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 キョーコさんにとって、その後の人生を変えるやもしれない、人生の第一の分岐点となるだろう、高校の入試テストのある年、激動の1979年が幕を開けることとなった。

 日記の中の彼女が今さら頑張ってみても、今では朽ちて屍のようになった半身を削がれたようなあの草叢の中の草臥れた廃屋が、優雅な北欧風バルコニーを備えた、断熱性と機密性の高い、輸入物のナチュラルウッドをふんだんに用いた、厳しい北の国の気候に適った北欧住宅になるわけではないということを、再三言ってきているが、そうだとしても、例え知らずとしても、キョーコさんは自分に待っている未来が、目も眩むような輝かしいものであると、決して疑わず、全身全霊、受験テストに打ち込む覚悟でいることは  今のところそう積極的でもないが  体内時間が多少人より間延びしている彼女のこと、年明けからが本当の勝負どころであると、生まれ変わったように勉学に励む姿をきっとみせつけてくれることだろう。

 1978年、彼女が15歳の誕生日を迎えた日に書き始めた日記を元に、「廃屋の少女日記シリーズ」の連載を始めたが、同年の年末の分までの日記をもって一区切りとすることにした。

実録、廃屋に残された少女の日記'78

 今回からは装いも新たに「廃屋に残された少女の日記'79冬」として、いやそれは冗談で、「廃屋に残された少女の日記'79」となり、カテゴリーも独立させて、華々しくスタートを切ることになる。

 内容はほとんどというか全く変わらない。

 あのまま続けていると、表題の横に付く回数の表示が三桁になってイタズラに増えてしまい煩雑だし過去記事を遡る場合などに沢山ありすぎて目的の記事に辿り着くのが面倒になっていく一方だと思い、それなら章ごとに分ければいいだろうと、年代で区分けしてみることにした。

 アメドラならシーズン、小説なら章のような。

 実際、今でも過去記事をクリックして戻りながら読む場合記事数が多すぎて書き手の自分が途方に暮れてしまったりする。そういう時は、記事内ワード検索も一つの手のようです。

 本当は日記帳一冊ごとに分ければそっちの方が便利だと思ったが、今まで無我夢中でやって来たので章で区切るなどと考えもしなかった。ここまで来ると過去の分を一冊ごとに章仕立てにするのはもうやりずらい。この期に及んで手遅れとも言える。

 というこで、これからは日記内での一年が一章二章・・・となってゆく…あくまでも予定。

 そんなこともありながら、キョーコさんは、配達された年賀状の確認とともに、新しい年、1979年を迎えることになった。



3a
3b
 1978 年   1 月 3 日  水 曜 日    ( 4 日) 0: 55

  1 日 . 2 日  の  日 記 を 書 か なか っ た 。な の よ 。
 まず 1 日 は .  朝  9:00 に 起 きて 郵便が来 た ら
 さっ そ く  年 賀 状 を見合 っ た。 靖 ちゃ ん , 伸 一 君 .
 中村君 . 上月 の美由紀 ちゃ ん  .  と附 中 の 時 の 友達
  の (私の とな りに す わ っ た人 。) しず え ちゃ ん か ら  ・  ・・  。
  手紙 を書 こう と 思 っ てます よ。  昼 に な っ て   おさな い さ ん

