ローヤル
 数ヶ月前に拒絶され、いい大人が二人、尻尾を巻くように逃げ帰ったという、苦い思い出の残る「ホテル ローヤル」。

 フワフワと雲上を跳ねて飛び歩くような体感のあった後、スッポリと嵌り、そこから一生抜けられないのではという責苦にしばらくの間、まるで自分自身が絵画になったような恥ずかし目を受けることになる。

 要は、キャンバスほどの長方形の枠に、数分間、囚われていたということなのである。

 何を言っているのかわからないかもしれないが、実際体感をすると、あぁ、まさにお言葉通りの行程を経て、今、まさに眼前の光景を眺めています、となるに違いないだろう。

 今僕は、相模湖の湖畔にそそり立つ「ホテル ローヤル」二階のとある一室にいる。

 なぜいきなり二階であるのか、それは過去記事やこの前後の文章を注意深く読んでもらい、それぞれの立場で慮って答えを引き出してもらいたい。



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 バス・トイレ入口の壁に貼ってあったお願いの貼り紙。

 虫の入る恐れがあるので窓はなるべく開けないようにと書いてある。

 周囲に何もないので、夜にはこのホテルに向かって虫の大群が引き寄せられるのでしょう。虫だらけで女の子受けも悪かった。



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 バスの壁のタイルにネズミの絵。



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 ピンクの親子像も。



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 キリン。

 ローヤルは元観光ホテルだったので、ラブホテルに改装の際、タイルを女性ウケしそうな動物の絵に変えたのだろう。発注は『コンセプトはアニマルワールドで』とでも。



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 ビジホやラブホのとは違って、浴槽はゆったりとしている。

 こんな豪華な設備が塩漬けになっているとは、勿体無い話です。

 インバウンド需要の期待できない相模湖なら、涙を飲んで湖畔に異様な姿を晒し続けるしかないのだろうか。



ローヤル-3
 アメニティも充実していた。

 いや、ここまで減るまで取り替えなかったのか。



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 ラブホテルの文字は無い。

 バカバカしいCMまで製作して、華々しくオープンをした時には、まさかラブホテル堕ちになるどころか、廃墟として余生を送るなど考えてもいなかっただろう。

 介抱人として労るだけでなく、闇の中から手探りで魅力を見つけ出し、再生の道への足掛かりとしてのヒントを掴みとってもらいたい。

 これは手助けでもあるのだという確固たる信念は揺らぐことなく、僕はいつものようにより暗がりへと足を進めて行くことになる。



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 ラブホテルのような猥雑さは無い。無機質なちょっと派手なビジネスホテル風。



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 応接間にありそうなソファーに座って、凪の湖面をぼんやりと五分ほど見つめていた。

 皆がこちらを見て笑っているような気がした。実際、そういう対象になっていそうな気がする。



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 東芝の家電はもう売ってないのかと思ったら、家電部門を中国の会社に売り払って、ブランド名を維持しながら店頭ではまだ製品が並んでいるんですね。つまり東芝の商品といっても、中国の会社の製品ということになると。知りませんでした。

 高齢者はそんなことを知らずにハイアールより喜んで東芝の冷蔵庫を買うのでしょう。



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 ドリンク類ぐらいしか入っていなかったこともあり、綺麗なものです。



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 部屋から廊下に出た。

 真っ暗なのでフラッシュをたく。



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 フラッシュは電池の消耗が激しいので、懐中電燈に切り替える。

 二階のドアというドア、全て回して確かめたが、最初の一室以外は固く閉ざされていた。



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 リネン室。

 ピンク色の、ふっかふかの羽毛らしき枕が二つ。



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 エレベーター前。

 我ながら感心する。よくこんなことやっているなと。



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 ペンキが剥げ落ちて地肌の露出した防火扉を開ける。



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 非常階段があった。

 当然エレベーターは使えないので、上へ行くのは階段を使用することになる。



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 物音がしないのを確かめてから、三階へと、出来れば屋上へと、行けることを願って、右足から一歩を踏み出した。



つづく…

「無慈悲な館内」湖畔にそそり立つ、巨大廃墟ラブホテルへ.5

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