鴻之舞-67
 前にここへ来た時には、鴻之舞の森の外れに不自然に直線的に整地された土地を眺めて、あぁ、これは元鉄道の廃線跡に違いない、と確信し、薄荷スプレーを吹き付けられたような、ひんやりとした心地のよい初冬の風を頬に受け、気分も爽やかに、森に伸びていただろう消失した鉄路に思いを馳せていたのだったが、後で調べてみると、ここは沈殿池であったことが判明した。

 沈殿池とは、廃水の中の不純物を沈降させて水を清澄化させる池のこと。

 つまりこの土には数百年かかっても取り除けないような有害物質がふんだんに含まれているわけであり、廃鉱となった山の厳しい現実を突きつけられることになったのだ。

 この場の今となっては清浄化された空気に飲まれてしまい、懐古趣味で郷愁に耽っているだけでは知り得ない過酷な歴史があったのだなと、再訪の今では汚毒を含んだ土を針の上を歩くように、地雷でも埋まっているような思慮深さで、気づくと僕の足の動きは、中学の時にやっていた剣道のすり足に近い運びになっており、ソロリソロリと、森の中を磁石で移動する人形のようにどこかぎこちなく進んでいった   



鴻之舞-66
 説明書きもない。

 これを見れば誰でも、バラストがあってその上に枕木とレールが敷かれていたのだなと思うのも無理はない。



鴻之舞-65
 作業員の濡れたタオル干しか何か知らないが、レールを再利用したこんな物があれば尚更のこと。



鴻之舞-63
 山への慈愛を体で示そうと、両手を末広がりにして風を抱き、手の指先は外に反らせ、片膝を着いてしゃがみ込み、しばらく風の音に耳を傾けていた。

 鳥さえ鳴かない冬の空。耳輪を掠める風音だけが胸に語りかけてきた。



鴻之舞-62
 かつて町民の往来があった道。

 孤独過ぎて頭がどうかなりそうになる。



鴻之舞-59
 久方ぶりに見た橋は、陥没した部分が修復されていた。

 当然、工事費はただではない。

 紋別市が多額の税金を使って、誰も来ないような山の廃鉱跡の橋を修復させたのだろう。

 荒廃を放置するのではなく、将来に向けて歴史的産業遺産の活用を見越してのことなのか。



鴻之舞-60
 廃墟の教職員住宅もまだ姿をとどめている。

 僕が来ようが来まいが、森の時間は静かに流れ続けていた。



鴻之舞-58
 一部が干上がった川。



鴻之舞-57
 網焼きで熱々にして溶かしバターで塩味じょわりとハフハフ頂いたら美味そうな肉厚どころじゃない茸が生えていた。



鴻之舞-56
 当時は暖房が効いていたとはいえ、見るからに寒そうな佇まい、そして、立地。



鴻之舞-55
 



鴻之舞-52
 前回も見た逞しいタイル浴槽はまだ残っていた。

 教職員住宅は風呂なしで、ここは共同風呂施設だったのだろうか。



鴻之舞-51
 銭湯にしては狭いので、家族風呂のような形態だったのでしょう。



鴻之舞-50
 コマツでもキャタピラーでもない廃車のローラー車。



鴻之舞-49
 屋内に入ってみる。

 屋根の崩落にはまだ時間の猶予がありそうだった。



鴻之舞-48
 数十年前にこの景色を毎朝みていた先生方、まだお元気なんでしょうかね。



鴻之舞-47
 北海道の古い廃屋でよくみかける地下への入り口。大抵水が溜まっている。



鴻之舞-46
 水道の元栓。

 毎晩の水抜きがやりやすいように屋内に設置してあって腰の高さまである。



鴻之舞-40
 まだ力強そうな階段。



鴻之舞-45



鴻之舞-44
 屋根裏は子供部屋の場合が多いが、ここはどうだったのだろうかと、階段から頭ひとつだけ出して、大海の海原を眺めるように、海面から突き出た潜水艦の潜望鏡のように辺りを見渡してみた。

 明確な答えが出るはずもなかった。



鴻之舞-43



鴻之舞-42
 明るい日差しが入り込み、さぞすくすくとお子さんが育たれたことでしょう。



鴻之舞-41
 一階部分の残留物を、徹底的に漁ってみることにした   




つづく…

「眠れる森のディストピアコンクリート柱」再訪、金鉱山ゴーストタウン&週刊ベースボールハウス.4

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