 の 兄 さ ん*が む か え に 来 て  . .. . .  兄さ ん を 見 て 私は .
 史之舞 が 言 っ てた ほど ひど く は な い 顔 べ つ に 悪い 所 は
 なさそ うだ なあ・  少 し 目 が  上 が っ . て い る な あ ・・・・
 兄さ ん の 車 に の っ て トコ ち ゃ んの 家 に 向 か っ て 行 き .
途 中 で 茶店に 入 って テレビ ゲ ー ム で 少 し あそんだ
 お もしろ か っ た . . . テレビ ゲ ー ム が  . . . . .  それか ら
 トコち ゃ んの家に 行 っ た  _ _  だ けど  い な か っ た ... お さない
 さ んの家にい る のか も しれな い と 思 い 行 っ て み た  .
 や っぱ り いた ・ お さ な い さ ん の 家 に 入 り  ・ ・・ ・・
 お ば さ ん , お じ さ ん が い た 。弟さ んは  となり の へ や に い て
 見えなか っ た . _ _  弟 さ んが 来て  . _. *私 が* 想創 してた
 のとは全々ち が っ た . . .. .   そ れ か ら 五 人 で トラ ンプ で
 遊ん だ  ,  な か な か お も し ろか った ._.  兄 の 方 は あま り
 笑わ ない み たい だっ たけ ど  弟さんの (ケンち ゃん)は
 おも しろ く  ・ たの しい 人 で  よ く 笑った  .  トコち ゃ ん と
 ケンちゃんと 最 か い 位 をあらそって か っ た りま けたりして
 ま た*.は・ バ バ ぬきを して  バ バ ガ 来たら ひ と りで 笑 って
 トコちゃんが  バ バ をひ く と も っ と  ゲ ラ ゲ ラ と*笑 つ て.....
 ほ んとに お も しろ い 人 だ っと 思 っ た よ  , たのし か っ た もん

勤労酪農夫婦も正月の三が日ぐらいは家で家族とくつろいていたことだろう。

自家製おせち料理。お雑煮にお汁粉。カルタにモノポリー。パーフェクション。モーラ。ゲイラカイト   

親子で家の前の砂利道で羽子板をして、あの小川に足を取られたかもしれない。

家族水入らずで正月を楽しんだキョーコさんは、日記の書き始めは三日目からとなった。

>1 日 は .  朝  9:00 に 起 きて 郵便が来 た ら さっ そ く  年 賀 状 を見合 っ た。

もう、今のペーパーレスの時代には、この感覚、胸踊るような楽しみは味わえないどころか、理解さえできないだろう。同級生の誰から年賀状が届くのかな、何十枚来るのだろうかと。

キョーコさんだけではなく、家族一同、年賀状の行方に大きな感心を寄せていた模様。

>昼 に な っ て   おさな い さ ん の 兄 さ ん*が む か え に 来 て  . .. . .  兄さ ん を 見 て 私は .史之舞 が 言 っ てた ほど ひど く は な い 顔 べ つ に 悪い 所 は なさそ うだ なあ

姉の史之舞が以前から、おさないさんのお兄さんの顔が不細工だと、キョーコさんに吹聴していた。中学生ながら、タモリや所ジョージにときめいた、キョーコさんのこと、ハードルは低いようで、別に悪くないと、擁護ではないだろう、姉の基準が厳しすぎるだろうと、納得いかない様子。

>少 し 目 が  上 が っ . て い る な あ ・・・・

全然OKだったが、言われるとそうかなと影響されてしまうタイプのキョーコさん。あれほど好きだった金山君を、サル顔だからと、宮脇君に恋愛対象が変わっていってしまったのも、周囲の陰口を聞いて心無い声に染まっていってしまったのかもしれない。

史之舞の囁きに、つい欠点を粗探してしまい、しいて言えば、目が上がっているなと、他人に否定されると跳ね返して独自で肯定することが出来ないタイプか。

>兄さ ん の 車 に の っ て トコ ち ゃ んの 家 に 向 か っ て 行 き .途 中 で 茶店に 入 って テレビ ゲ ー ム で 少 し あそんだ

目下、前年にゲームセンターで大ヒットしたタイトーのテレビゲーム「スペースインベーダー」が日本を席巻中。おさないさんの兄さんが「名古屋撃ちはもう古いっしょ。札幌撃ちみせてやるべ」とでも言い、正月なので景気良く100円玉のタワーをキョーコさん達に振る舞い、茶店でゲームに興じた。もしかしたら、テレビゲームは生まれて初めてだったかもしれない、キョーコさん。大変な、カルチャーショックを受けたかも。

>お もしろ か っ た . . . テレビ ゲ ー ム が  . . . . .

