回廊ペンション-79
 どこから持ってきたのかもわからない無数の単管パイプを湯水のように用いてクランプで繋ぎ合わせ、ソワールデビュース相模原本棟に併設の城塞を築いた、デビュースオーナーの真意を読み取ってやろうと、単管パイプと単管パイプの間から少しだけ顔を突き出して、回廊のように中庭を取り囲むオーナーによる壮麗ささえ漂う手作りの建築をあっけにとられて暫くの間無言のまま見つめ回した。

 無理が祟ったのだろう、大崩壊を起こしている箇所があったが、見て見ぬ振りをされているのか、自力での修復は困難であると判断されたのか、もう手を入れる価値無しと見たのか、胸をえぐられるようなその惨たらしい現場はそのまま手つかずで放置され続けているようであった。



回廊ペンション-80
 足元に危険を感じて身を乗り出すまではいかないが、葛藤がありせめてもの抵抗として、アゴだけはしゃくりあげてなんとか対象物に近付こうと必死の努力をみせる僕。

 落ちたら瓦礫もろとも飲み込まれて絶命、命は助かったとしても、全身骨折で瓦礫の底で来るはずの無い助けを求め続け、緩やかに死期が近づくのを待つのみの運命となることだろう。

 僕がわざわざ目立つ色の赤いスクーターをソワールデビュースの道路沿い、駐車場入口付近に置いたのは、万が一の場合、老人の家のポストに新聞が溜まるのと同じく、見慣れないスクーターが何日もあるけどどうしたのかしら、と、注意を喚起させることを狙っての、用意周到な考えがあってのことだったのである。

 方策は講じてあるといっても、それは行方不明の期間を減らすためであり、命の保障をするものではない。

 あらためて背筋がピンとなり、身の引き締まる思いがした。



回廊ペンション-82
 津久井の森に還ろうとしている、ソワールの空中回廊。緑の侵食の勢いは止むことはない。

 垂れ下がった汚いバスタオルみたいなのは、旗のような意味でもあるのだろうか。



回廊ペンション-83
 メーカーがバラバラのソファーが置かれている。粗大ごみの日に拾ってきたに違いない。

 オーナー家族と、お客らが談笑をし、お互いの夢でも語り合った、テラス席だろうか。あそこから笑い声が響き渡るような日がかってあったとは、今ではとてもじゃないが想像すらできない。

 オーナーの思い描く像があまりにも大きく、それを実現するには、金に物資、全てが足りなかった。

 負けはしたが、挑んではみた、それが唯一の救いだろうか。



回廊ペンション-84
 ある日突然、轟音をたてて陥没したのか、徐々にだろうか。

 いずれにしろ売り出すなら、このことはこっそり隠したりせず、正確に伝えておいて欲しいものだ。



回廊ペンション-81
 森の神殿かと、見上げ歩きながらしばらく半開きの口を閉じるのも忘れていた。

 上の階層へと進んで行く。



回廊ペンション-85
 椅子が多い。中央にステージがあって、それを観客席が取り囲んでいたのか。

 足を崩したり寝転んでもみられるように、マットレスも用意されていた。



回廊ペンション-86
 プールの飛び込み台のようになっている。



回廊ペンション-87
 何度見ても足がすくむ。

 ちょっとした中規模災害だが、私有地であって人に知られていないということもあり、幸いなことにニュースにはならない模様。



回廊ペンション-89
 コンパネが腐っていたら、真っ逆さまに落下。



回廊ペンション-88
 この空中回廊は一部崩落した部分があって、他は中庭を囲うように通路が設けられていると思っていた。でも歩いてみて考え方が変わった。ある部分から、下から上まで全てが崩れ落ちてしまって、その結果が、この剥き出しの階層の断面の露出なのであり、中央付近が陥没したことにより、中庭のスペースが生まれ、その周囲に結果的に回廊のようなものが形成されたのだと。

 つまりこの空中回廊の元は、延長大規模多層階ステージだったのだ。

 目的は、常設のピアノコンサート会場であったのか。

 中央に設置されたグランドピアノの重みで、この悲劇を招くことになったと。

 もっとも、自然に倒壊しても何の不思議ではない低い耐久性であると考えられるが。



回廊ペンション-90
 大量の消化器があった。

 中央の白っぽいのは消火した際の炭と消化器の粉の跡では。

 まさか、火災を起こしていた可能性も浮上してきた。



回廊ペンション-91
 下の階層が不気味にのぞく。

 うっかり足を滑らそうものなら、下に落ちないまでも、体は通り抜け、顎を強打して頭部だけが引っ掛かって、床から顔だけを出した間抜けな状態になってしまう。

 一時たりとも、心休まる時間はない。



回廊ペンション-92
 引き裂かれた断面。いや、ただの廃材か。

 それにしても、一人の手作業だとしたら、途方もない気が遠くなるぐらいの作業量だったことだろう。

 少しでも安くお金を浮かせたいという彼の倹約の精神と執念だけは認めてあげたいところである。



回廊ペンション-97
 縁に立って更に別角度から大崩落を観察。

 あの決壊の中には、本当にグランドピアノがあるのだろうか。生産性のない暗い想像ばかりが浮かんでは消える。



回廊ペンション-95
 空中回廊の中腹。

 回廊といっても、一番狭い通路はコンパネが縦に一枚だけ辛うじて繋がっているだけの場所もあってそこは無理して通っても得るものも無くただ危険であり、端まで来たらまた戻らないといけない。



回廊ペンション-96
 行ったり来たりを繰り返しながら、上層階まで目指すことにした。




つづく…

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