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意識改革のあらわれであるのか、その日の日記は当日に書くようにと固く心に決めた、キョーコさん。

 スケジュールにメリハリの効いた厳しい制限を設けることで、気持ちのたるみを無くしていきたいという考えがあるのだろうか。

 最果ての地の真冬の凍てつく環境の中で、栄養が足りないのか、寝相が悪いのか、鼻水がダラダラと止まらないような風邪をひいてしまう。

 東京の人間からすると、エスキモーでも風邪をひくのと同義語に思えてしまうが、あの隙間風の多そうな家のこと、親を困らせたくないと、中学生のまだ子供のような少女にも素直に口に出せない、諸事情(光熱費節約など)による気苦労が色々とあるに違いないのだろう。

 風邪のせいもある。甘えもある。やらなきゃとわかっていても勉強が一向に進まない。

 皆はどんどん先に行っている。私が追いつかないようなあの山の向こうの彼方に。草原の中にひとり取り残されて手足をジタバタさせているだけの私。

 なんときゃしなきゃ。前にすすまないといけない。高校受験失敗で留年させてくれとは、口が裂けても言えない。

 藁にもすがる思いのキョーコさんがすがったのは、同級生は冬休みで学校で会えないこともあって、心の拠り所は自然と雲の上の大スター、松山千春に向かっていったのだ。

 チーサマ、チーサマと、執拗に日記に書き連ね、松山千春を頼っているかにみえたが、そのあまりの常軌を逸した脱線ぶりは、つらい勉強から目を逸らすための現実逃避にしか見えなかった。

 勉強と向き合うのを避けようとしているキョーコさんに、希望校への合格は遠のくばかりのように思われた        
 


7a
1979 年    1 月 7 日  (日)      1 1: 2 8

 最近 (昨日 か ら) ,   1 2: 0 0 前 に 日 記 を書 く よ う に
 なりま した 。  昨日 か ら は げ しく 風邪を ひいて し ま っ た 。
 今 日 は * 昨日 より も  ず 。とず っ と ひ ど く ひ い てい る  .
 鼻水 は だ ま っ て い て も  ダ ラ ダ ラ と 出 て 来て  動くの も
 お っ く ~~~~  に な る .  今日 は 悲 惨だ っ た .   ツライ !
  今でも 鼻水 が 出て 来 る しま つ .   イヤ ~~~ ネ!
 明 日  ・  西村 君 言え に 行 か なき ゃ い け な い の だ 。
 今日より も 風邪 が 良く な って いれば よいの だ け れど も  . . _ 。
 風邪を ひく と勉強 も手 に つ か な く な る . お っく ~~~ に な っ て しま っ た .
 **毎日 や ってい た 漢字さえも やらんで し ま っ た 。 (た っ た 一ペ
 ージ や ったっ きり で ... )  これ で は い*け な い  あ と 数 日 (12・ 13
 日)く ら い しか 冬休 み は残 っていない の だ ・ 昨日 か ら なに も 進ん
 で はい な い し 何 も や っ て は い な い .  これ ま た  大変 な こと . . 。
 こんな こと で は ダ メ だ と 知 り つ つ も  一向 に 進 ま な い 、
 ダ メダ コ リ ャ !  千春 様 . 私 は い っ たい ど う な っ て んで し ょ う 。
 教えてください 。千春サマ! チ ー サマの歌を聞か なければ 何 と なく
 勉強が手につきません 。 

深夜に一日の締めくくりとして、日記を書かねばという強迫観念のようなものもあったのかもしれない。

書こう書こうと頭では思うが、筆進まず。筆を持つまでに時間がかかる。

居間でテレビをみて、二階に上がってラジオ。漫画を読んで、宮脇くんとの妄想に耽る。ようやく勉強。でも常に頭の隅には、日記を書かなければという種火がチョロチョロと煙を立てていた。

