行川アイランド-14-7
 肌の露出の多い軽装姿の白髪の高齢男性は、廃墟となった行川アイランドの駐車場を、右から左へと見えないマス目を辿るように、無心に、行進するような姿勢の良さで競歩に近い速度で歩いていた。

 一列歩き切ると、反転して横にずれて、また彼だけに見えるマス目を進んで行く。

 そうやって段々と、僕の方に近づいて来る。

 流行のジョガースタイルの高齢女性は、高齢男性の横列に対抗するかのように、縦列で同じような行進をしている。いかり肩で肘を交互に元気良く張り出しながら。

 夫婦なのだろうか。

 いや、高齢女性の方は高価格帯の服を着用し、サンバイザーも有名ブランド品のマーク入り。経済力に差があるのは明らかであり、同じ屋根の下で暮らす夫婦では無いと思われる。(後になって、男性が乗って来たと思われる原付バイクを敷地の隅で発見)

 年金暮らしの高齢の男女が暇を持て余し、運動不足の解消のためにと、運動場ぐらいのスペースのある手頃なこの元駐車場にそれぞれ集って、ウォーキングをしているものと誰しも思うだろうが、この駐車場の敷地内に入るためには、張ってあるロープを越えなければならない。

 そのロープには「私有地のため立入禁止」と書かれた看板がぶら下がっている。

 僕はその二人を、行川アイランドの管理人ではないだろうかと睨んだ。堂々と私有地で闊歩をしているし、管理人の仕事などやることがなくて暇なので、二人して運動に励んでいるのではないかと。

 僕はカメラをこれ見よがしに首からぶら下げた。ズームを最大限にして、胸から大砲が突き出ているような感じの構えにした。こういう場合いつもカメラはいいハッタリになる。『市かなにかの仕事で撮りに来ていらっしゃるのかな・・・』と向こうは大抵諸事情に疎いバイトなので、そんな具合に勝手に解釈してくれるからだ。

 今のカメラにバッテリーグリップを装着するようになってから、それが顕著になった。バッテリーグリップ装着後のカメラの見た目は、昔の報道カメラマンが使っていたようなゴツイカメラのように見えて、特に高齢男性には、一目置かせるのに効果覿面のようである。バッテリーグリップなど、Amazonで中国製の偽物が三千円で買えてしまったが、人は見た目で判断するというのは本当のことであるということを、まざまざと思い知らさせてくれるのだ。

 ロープを越えて駐車場敷地内に入った。

 お掃除ロボのように規則正しく移動しながら近づいて来る高齢男性に声をかけてみた。

「すみません、管理人の方ですか?」

 高齢男性はニコッと笑いブルブルと首を振った。

「いや、勝手にここで運動させてもらっているだけですよ」

 ということは、ジョガースタイルの高齢女性も同じだろう。

 それとなく園内への行き方は事前に仕入れていたが、状況は刻々と変化するもの。生の情報が一番なので、彼の口から聞き出すべく、怪しまれないようにまず、行川アイランドの歴史などを尋ねてみることにする。

「行川アイランドって、何年前に閉園になったんですか?」

「もう、何十年も前だよ。この辺りも寂しくなってね。こうやって運動するぶんには都合がいいんだけど」

「行川アイランドの受け入れ、決まったらしいですね。ニュースでみましたよ。次は何になるんですか?」

「ホテルとかが建つって話だね。地元じゃ、誰が泊まりに行くんだって皆言ってるよ」

「中国人観光客も行きそうにないですよね。前以上に需要が無いもの建てて採算とか考えてるんだか」

「施設は運営して苦しくなって廃業でそれで終わりってわけじゃないからね。行川アイランドが無くなった頃に、孔雀とキョンが園から逃げ出してね。キョンは大繁殖。孔雀も野生になったのが街中に出てきて迷惑してるんだ」

 僕はキョンというと、がきデカのギャグくらいでしか知らない。そういうシカみたいな動物が実在しているということは知っていたが、八丈島にしか生息していないと思っていた。だとしたら、行川アイランドが八丈島まで行って捕獲したのかもしれない。高齢男性はひょっとするとがきデカのことを知っているかと思い、聞いてみた。

