尺別牧場炭住-38
 間近で見ると、単純に煉瓦を積んだものではなく、皮膚が擦りむけて真皮がのぞいているような、塗ったモルタルが剥がれかかっているものだった。



尺別牧場炭住-39
 場にそぐわない、夕張メロンの果肉のようにオレンジな葉が、壁への拡張をしたたかに試みていた。

 逃避を促すために鼻歌交じりに周囲を歩き回る。

 以前ディスカウントショップで飛び込みで買ったクマよけの鈴が腰で鳴っている。

 野良犬や熊、定住者などはいなかった。



尺別牧場炭住-36
 閉鎖当時は入り口を封鎖していったが、木材部分の劣化の進行が早いため、今では事実上開放も同然となってしまっている。

 都内ではこういう寛容な施設が無くなってしまった。

 地面師が積水ハウスから63億円をだまし取ったとされる舞台にもなった五反田の廃墟旅館に旬だし行ってみようとストリートビューで下見をしてみるも、激しいほどのセコムのステッカーがあちこちに。

 上からの写真だと屋根の一部にブラックホールみたいな穴が開いているので、そこからなんていう甘い考えも浮かんだが、超高額物件ということもあり、守る方も潤沢なお金を投じているようであり、通りすがりにちょっくらお邪魔拝見とはいかないようなのである。

 それでなくとも、つい最近、とある廃墟にて、盛大に警報機を鳴らしてしまったばかりで、あれがもし都内の街中だったらと、今思い返しても心臓がキリキリと締め付けられる思いがする。

 暗闇で煌々と光る緑色のランプ。あれ、あるにはあるけれど、鳴る様子がないなと、ではカメラを取り出しましょうかとバックパックに手をかけると、突如、昔のパチンコ屋の開店時の派手なファンファーレのような音の暴力によって首を締められて窒息でもさせられたような息苦しい酸欠にも近いような恐怖を味わった。

 今、冷静に考察すると、聴覚を塞がれあわてふためき動悸が激しくなった結果、息も絶え絶えになっていたのだと思う。その時の僕はぜえぜえと肩と腹筋で息をしていた。

 ネット上には、まだ営業中の時に宿泊した人のレポートなどがあるが、僕がみたいのは社会との関係性が断たれて時間を漂流しているような死に体の無残に朽ちてゆく旅館の最後のありのままの姿。

 死に際をみとって最後の介抱人になり、教科書にも載らないような歴史の裏の片隅に名を残したい、一部の人から称賛を受けたい、いやそれは格好つけたがりの建前でしかなく、ただのゲスい野次馬根性だろうか。



尺別牧場炭住-37
 別に、ここから入ったわけではない。

 特段背徳感を感じることなく、アクロバティックな真似をすることもなく、容易に入れる入り口はいくつもあったので、これから行く人はご安心を   



尺別牧場炭住-41
 こんな板切れでは、数十年間もガラス窓を守り抜くことはできなかった。



尺別牧場炭住-42
 すこぶる状態の良い階段が無駄にそのままに残されていた。



尺別牧場炭住-40
 人間が山奥でも文化的な生活を送っていたんだなと証明してくれる数少ない痕跡の一つ「便所」の名前書き。

 引くと引っ掛かりがあった。しなり湾曲して抵抗をするドア。

 無理してのぞくまでもないのでそのままにしておいた。



尺別牧場炭住-43
 畳が自然粉砕されて藁を撒いたようになっている床を移動。



尺別牧場炭住-45
 若干、生活臭、残ってます。



尺別牧場炭住-44
 100年どころか、300年は大丈夫そうな耐久性を持つアパート。

 誰も来ない山奥でコンクリート造りの重厚な炭住アパートを見るたびに感心することしきり。

 よくもまあ、と。



尺別牧場炭住-47
 電気のインフラまで引いていたのだから恐れ入る。



尺別牧場炭住-46
 アルミサッシに取り替えれば、再生は可能そうだ。



尺別牧場炭住-48
 たった今気づく。

 この段差にこの棚。

 ここは玄関だったようだ。



尺別牧場炭住-49
 二階へ行ってみることにした。



尺別牧場炭住-56
 流入しては枯れてを繰り返しているんでしょう。



尺別牧場炭住-51
 今では、京都の舞妓さんぐらいしか履いていないような木のサンダル。



尺別牧場炭住-52
 北海道の廃屋では動物の骨をよく見かける。

 野生の動物を捕まえて食べていた人が多いのか。



尺別牧場炭住-50
 


尺別牧場炭住-53
 サンダルのもう片方の鼻緒は原型をとどめていた。



尺別牧場炭住-54
 ヒグマが入ってきてカチ割ったのでしょうか。

 ここまで来る廃墟見物人に、こんな気性の荒い人はいそうもないんですが。



尺別牧場炭住-55
 お父さんが飲んだウィスキーのボトルもあります。



尺別牧場炭住-57
 煙突の管を通すための蓋か。



尺別牧場炭住-58
 オロCは雪降り積もる山奥でも飲まれていました。



尺別牧場炭住-59
 作りかけの樽?



尺別牧場炭住-60
 昔の改札口みたいな階段。



尺別牧場炭住-61
 玄関のドアは鉄製だった。

 そこまで防犯に気を使う必要は無さそうだが。



尺別牧場炭住-62
 雪印ネオミルクの缶。

 元気に育った赤ちゃん、今、どこにいらっしゃいますか!?

 あなたの埋もれた歴史を、今、掘り起こしてますよ!



尺別牧場炭住-64
 その赤ちゃんがガムを食べられるような年齢に成長をしたのか。



尺別牧場炭住-63
 らっきょうみたいな頭をしているキャラクターだが、よくわからない。

 ここの子供がよっぽど好きだったのは確かだろう。



尺別牧場炭住-66
 


尺別牧場炭住-67
 永久凍土に閉じ込められたようなこちらが心温まるような家族の話はまだ埋まっているだろうかと、僕の車はより一層深い山中へと進んで行った   




おわり…

こんな記事も読まれています