレ。



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 ブラインドは下ろされたまま。

 穴と隙間はガムテで塞がれたまま。



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 山の一部となりかけている廃施設。



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 木造だが柵が強固すぎて、付け入る隙きがない。

 この先の探索の困難さを予感させるものであった。



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 駐車場の奥の道を行くと、これが噂に聞いていた、園内への入場トンネルか。



行川アイランド-2-1
 前の晩に、身をよじってみれば・・・なんていうシュミレーションを妄想していたが、そんな余裕は無い。

 これは本気の鉄柵だ。無理をしない方がいい。

 二の足を踏んでいると、後方に人影が   

 恰幅の良い、高齢の男性だ。

 ロボットみたいな規則的な足取りで近付いてい来る。

 少し離れた駐車場の敷地内にも、夫婦なのか、高齢の女性がいる。

 どういう作り話をしてこの場を丸く収めて、なおかつ、堂々平和的に中へ入れないものかと、僕の額が火照りだし、激しく思考を巡らせるのであった   



 
つづく…

「門番との会話」落日の廃墟、行川アイランドに行って来たよ!.2

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