テレビゲームの衝撃に、言葉がすんなり出てこないらしく、つい感情を先に表現して倒置法になっているばかりか『アレはハマるわ』と、三点リーダーを用いて余韻を表現してみせる。

>弟 さ んが 来て  . _. *私 が* 想創 してたのとは全々ち が っ た . . .. .

トコちゃんが家にいないのでおさないさんの家に行ったらやっぱり彼女はいた。おさないさんの弟を、堅物だと思っていたのか、陽気そうな彼のイメージにハッとする。

>兄 の 方 は あま り 笑わ ない み たい だっ たけ ど  弟さんの (ケンち ゃん)は おも しろ く  ・ たの しい 人 で  よ く 笑った

兄は中学生なんて相手にしない年齢なのだろう。かまってあげるサービス精神も無い。弟のケンちゃんは暗くてふてぶてしい兄とは正反対だった。

>バ バ ぬきを して  バ バ ガ 来たら ひ と りで 笑 って トコちゃんが  バ バ をひ く と も っ と  ゲ ラ ゲ ラ と*笑 つ て.....

本当に心から正月を楽しんでいる、キョーコさん。狭い町の大きな空に響き渡るぐらい皆で大声で笑ったとみえる。

>ほ んとに お も しろ い 人 だ っと 思 っ た よ  , たのし か っ た もん

年端もいかない中学生とはいえ、せっかく正月に来てくれているのに、堅物の兄のせいで空気が悪くなり嫌な思いをさせて帰らせたくないと、生来の明るさもあり、場を爆笑の渦で包んだ出来る弟、ケンちゃん。キョーコさんも大満足だった。



3c
 * 4:00 ご ろ に な って  コ ー ヒー   を か い に  3人 で
 (トコ ちゃん .  ケン ちゃん . 私・) 店 に行 っ て  . トコちゃ ん が
 レジ に 行っ て い る 間  .  ケン ち ゃ ん は  私 とい っしょ に
 まわりを 見て こよう と  言 っ て く れて  そし て 見 て まわ った .
  べ んとう の 所*に 行 っ て 食べ た い  な あ と か 何 と か
  おもしろ いこと を 言 っ て . 次に お か ず の 所 に 行っ て
  これ食 え る の か と か  た ま ご や き ば か り* や い た
  お か ず を* 見て .  これ 食 べ た ら は ら い っ ぱ い に なる
  なあ な んて   ほ んと に お も し ろ く て お か しくてサ !
  あとは ・ ワラ ビを見 て 「 こ んなの 山 行 けば   い っぱ いある
  *** 学校 や め て ワ ラ ビ  う れ ば もう か る ぞ!_」
  など と 言 っ て . お もし ろ い ね え  .  も う 一 つ お も しろ
  かったの...  い ち ご っ て 高 い で しょ う .  その いち ごが 路上に
  あって 私が *”こ の いちご  高 い ね え  」  と いう と ケンちゃんは
 ”低 いんで ね えか ” ・・・  そり ゃ そ う よね . .  ゆ か の 上 に
  ある んだ も の ・  自分  より *低い 所 にあ る の は わか るけ どサ!
  ほ んとに お か しくてサ! 笑わ してくれ る の よ ね .  あ き ない人 .
  ドライブ に も つ れ て っ てくれ る し サ : 私 は 兄さんよ り
  弟 さ んの  ケン ちゃんの 方が 好 き だ なあ 、 ホン ト ・

親戚の中でも若い年代の子らが集まり、そして意気投合。若者らしく、お店にコーヒーを買いに行った。

>ケン ち ゃ ん は  私 とい っしょ に まわりを 見て こよう と  言 っ て く れて  そし て 見 て まわ った

同年代の男の子に免疫の無いキョーコさんが、誘われた。ケンちゃんに下心は無いだろう。キョーコさんもそれはわかっている。こんな私に気を利かしてくれて、退屈させてはいけないと、気遣うケンちゃんの優しさが嬉しかった。この人、誰にでも笑顔で接してくれる、芯から心温かな人なんだ、と。

>お か ず を* 見て .  これ 食 べ た ら は ら い っ ぱ い に なる なあ な んて   ほ んと に お も し ろ く て お か しくてサ !