勉強をロクにやらない日でも、日記さえ書けば、執筆作業ということもあり、何か教養を深めるようなことをやったような気にさせてくれるのであった。するべきことを全うしたのだと、自分を言い聞かせることが出来た。

自己の内面を言葉にするという、日記を書くという作業は心理的負担が大きい。作業量としても結構な量がある。今日一日、何もやらなかったけど、せめて、日記だけは書いて、全くの駄目人間でないことを証明しよう、そうキョーコさんは心に決めて、日記帳に毎晩向き合っていたが、純粋に真っ直ぐに書きたくてという欲求ゆえにやっていたわけではないから、取り掛かるまでに一山も二山もあり、ペンを持つに至るのに時間がまあかかること。お菓子を食べ、コーヒーをいただいて、さぁ、と意気込むも、窓の外をみて草叢の揺れるのを観察しだしたり。

ズルズルと引き伸ばした結果が、深夜0時を過ぎた翌日であり、今日の日記と言っても、正確には、前日の日記だったわけである。よく括弧を用いて実際に書いた日付を付け足ししていたのは、ご承知の通り。

ダラダラと、これではいけないと、キョーコさんは大英断を下して、日記はその日のうちに書くと、宣言をした。

たかが日記、たかが日付とはいえ嘘は書きたくない。だらけた自分を直していきたい。

読み流して見過ごしがちだが、短い一文から、キョーコさんの並々ならぬ意識改革を僕は感じ取ったのである。

いや、なんで僕が、彼女がただ当日に日記を書くと言っただけでここまで執着するのかというと、僕がブログを書こうとする動機にとてもよく似ているからだ。

今日もロクな一日じゃなかった。明日も同じだろう。このまま寝てしまえば、己の個を世に問うこともなく、誰に振り返られることもなく、月日がいたずらに過ぎてゆき、やがて歳を重ねて死んでいくだけだ。

短い人生、それではあまりにも虚しい。ならブログという手段で、我ここにありと、存在証明をしてやろうではないかと、重い腰を上げ、毎日ではないにしても、旅行や廃墟のブログにしては結構な頻度と量で、更新をするわけなのである。

キョーコさんの何気ない一言には、そんな自己を奮い立たせるような自分と共通した動機が感じられて、あらためて、親身になれる一面を見て取ることができ、より一層、最後まで彼女を見届けてやろうという気に僕をさせるのであった。

>昨日 か ら は げ しく 風邪を ひいて し ま っ た 。

冬には氷に閉ざされる地に住む彼女が、『激しい』とまで言う風邪なのだから、よっぽどの症状だと思われる。

>毎日 や ってい た 漢字さえも やらんで し ま っ た 。 (た っ た 一ペ ージ や ったっ きり で ... )

前後に矛盾がある。なんだ、勉強なんかやっていない口ぶりだったのに、漢字の勉強はそうは言っても毎日しっかりやっていたのかと思わせたが、文末には(たった一ページきりで…)とある。

これは、漢字の勉強といっても、二つ三つ書いて終わりで、次の日も数個、結果、毎日やってはいたが、量としては一ページだけだったのだろう。これでは、上の方の高校合格の道は険しい。
 
>ダ メダ コ リ ャ !

もう知らない人も多い、当時国民的大人気TV番組「8時だョ!全員集合」の故いかりや長介のギャクを、それとなく織り混ぜる、キョーコさん。

>千春サマ! チ ー サマの歌を聞か なければ 何 と なく 勉強が手につきません 。

どこまで本気なのかわからないが、この一言を発端にして、狂ったようにチーサマを繰り返す、彼女。勉強から逃げたかったのか。浮かれて踊り、一時でも寂しさを紛らわしたかったのか。その後に襲う虚しさを知りつつ。恋人のいない心の隙間を埋めるのがそのチーサマであるなら、この浮かれようも意味があるのかもしれない。頑張りのモチベーションとなるならば。



