尺別牧場炭住-31
 今は牧場の中に取り残された、二棟のうちの一棟の二階へとやって来た。

 先客はいないし、最近訪問客があったような空気感も無い。
 
 避けながらも、踏まざるを得ない、撒かれたようなガラスやコンクリートの砕片が床には無数に積もっている。

 僕が一歩を踏み出すごとに、瓦礫と固いコンクリートの床が擦れ合って、鼓膜を掻きむしるような音が四囲の壁に反響する。

 その音は『お前は招かれざる侵入者だ』という心理的警告を与えるようでもあり、僕の所作も自然とおしとやかになってくる   

 

7
 なお、尺別の牧場炭住へ行くにあたり、いやむしろ、こちらの方がメインの人が多いと思われる、幻の「尺別炭山駅」への道程を、決死の車画像とともに、紹介したい。

 文明が途絶えた後に緑化が進行する森へと吸い込まれるように続く、ラフロード。

 途中にたった一軒だけある、廃屋。



6
 ここに人が住むような時代があったからこそ、戦後の奇跡的な日本経済の発展があったのだ、そう好意的に解釈をするしか、こんな場所に家が立っていることを説明出来やしないだろう   

 北の底抜けに青くて大きな空の下でひとりぽっち、廃屋を前にして、震える拳を握りしめ続ける。



5
 通学時の自転車用ヘルメットをかぶった子供が顔だけを出してこちらを見て微笑む残像を、かつて確かにあった情景として頭の中にイメージしてみた。

 裏庭に置いてあった自転車に乗って、漕ぎ出す少女。その背中を追う僕。

 裏庭を確認するが、リヤカーしか置いてなかった。



4
 廃屋の少女はこんな道もその昔は進んで行ったのか。

 森はいっそう深くなり、道は狭まり、泥濘みは増していった。



3
 何度も降りて、スタックをしないだろうかと確かめる。まだ進めるか、潔く、後退するべきか。

 周囲に民家など無し。JAFもここまでは来てくれないだろう。



5.5
 左には崖があり、その下には川が流れている。右は山。

 泥濘と格闘しながら徐行で進む。
 


2
 行き着いたのが、この崩壊した駅舎「尺別炭山駅」。
 
 行かれる方、スタック脱出用に、スコップ、スタックステップ等の板を用意していった方が良いでしょう。



尺別牧場炭住-26
 町が使命を終え、駅も家も自然の中に取り込まれて行く過程の一歩手前で、僕はここに間に合ったのか。

 とうの昔に精気の抜け切った壁に、かつてここに、子供が飛んで跳ねて、笑っていた、確かな、思わず目を細める、神々しいようなある痕跡を目ざとく発見する。



尺別牧場炭住-32
 内臓破裂のようなトイレ前を過ぎると、



尺別牧場炭住-21
 北の寒空の下のアパートの一室で、逞しく成長をした子供が、何を残していってくれたのか。



尺別牧場炭住-13
 これを見た瞬間、誰もいない廃墟アパートの壁の前で、膝を付き、右手でドンドンと壁を拳が骨折するまで叩きたくなった。

 時代こそ違えど、僕もこの転写シールには憶えがある。板ガムの包装紙にオマケで付いてきたやつだ。

 鉄人28号のアニメのようなので、1963年(昭和38年)当時の子供が貼ったシールだろう。



尺別牧場炭住-15
 北の炭鉱の町のアパートの壁に、未来のロボットを夢見た少年。

 残念ながら、21世紀になっても、客寄せピエロみたいな、ロボットもどきの、ペッパー君のようなのしかまだ実現していない。



尺別牧場炭住-14
 今もお元気でいらっしゃるのでしょうか。



尺別牧場炭住-34
 少年の溌剌とした夢の息吹が閉じ込められたようなシールから元気を貰い、その足で、隣の棟にも行ってみることに   
 



つづく…

「爛れたレンガ壁」牧場に取り残された廃墟炭住アパート.4

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