トコちゃんが買い物をしている間、キョーコさんはケンちゃんに誘導されるがまま、店内の惣菜売り場か何かを、彼のユーモアたっぷりの解説を聞きながら見て回った。こんなにも心が晴れてお腹の底から笑ったの、何時ぐらいぶりかしら。別け隔てなく相手の懐に飛び込んで来てくれて、楽しませようとしてくれる、そんな同年代の男の子がキョーコさんにとっては新鮮だった。

>ワラ ビを見 て 「 こ んなの 山 行 けば   い っぱ いある *** 学校 や め て ワ ラ ビ  う れ ば もう か る ぞ!_」  など と 言 っ て . お もし ろ い ね え  . 

食事の席で、親戚のハゲた中年の叔父さんが繰り出す、卑猥な下ネタとは大違いだった。年齢が近いからこそ共有できる笑いのネタに、新年早々、腹を抱えて声を出して爆笑した、キョーコさん。

>も う 一 つ お も しろ かったの...

人に金や物の見返りも無いのに笑いを提供することは、無償の愛を与え、人を楽しませたいという、彼は、慈愛に満ち満ちた根っからの奉仕者であるのだろう。ケンちゃんの周囲にはいつも笑いが絶えない。キョーコさんはとにかく、こんなにも人を下心も無く幸せにしてくれる人がいるということを、誰かに伝えたくて仕方がなかった。喋りたくてしょうがなかった。正月だし、友達も多い方ではないし、胸に詰まったこの思いを、紙面に洗いざらい、吐き出した。こんなにも可笑しくて素敵な人がいるのよと。

>いち ごが 路上に あって 私が *”こ の いちご  高 い ね え  」  と いう と ケンちゃんは ”低 いんで ね えか ” ・・・

ネタを拾って、笑いを作り出そうという空気が二人の間に醸成されていたにもかかわらず、キョーコさんのとった普通の反応(苺が高い)を、ケンちゃんが間髪入れず高低差に挿げ替えたボケに昇華させ、「低いんでね」というツッコミを入れて、キョーコさんをまた笑顔にした。

>そり ゃ そ う よね . .  ゆ か の 上 に ある んだ も の ・  自分  より *低い 所 にあ る の は わか るけ どサ!

常に神経を研ぎ澄まさせ、身の回りの何でもない物を笑いに変えて、心を温かくしてくれるケンちゃんの慈悲の精神には、感謝の言葉がいくつあっても足りない、キョーコさん。

>笑わ してくれ る の よ ね .  あ き ない人 .ドライブ に も つ れ て っ てくれ る し サ : 私 は 兄さんよ り弟 さ んの  ケン ちゃんの 方が 好 き だ なあ 、 ホン ト

笑顔にしてくれて、安くないガソリン代も惜しまずに、ドライブにも連れて行ってくれる。当然、中学生のキョーコさんにガソリン代半分出せ、とは言わないのだろう。かえすがえすも、下心は無かった。

もしかしたら、風貌はお兄さんの方がいいのかもしれない。彼女の言い方だと。でもキョーコさんは、笑顔の終始絶えない家庭の主になりそうな、ケンちゃんみたいな人が好きだと、少しポッと顔を赤らめた…のかもしれなかった。



3d
私 の りそう は  弟 みたい な 感 じ の お も しろ くて
 笑わせ て くれる人 . たの しい ものね・
  2日 の 日 は  山 の 家に行 っ た  .
  カ ー** ぼ う も 私の コノ ミ の タ イプ か な あ  ・  - ・  ー
 お としだ ま も  たくさ んも ら っ た し サ!
 山 の お ば あ ちゃ ん  20 0 0 円
 山 のお ば さ ん      2 0 00 円
くまさか さん のおばさん  20 0 0 円
カー ぼ うの お ば さ ん   20 0 0円
千*場 さ んの お ば さん   3 0 0 0 円
   うちの ば ば ちゃ ん        3 0 0 0 円
   史之舞 ちゃ ん     50 0 0  円
   うちの お とう さん       50 0 0 円
                計        24,0 0 0 円     2万 4 千 円

 たくさ んもら っ ち ゃ っ た 。
 今日 の こと は  ・・・ 。
  べ つに な し ・ 部屋を ** * **? そう じ
 をしたく ら い ・  明 日  . お兄ちゃ ん 帰 るの だ ス ヨ!

