修正21-1
 地元の駅から徒歩数分以内、狭隘な道伝いにあって気になっていた、樹海のような原っぱの進化系の森。

 その懐へ飛び込んで行くという、学校帰りの小学生もやらないような、小さな冒険。

 森どころか、どこまで続くのか信じ難いような、竹林のトンネルまで存在する、この茂みの、途中にあった、タイムカプセルに、やっとの思いで、手をのばしてみることになった   



西調布-17
 全身、頭の先まで、密林に弄ばれながら、身だしなみなど気にする暇さえなく、突き進んで行くと  想像もしていなかった  森の中から一台の車が顔を出した。

 道などないのに、草むらと泥濘をどうやってここまで来たのだろうか。

 こうなる前は、舗装こそしていなかったが、通行できる程度に地面はフラットであったのかも。



西調布-2
 廃屋らしき家も見える。

 家の敷地入り口は金網で塞がれていた。人の気配を窺ったが、いるのかいないのか、判然としない。



西調布-30
 強めの咳払いをしてみるが、反応は無かった。



西調布-5
 ボディに積もった種子や枯れ葉に砂埃。枝。鳥の糞。

 見ただけでも、長期放置の不動車であるということがわかる。



西調布-14
 いつの時代の空気が閉じ込められているのだろうか。



西調布-7
 森の中なのに、律儀にバックミラーは折り畳まれている。

 車内は満載のようだ。



西調布-8
 ドアは苦もなく開いた。

 ゴミで埋まった運転席。

 不自然に、助手席の座面部分だけが空いている。助手席の足元部分には、ゴミとはまた違う、布類をまとめた袋などが詰め込まれている。

 間違いない、ホームレスの就寝場所になっているらしい。人ひとり横になれる場所を確保してあるようだ。

 昼間だから、いないのだろうか。

 夜になると、コンビニから廃棄された食料などを調達して戻って来るのか。

 都会の盲点。

 こんなところで寝食をする、仙人みたいな生活を送る人が、東京の駅前からすぐの森の中に住んでいるとは   



西調布-9
 後部座席は隙間なくゴミで埋まっていた。

 シートを倒したままで、常設ベッドとして利用しているらしい。

 ゴミを森に捨てないで車内に溜め込んでいるのは、ホームレスが最低限のマナーを守っているのと、外にゴミを散らかすことで近所からのクレームによりここを追い出されることを懸念してのことだろう。

 この車に人が住んでいるの知っているのは、僕ぐらいではないだろうか。

 都会の隙間、何があるかわからないものです。



西調布-10
 カップ焼きそばなんて、昨晩食べたようなソースが滴っている。

 調味料のポン酢もある。

 オリンピック需要で景気が良いなんて言われるが、大東京の裏側では、このように取り残された貧しい人々が息を殺してひっそりと、夢も希望も持てずに生きている。

 気味が悪かったが、グローブボックスを開けてみることにした。



西調布-11
 CDが入っていた。



西調布-12
 並べてみた。

 今、彼がもし帰って来たら、背中から刺されるんじゃないだろうかという緊張感は一応ある。

 宇多田ヒカルに、スピード、Every Little Thing、倉木麻衣、スピッツ、ZARD、

 左上のおばさんは、高橋真梨子だろうか。

 日本経済の絶頂期、1990年代前後のバブル期を彩ったJポップのCD。

 約十数年ぐらい前に車が放置され、今に至っているということのようだ。

 ある者は政治家に転身し、不倫が発覚して大バッシング、アメリカ進出失敗、消息不明、活動を大幅に縮小して細々と   

 アジア各国では、今や、K-POPに押されて見る影もないが、当時は綺羅星の如く燦然と輝いていたJ-POPのその残り香が、ホームレスが家代わりに使用している車のグローブボックスから見つかるという、例えようのない皮肉に、思わず頭上の木々を見上げ、口を開きかけたが、二の句を継ぐことができなかった   

※CDの中に2004年のものがあるとのこと。濱マイク様、ご指摘ありがとうございました。

「車種は、TOYOTAの「マークII グランデ」。おそらく、平成8年(1996年)式」

※太郎様、車種のご指摘ありがとうございました。



西調布-4
 この東京に、まだこんなことがあるんだなと、白昼夢のような経験をし、興奮で心臓が早鐘を打った。

 彼が今帰ってきやしないかと想像すると、それはさらに加速して連打された。

 動揺を抑えるために、車の横に立ち、ボンネットの上に静かに手を乗せてみた   

 

西調布-18
 森の出口へと進んだ。

 車の中に住んでいるのは僕で、熟睡して目が覚めて今起き上がり、さぁ、食料の調達だと、森を抜け出そうとしている、そんな生活も悪くないなという、今の縛られた環境に置かれている身としては、そういう自由な生き方が少し羨ましくも感じる、一日の終わりだった。




おわり…

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