峠ドライブイン-49
 まさぐっていった膨大な量の残留物の中に、ついに、カズ少年がカズ少年であることの紛うことなき覆りようのない証左を探り当てることに成功する。

 もっとも、カズ少年と便宜的に言い出したのは、この僕であるのだが。

 キングカズこと、三浦知良選手は、いまだに現役のサッカー選手としてプレーを続けている。

 カズの大きな背中を追ったカズ少年は、残念ながら、志(こころざし)半ばでサッカーの夢を断念したようである。

 プロのサッカー選手になれるのは、ごく限られた一握りの人間であるのだろう。ましてや、数十年間も現役として活躍出来るのは、極めて稀なケースに限られる。

 僕がサポートするのは、当然、よもや語られることのないであろう、もう一人のカズ、カズ少年の半生を、大垂水峠の輝かしい歴史の一部とともに、伝え残してゆくことが探索者としての責務であると考え、ここに数々の後押しとご協力のもと、書き記すことにした。



峠ドライブイン-48
 いきなりカズ少年のゴールインかと、胸も熱くなり、よかったなと、サッカーでゴールを決められはしなかったものの、人生で永遠のゴールを決めてやったではないかと、もし少年がこの場にいたら、力強く肩を叩き、抱擁を交わし、ねぎらったはずだが、よく名前の欄を見ると、啓太くんではないようである。

 いずれにしろ、関係者の祝い事は自分のことのように嬉しいものである。

 下の二枚のクレパス画による年賀状は、まだ幼稚園に通う孫からのもの。

 二枚の年賀状には二年間の開きがあり、送り主も男の子と女の子の違いがあるが、ワープロのテンプレートと思われる文面は全く同じ内容。一般的に、手抜きと見なされても仕方がない行為。親御さんも育ち盛りの子を抱えて、たいそう忙しかったのだろう。

 それでもドライブインの老夫婦は、涙を浮かべて、書いてくれるだけでも有り難いこっちゃ、と、新年早々、初日の出暴走を終えた若者達で混雑する店内で何度もこの年賀ハガキを見返したことに違いない。

 なんとも微笑ましい情景が頭の中で繰り返される。

 これが、”語る廃墟”を実践していくなかでの、真骨頂であるのかと、眼下の残留物に、憂いの眼差しを向ける、僕。



峠ドライブイン-54
 結婚かと、一瞬、色めき立った高揚感をオブジェにしたような、細胞をグラフィカルにモデリングしてディスプレイしたようでもある、おそらく、店内に飾られていた、お婆さんお気に入りの、装飾品。ここでは一層引き立って見えた。



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 飄々とした、ジャビットくんも。



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 サッカーのことは全く知らないが、カズ少年はプロ一歩手前までいっていたように思われた。



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 ご主人が、最後にこの看板を取り込んでこの場所に置いた時のお気持ちを考えると、二分間ほどは石像のように体を動かすことは出来なかった。



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 重要機密書類でも詰まっていそうなアタッシュケースが、口を大きく開いたままで、床に置いてあった。

 心ときほぐれ胸躍動するような話だけが廃墟には散りばめられているわけではない。

 影の部分をも検証してこその、明るい光の煌めきの存在感が見えてくるといえる。



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 破産申立書。

 債権届出書。

 申立人は、食品衛生責任者でもあるお婆さんであるようだ。

 Araiの重厚感のあるヘルメットで後頭部をぶん殴られでもして、刹那、星が出て、その直後、暗闇に放り込まれたような気がした。

 そういうことを踏まえて、厳粛な姿勢で、語っていかねばならないということである。

 語る廃墟とは、自分でもよく言ったものであるなと、その言葉の重みに、今更ながら、押し潰されそうになり、雨の中の捨て猫のように、肩を震わせる僕なのであった。



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 もういいだろう、という言葉とは裏腹に、こんなコピーまで出てきた。

 黙ったまま僕は部屋を出た。

 新鮮な空気を吸いたかったのだ。



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 山の燃える緑が目にも暖かだった。



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 助走をして勢いよく頭からあの錆びたハードルを飛び越えていってみたなら、下で自然の樹々のネットが受け止めてくれそうな気がなぜかした。



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 呼吸を整えると、バカな思いつきも影を潜めた。



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 胸騒ぎのした鉄の立方体。

 ただの従業員用のロッカーだった。

 虚空がこちらを見透かして皮肉っぽく笑っていた。



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 ようやく、絶景の眺望が楽しめるベランダ巡りをし、その直後、二階への階段を登ってゆくことになった   



つづく…

「仕掛けられた罠」解禁、カズ少年の見守る峠の廃墟ドライブイン.4

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