峠ドライブイン
 東京から国道20号線を走って高尾山を過ぎる。そこから相模湖に行く手前に控えるのが大垂水峠。かつて漫画「バリバリ伝説」第一部の舞台になったことでも知られる。

 1980年代から1990年代には、ローリング族や漫画の影響で競争型暴走族が押し寄せて死亡事故が多発。原付は終日通行禁止、車線のはみ出しを抑止するバーが整備されるなど、大垂水峠には様々な規制が設けられた。バイクブームの沈静化や若者の貧困化などもあって、現在の大垂水峠は1980年代以前の本来の静けさを取り戻している。

 大垂水峠には目下当ブログ連載中で好評を博している廃墟「峠のお宿」探索の際の数ヶ月前に訪れていて、このドライブインの前も通っていた。その時には整然と管理が行き届いている様子で、廃業をしたドライブイン特有の殺風景さが敷地内には滞留していた。”何人たりとも寄せ付けずと”いった感じの厳かなロープやバリケードにより、おっさん一人が冷やかしで近寄れる雰囲気ではなかった。下手に近づくと、賑やかに警報音が鳴ったりする場合もある。つまり何が言いたいのかと言うと、そこには目には見えないが、厳粛なまでの秩序が保たれていて、半端な人間を寄せ付けない重厚な空気で場が支配されていたのだ。

 今回、別件で相模湖まで行く途中に、大垂水峠を通って当然、この廃業をしたドライブイン前も通過したのだが、横目で見て愕然としてしまった。

 数ヶ月前までにはあったはずの秩序が大崩壊を起こしていた。これが一つの国ならば、無政府状態のようになってしまっていたのだ。

 たった数ヶ月で、ここまで骨抜きにされてしまうものなのだろうか   

 口火を切ったのは、大方、夜に暇を持て余していた地元のヤンキーだろう。心霊スポット巡りの新たな名所として付け加えるべく、一線を越えてしまったと。

 次になだれ込んだのが、自称、グラフィティアーティスト。

 そして今、建物後方より昇る朝日に目を細めながら、この僕が、荒れた敷地内に、単なる廃墟巡りの野次馬とは志が違う、見過ごされたままの眠っている物語を掘り起こそうと、足を踏み入れることになったのだ   



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 古いペプシのステッカー。スプレー書きに半開きのドア。枯れ葉。

 胸がうずうずと疼くのを抑えられないでいる自分が今ここに立っている。



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 巨大な本館が中央にあり、左右にそれぞれ別館を備えているというのが今のところの大まかな見立てである。



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 右側には独立した小屋と、アイスの保冷庫、ベンチと鉄柵。

 デザートでも食べながらが展望台から景色を楽しんでいただく、といったコンセプトだったようだ。



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 昭和の観光地にはよくあったペプシマークのベンチ。

 もう廃墟ぐらいでしか見かけない。



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 ローンで買った新車のカローラで、峠の急な上り坂を小さなエンジンを震わせながらやって来た。家族でアイスを食べながらベンチに座って休憩。

 懐かしき昭和の面影は冷たくて錆びたベンチを残すだけ。



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 この落書きも昭和的。

 暴走族同士の抗争劇なんかもあって盛り上がったのでしょう。



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 チームのメンバーが、深夜にここでたむろって、朝まで夢を語り明かした。「チーム名がついた中古車チェーン店を日本全国に作るべ。おまえらに店長を任せてやっかな」

 そんな彼らも今では、マイカーはアクアに乗り、二束三文になった多摩ニュータウンの一戸建てのローンに追われる毎日。ここを振り返る余裕は無さそうである。



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 左側の建物も様子見してみるが、今の段階では外から眺める程度にとどめておく。



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 塀の上には束ねられたナンバープレート。犯罪の臭いしかしない。



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 「旭山ドライブイン」。

 オーナーさんの地元が、北海道の旭川だったのか。旭川市には、行動展示で全国的にも有名な「旭山動物園」と、そのものの「旭山」という山が存在する。



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 家族が消えてから数十年。

 仕掛けられた捕虫器はそのまま吊り下がったまま。



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 塀越しに中をのぞく。ランドセルやアタッシュケースまであった。後で確認してみよう。



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 中に誰か寝ていないのを遠目で確認してから、入って行った。



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 なかなか入ろうとしなかったのは、



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 この布団が見えていたからである。

 ここが開け放たれてから早くも、ホームレスが居ついたのか、今もそうなのか。



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 特色の無いメニューが並ぶ。



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 唯一の遊び心の漫画。

 ドライブインの名物キャラとして浸透させたかった思惑があったに違いない。



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 左のドアを入って行ってみた。

 事務所のようだ。



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 ここのオーナーは、国道20号の守り神のような存在だったらしい。

平成六年八月十日

 平成入ってもまだここにいたのは確かだ。



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 机の引き出しにも大量の鍵の束が入っていた。

 こうも無法地帯になってしまっては、全く意味の無い物。



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 まさか、住んでいるホームレスの自転車だろうか。布団の造形がやけに生々しい。



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 ホール中央には纏められた荷物類が置かれていた。

 学校のノートなどもある。



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 啓太君、音楽のテスト、47点。

 音楽は不得意だった様子。



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 通知表まで残されていた。

 危険な臭いがそこら中に立ち込めていたのは感じていた。躊躇してなかなか入らなかったのは、僕がそれを敏感に嗅ぎ取っていたからだ。

 建物といい残留物といい、この無防備ぶり。

 追い詰められての夜逃げの臭いがしないでもないような気がしてきた。



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 この後、順序立てて当然二階へも行くことになるが、そこで僕は、ここ一年で一番の、心臓をえぐり出されるかのような、背面跳びで階段をもんどり打って崩れ落ちて悲鳴をあげそうにもなる、卒倒するような驚きを経験することになる   




つづく…

「カズ少年の何たるか」解禁、カズ少年の見守る峠の廃墟ドライブイン.2

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