タモリに所ジョージ、松山千春。いずれも、人を楽しませる、トークに定評のある人達。キョーコさんの家庭には笑いが無いというより、家族が顔を揃えることが少ないのかもしれない。キョーコさんは切望する。毎日笑顔で暮らせたらなと。

>2日 の 日 は  山 の 家に行 っ た  .

山の家というのは、僕が以前、山の麓の入り口にあった看板とその背後の木々に、大群で待ち構えていたカラスの群れと、息の詰まる対峙をし、一歩踏み出そうものなら、威嚇の「カァー」をやられ、震える腿の内側を抑え切れず、足取りも重く、退散してしまった、あの山のことだと思う。

>カ ー** ぼ う も 私の コノ ミ の タ イプ か な あ  ・  - ・  ー

人生において、最も性衝動活発な年頃。例え親戚の子供でさえ、自分の恋愛観と照らし合わせてしまう。

>お としだ ま も  たくさ んも ら っ た し サ!

貰ったお年玉を、丁寧に表に書き出した、キョーコさん。

2000円というのが、親戚筋で取り決めた相場なのだろう。近い血の人になるほど、恩を売ろうと、金額も高くなる傾向があるのは、一般家庭でも同じのようである。

お父さんが最高額の5000円であるのは、父の威厳を示すこともあって当然と思われるが、表の中で一番安月給のはずの姉の史之舞が父と同額なのは、彼女なりの笑いを伴った妹への愛情表現と思われる。たいして貰ってないのにお父さんと同額とか!?と呆れ顔ながら感謝する可愛い妹の喜ぶ顔がみたかった、姉、史之舞の思いやり。

>たくさ んもら っ ち ゃ っ た 。

今まで、日記の中に思い描いていた喉から手が出るほど欲しかった物はほとんど買える大金を手に入れてしまった、キョーコさん。

ギターか、松山千春のLPか、ラジカセはギリギリだろうか。それとも、将来の結婚資金のために貯蓄をするのか。こういった判断の一つが、その後のキョーコさんの運命を決めることになってゆくのだろう。

>明 日  . お兄ちゃ ん 帰 るの だ ス ヨ!

大満足だった、1979年のお正月。思いがけない大金も転がり込んできた。久しぶりに家族全員が揃って楽しい会話に笑いが絶えなかった。夢のような三が日はあっという間に過ぎ去ってていった。

気づくと明日はお兄ちゃんが帰る日。楽しんでいる最中に急に喪失感に襲われ、少し動揺し、風大左衛門風の語りになってしまった、いや、おどけて悲しみを覆い隠したかのように振る舞った、キョーコさんだった。



3e
 サ ョ ウナラ で す ね ・ ・・。  あ ~~~あ ・ 宮脇 君 や 金山 君 や
  山 角君  ・ たち に 会 い た い なあ .  ホ ン ト に ね  .
  明 日 か ら  しっか り 勉 強 しなく ち ゃ ね ・ ぐず ぐ ず
 して い た ら  三 学期 が  はじ ま っ ちゃ う もの !
 はよせ ね は  -   あせる なあ .  気ば か り あ せ る  .
   西澤  う けよか  .   南に しよか  ,   西 澤 に 入 り た い け ど
  おちる  かの う せいが あ るしね 南で はち ょ っ とね . . . 。
  先ぱ い が  一 学年 しか い ない し ・・・・ また 歴史が ない でしょ  .
  だ か ら ちょっ と ・ - - -  。  西 澤 う け て  お ち た ら  ど う し ょう
  どう しょう 、やっぱ り  気ば か り あせって し ま う .
  どう しょう  ど う しょ う  .   千春 た す け て よ  、
  私 を たすけてよ  .  宮脇君  と 文通 したい けど なあ、
  授 験 が ある か ら 文通は ム リ だ ろ う なあ 、  ザ ンネ ンね ・
 さあ ・ 気 ば か り あ せら せず に  明 日 か ら し っ か り 勉強 しょう
  千春たす けてね ・ 千春さま の 歌 を 聞 いてい れば 私 は
  あせり も わす れてしまう し・・・・ 全部忘れてしま う ・
  勉強まで わすれてし ま っ ちゃ まず いけど ね  ... 。
  さあ  ・ あ せる気 は す てて  ・  じ っく り と 勉 強 して
  行くのだ . 今 がチャ ンス ヨ . コ レか らよ! おやす み  .

