オカルト茶屋-42
 女学生、和子ちゃんの部屋の片隅には、東芝製のラジカセが置かれていた。

 カセット挿入口の蓋は開いている。

 テープは入ったままだった。

 家を最後にする時、和子ちゃんはお気に入りのカセットテープを持ち出そうとして、イジェクトボタンまでは押したが『できるだけ手持ちは身軽にしなくっちゃね』と、断腸の思いで、和子オリジナルセレクト曲がふんだんに詰まったカセットを、放棄していったのかもしれない。
 
 いや、めいじや食堂を去るにあたって、最後のメッセージを吹き込み、後世の人に真相を聞いてもらおうと、意図的に蓋を開けていったのかと推測するのは、考えすぎだろうか。

 カセットテープをラジカセから取り出して、家でテープの内容を確認してみようとか、この探索時、そこまで頭は回らなかった。画像を拡大してはじめてテープがセットされたままであるのに気づいたぐらいなのだから。




オカルト茶屋-43
 製パン会社に就職した和子ちゃんは、工場長と職場結婚。二児をもうけて、都内の外れに、狭いながら庭付きの一戸建てをローンで購入。過去を振り返ることなく、元気でやっておられると、そう、心より願いつつ、この部屋に背中を向けることなく、対峙したまま、後ずさりをして、廊下の角を曲がるまで、僕は後ろ歩きを続けたのだった。

 そんな独りよがりの礼儀を示したところで、この部屋を好き勝手に探索したことの償いなどになりはしないことは承知の上ではあったが、そうせずには、いられなかったのだ。



オカルト茶屋-44
 なおも後ろ歩きをしながら、廊下の突き当りまで来た。そこで右反転をする。

 和式の、小と大のトイレがあった。

 長年の積もった埃を考慮しても、清潔に使われていた様子がうかがわれる。



オカルト茶屋-45
 F1のポスターは、お菓子の包装紙を収集していた、和子ちゃんの乙女趣味ではない。息子さんが貼ったのだろう。

 交通事故説も囁かれる、めいじや食堂長男の死。こんなポスター一枚からも、裏付けされていくものなのか。



オカルト茶屋-47
 一階に降りてみることにした。

 階段を下る途中に置いてあった文庫本「鉄」。

 機械と油にまみれて仕事に没頭していた、ご主人の愛読書だろうか。



オカルト茶屋-48
 一階に食堂の面影はすでに無い。ほとんどが取り払われてしまっている。



オカルト茶屋-51
 僅かながら、食器類を残す程度。



オカルト茶屋-49
昭和42年(1967年) 4月18日 (火曜日)



オカルト茶屋-52
 遅れて下りてきたSさん共々、誠に恐縮ながら、二人して手を合わせて拝ませてもらった。

 この時点ですでにSさんは僕に打ち明け済みであった。ここに来る前の訪問地「エロ本寮」において、間違いなく、霊みたいなものに触れられたような気がすると、子供のように彼は騒ぎ立てるのだった。エロ本寮でそれを口にすると、取り憑かれてどうにかなってしまいそうになると考えたので、僕には今まで黙っていたのだと。愛車アクアに閉じこもっていた理由が判明したが、その時より続く頭痛はまだ治らないのだという。

 Sさんの合わせる手に並々ならぬ力がこもっていたことは、説明するまでもないだろう。



オカルト茶屋-53
 議事録の写しだろうか。

議案第二

道路築造工事施工について

河内貯水池築造により村民移転候補地小河内村

昭和二十八年十二月二十二日提出

小河内村長 野村

 不鮮明ながら、このようなことが書かれていた。

 小河内村は、昭和30年に近接の町村と合併、奥多摩町の発足に伴い消滅している。翌々年、小河内ダム竣工により、旧小河内村集落の大部分が水没。



オカルト茶屋-55
 閉鎖中の正面玄関。

 湖畔の道路を車が行き交う。

 奥多摩湖の湖畔には他にも食堂が数件あるが、どれも営業中なのかよくわからない。半廃墟のような店ばかりだ。土日祝祭日だけの営業なのだろうか。めいじやほど老朽化はしていないが、かといって、どれも古さの目立つ店構えである。



オカルト茶屋-54
 円谷英二監督の特撮映画に出てくるような、ジェット噴射で飛んで行きそうなデザインの掃除機。

 ここでSさんが僕の肩をポンポンと、控えめ気味に叩く。

 今いる場所から、ジリジリと彼は後退をしながら、裏声しかかった高い声で、奥の壁の方を指さしてこう言った。

「モロ、ここじゃないですか! 道理で震えが収まらないわけですよ!! 帰りの運転、駄目かもしれないです   



オカルト茶屋-50
 嘘かマコトか、息子さんの絶命場所を知らせる、衝撃的な表記が二人を釘付けにした。

 Sさんは眉を右の人差し指と中指で爪を立てながらしきりに掻き出した。擦るようにそれは激しいので、角質が剥がれてフケのような粉がパラパラと大気中に舞って反射してキラキラと綺麗に光った。

 眉毛をポリポリやって眉のフケを撒きながら、Sさんはしばらく壁の前を右左に行ったり来たりを繰り返すのだった   




つづく…

「廃墟食堂の終焉」湖のきわ、廃墟、オカルト食堂.6

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