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 残された時間はもう僅かばかりの、廃墟、温泉料亭「割烹入船」。

 目と鼻の先の最寄り駅「綱島駅」はその昔、「綱島温泉駅」という駅名だったが、終戦の前の年、1944年に現在の「綱島駅」に改名されている。

 横浜の港北に位置しながら今では信じられないことに、綱島は昭和初期、桃の名産地であり、生産量も日本一だった。

 入船のある隣の大地主、池谷家が、アメリカから桃の苗木を輸入して、綱島で桃の栽培を始めたのが最初であったという。

 隣の打ちっぱなしゴルフ場が「ピーチゴルフ」という名前であるのは、その頃の名残だそうだ。



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 入船の正確な廃業時期は不明であるものの、ドイツから来てわざわざ入船周辺で聞き込み調査をしてくれたなんとも親切な人の話によると、約30年前位ではないかとのこと。

 このことは、入船社長室手前にあった秘書室の壁のカレンダーとも一致する。

 割烹最後の姿を目に焼き付けて、大きく扱われない小さな、街の路地裏の歴史を後世へ伝えようと、廃墟敷地内に舞い降りた僕が、いよいよ、入船敷地内最難箇所の探索へと向かおうとする。

 ここは正門裏。

 駐車場利用者から丸見えだ。

 危険が最大限伴うことを覚悟の上で、挑んてみることに   



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 正門横後方のこの建物だけ、酷くダメージが大きい。

 風と、紫外線をモロに受けるためだろう。



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 肩と腕を、手錠をはめられて護送される容疑者のように窮屈に窄める。

 それでもささくれは容赦なくジャケットを擦過してゆく。

 横浜のとある駅前、繁華街のなかの廃墟にて、この瞬間、こんなアドベンチャー紛いのことをしていると、誰が想像するだろうか。



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 書類が放置されている。

 街の喧騒が聞こえてくる。



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 腐食して陥没した床。

 進むのは危険だ。



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 この部屋は歩き回らずに、入り口付近から見渡すだけにしておく。



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 今でもビックカメラの店頭で売っていそうな、口内洗浄機があった。昔からあるものなんですね。



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 北海道の山の中ならともかく、横浜の駅前でこの朽ちよう   



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 天女の壁紙がお出迎えの正面玄関。



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 入ってない建物があと一つだけある。



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 こだわりの石を運んで来たのでしょうけど、今では全てが虚しい。



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 畳敷きの部屋中央に、陶器製の灰皿。



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 テレビの奥行きがありすぎて前の足がはみ出すので、嵩上げの切り株の台をかましてある。



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 もう数ヶ月後には更地になっているのでしょうか。



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 当時の布団が入れられたまま。



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 ビデオデッキに湯たんぽ。



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 最後の最後に、一番始めに拝見した母屋の倉庫を今一度、のぞいてみることにした。

 おそらく、各部屋に一個は飾ってあったと思われる、人形の焼き物。



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 牛。



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 北海道土産の木彫りのクマ。



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 歴史的な希少性など無いので、僕ぐらいが紹介して、全部捨てられてしまうのでしょう。



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 昭和54年12月4日の新聞。

 イランを取り巻く国際環境は、今とそう変わってない。



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 険しい顔をしたこのウサギに見送られるようにして、建物の外、敷地外へと出た。



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 隣接する立体駐車場はさらに工事が進み、立体駐車場と割烹に挟まれた路地は途中で行き止まりにされてしまった。工事車両を優先的に通すらしい。

 慌ただしくなる周辺環境。入船に工事の流れが波及するもの、そう遠くない先のことだろうと思われる。




おわり…

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