お兄ちゃんとサヨナラで、雲の上を歩いていたような夢のような三が日から現実に引き戻されつつある、キョーコさん。

>あ ~~~あ ・ 宮脇 君 や 金山 君 や山 角君  ・ たち に 会 い た い なあ

同時にそれは、等身大の恋、宮脇君や金山君と正面から向き合うことになる。告白しようものなら、返す刀で斬りつけられることだってある。ケンちゃんのように、異性で友達のような兄弟ような関係ではいられないだろう。だからこそ挑む価値があると、キョーコさんはしたたかに宮脇君を想い続ける。

>西 澤 に 入 り た い け ど おちる  かの う せいが あ るしね

最果ての北の端の狭いコミュニティー、不合格を知られることを心配しているのだろうか。落ちたら恥となるので、駄目そうでも受けてみるということが通用せず、合格できる確信がない限り、願書は提出しないつもりか。

>南で はち ょ っ とね . . . 。 先ぱ い が  一 学年 しか い ない し ・・・・ また 歴史が ない でしょ

安牌の南は敬遠気味の、キョーコさん。意外なことに、歴史の深みを重要視している。

>私 を たすけてよ  .  宮脇君  と 文通 したい けど なあ、

支えてくれる彼がいたら、どんなにか心強いことか。書面でもいい。言葉で心が通じ合えたら、気が滅入っていても、たちまち元気になれることでしょう。でもそれはちょっと無理そう。

心の隙間を埋めるために、日記が活用されたのだと、この一文が言い表しているようであった。

>さあ ・ 気 ば か り あ せら せず に  明 日 か ら し っ か り 勉強 しょう

いつまでもおとそ気分でいられない。キョーコさんは誰に命令されるでもなく、受験モードに入った。

>千春さま の 歌 を 聞 いてい れば 私 は あせり も わす れてしまう し・・・・ 全部忘れてしま う

受験モードと言っても、マシンのような冷血さで臨むのではないと、ケンちゃん譲りのボケを発揮してみた。

>勉強まで わすれてし ま っ ちゃ まず いけど ね  ... 。

自分でボケて、それを自分で回収した。あぁ、相方がいてくれたらなと、キョーコさんは晴れて高校生活でその夢が叶うことを愚直に渇望する。

>今 がチャ ンス ヨ . コ レか らよ! おやす み  .

最底辺の今だからこそ、チャンスが目の前にあるのだと自分に言い諭す、キョーコさん。

高校の入試テストは、もう目前に迫っている。



 お兄ちゃんが帰るので、駅まで送って行った、キョーコさん。

 駅前の店で、キョーコさんはばばちゃんに高額の商品を買ってもらう。ありがとう!

 宮脇君、振り向いてくれるかしら。

 正月は終わったというのに、気ばかりが焦って空回りし、一向に勉強が手につかない。

 受かりそうだけど、歴史が無いからと遠慮気味だった南でさえ、実は、危なっかしいのだという。

 キョーコさんの自らの口から、一浪もしかねないという思いも掛けない一言まで飛び出した。

 僕が普段から煽り言葉で用いているような、この冬休みが一生を決めるかもしれないとまで激白する、相当追い詰められた様子の、キョーコさん。

 残された日数は、あと僅かしかない・・・・・・

 


つづく…

「沼の淵で喘ぐ少女」廃屋に残された少女の日記'79.02

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