「キョンて、八丈島に棲息している動物ですよね?」

「八丈島かは知らないけど、今じゃ千葉のどこにもいるよ」

 一瞬、『ハァ?』という顔をしていたので、キョンとがきデカの因果関係は全く知らないようだ。

 打ち解けてきたこともあり、本題を切り出してみることにした。彼は完全な部外者なので、突っ込んだ内容をぶつけても問題ないだろう。

「廃墟になっている行川アイランドももうすぐ取り壊しのようなので、最後に撮影をしておこうとやって来たのですが、中に入って見学出来ますか?」

「入り口はそこにあるけど、柵があって鍵が閉まってる。地元の人は時々頼んで開けてもらって、岩場で牡蠣とか採ってるみたいだけど」

 密漁でもしているのか。今の僕にとってはどうでもいいことだ。

「園内に入りたいんですけど、別のどこからか入れる所ないですかね」

「さぁ~ねぇ、でも、時々中から人声がするから、見つけて入ってるんだろうけど」

「人声って、廃墟から会話が聴こえるんですか?」

「物珍しいのもあるんだろうね。複数で来ているみたいだったよ」

 廃墟見物目当ての連中だ。少なくとも、入ってようが、彼は寛容的というか、侵入者のことには無関心であるようだ。

 追加情報としては、月水金は管理人が常駐しているということだった。僕が訪れたのは火曜日。

「適当に入り口を見つけて、中を見学させて貰います。どうもありがとうございました」と言って、その高齢男性と別れた。



行川アイランド-18-10
 ざっと歩き、道路伝いに住宅街の方まで行ってしまった。無駄足だったらしく、引き換えした。

 やはり、ここしかないようだ。



行川R-28-15
 横に石垣がある。ボルダリングのようにして、突起を掴み足を掛けて独力で登るのはまず無理。高すぎる。

 何かの植物の蔓が垂れていた。石垣の上の地面から出ている蔓。枯れておらず水分が漲っていて強度がある。具合良くロープのように垂れており、すでに何人かに使用された可能性が高い。



行川アイランド-20-11
 無事、園内に入ることができた。

 かつての、ゴミ収集所だった場所だろうか。



行川アイランド-25-14
 付近住民黙認の不法投棄場所だろう。



行川アイランド-21-12
 かわいい赤ちゃんの時期なんてすぐ過ぎるもの。

 行政への廃棄物処理費用支払いを惜しむばかりに、犯罪に手を染める親がここにいた。

 そんな親を持つ子はどう育つのか。



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 冷蔵庫に、軽トラック。

 荷台に廃棄処分の冷蔵庫を満載したボロボロの軽トラを廃墟の行川アイランド裏まで乗り付けて、今に至るといったところか。別々かもしれないけど。



行川アイランド-26-15
 モンゴルのお酒かなと思ったら、「腰古井」という、千葉に酒蔵がある地元では有名なお酒のようです。



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 行川アイランドの廃棄物と混在。



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 古い型の冷蔵庫。



行川R-23-12
 1970年代のだろうか。だとすると閉園して間もない頃に捨てられたか。



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 歳月を経て、荷台は腐り落ちてしまったらしい。



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 再びここが生まれ変わる時には、これも姿を消しているのでしょうか。



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 廃車を発見した場合は、必ずグローブボックスの中を確認するのですが、それ自体が見当たらなかった。



行川アイランド-38-23
 この先を進むのかと思うと、気が重くなる。



行川アイランド-41-25



行川アイランド-39-24
 さっきまで朝方の冷え込みを引きずって息も白かったが、急に陽が照りだして暖かくなった。



行川アイランド-43-26
 これから先、ずっと、思った以上にジャングルだった。行く人は、服を慎重に選んだ方がいい。

 あと、蜘蛛地獄。ベネゼエラにいそうな、硬貨ぐらいの大きさの、エメラルド色や朱色が混ざった、特定のある一種のみの蜘蛛がいたるところに巣を貼って待ち構えており、それと何度も格闘をすることになった。

 落ち葉を踏みしめながらゆっくりと進んだ。



行川アイランド-47-27
 進んだ先にはトンネルが。

 トンネルもまたあちこち無数に掘られていて、行川アイランド園内の大きな特徴であるらしかった。

 トンネル入口付近にはバリケードが築かれていたが、その隙間を抜けて懐中電灯片手にトンネル内を進んで行ってみた   
 




つづく…

「変わり果てた園内」落日の廃墟、行川アイランドに行って来たよ!.3

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