7b
          チ ー サマ の 声を聞かないと なんだ か 勉強 する気

に な れません 。 チ ~~ サマ . 大好 き なの です 。
 音楽 が 好きで す .   チ ー サマ も好きで す 。
チ    サマ・♡   ギ ター弾きたいで す 。   今  . 弾 く 時期で は
ない . 弾 い ては い け な い と 知 っ ていて も 分 っ て い て も ・ たまら な く
ギ ター を 弾 きた い と思 う .  思ってしまう 。  だか ら  勉強 にも 手が っ
か なくな って しまう、 勉強に身が 入らなく な る 熱中 で き な く な る  .
 自分 の あまえで しか な いけ れど! これ で は 困 る ,
 チ ー サマ  . *** 助 け て くだ さい ・
 自分の あまえを押 殺 す こと さえも出来 ない 私 .
 そんな私を チ ー サマ は 救って くだ さ るだ ろ う か  ,
 そんな  あ まえ た心の私 を 救 う ど ころ か  ****** 反って 強 く
 *叱る ***  だ ろう .  分 っ て い る け れど  ,  今 の 私 に は   何 を.
 どうす る こ と も 出来 な い   . 何か 何 だ か わか ら な く な っ て しま っ た,
 だ か ら  チ ー さま  , 叱 るの も い い  ・ * 怒 る の も い い  .
 ただ  私 を 救 っ て くだ さ れは い い 。  チ ー サマの歌の声 そ し て
話*を聞 い て い る だ けで い い 。 私 は それだ け で
幸せで す 。 チーサマ が  好 きだ か ら。  私 は並木 の人達
と 一 諸に いる だ けで 幸せです ・ 宮脇君と金山君 と , 山角君 が
好きだか ら . チーサマ  . 宮脇君 .金山君  . 山角君 が 好きだから… おやすみ,
                                             G o o d **N i g ht.

タモリと所ジョージに心酔していた時に松山千春が売れだしてきて、その時は、そんなにいいかしら、とはねつけていたが、人とはこうも変ってしまうもの。流行り物に飛びつかず、じっくり様子見をして後から遅れて参加するタイプ。

>ギ ター弾きたいで す 。   今  . 弾 く 時期で はない . 

受験生だけど、チーサマのようにギターを弾きたい。歌いたい。チーサマの歌が聴きたいと、うわ言のように繰り返す、キョーコさん。

>勉強に身が 入らなく な る 熱中 で き な く な る  . 自分 の あまえで しか な いけ れど! これ で は 困 る ,

好きにギターを弾いて、レコードを聴いてばかりいれば、中学浪人も現実的になってくると、現状認識はしっかりできている。

>自分の あまえを押 殺 す こと さえも出来 ない 私 .

どうしても自分に甘く、勉強が進まない。ケツでも叩かれないと動かないという自覚がある。

>そんな私を チ ー サマ は 救って くだ さ るだ ろ う か  ,

人頼み。救って欲しい。助けて欲しい。寒々とした二階の一室にひとりで悶々としていては、この世から取り残されてしまうと、キョーコさん。

>そんな  あ まえ た心の私 を 救 う ど ころ か  ****** 反って 強 く*叱る ***  だ ろう .  

キョーコさんも、能天気なバカじゃなかった。チーサマは神様じゃない。拝めば頼み事を叶えてくれるはずもないのは、よくわかっていた。もし現実に助けを求めたら、彼なら叱り飛ばしてくれるはずだと。

>どうす る こ と も 出来 な い   . 何か 何 だ か わか ら な く な っ て しま っ た,

今は雪の中の倒壊間近の廃屋の、ほぼ底が抜けた二階の狭い部屋で、たかだか数十年前、こんなにも自分を見失いかけ懊悩して、でもしゃかりきに力強く前を見つめ続けた少女がいたということを、あらためてこの日記に教えてもらい、本当に捕獲して良かったなと、胸が熱くなり、あの時を(日記を手にした時)懐かしく”尊い”とさえ思い始める、僕が、ここにいる。

>叱 るの も い い  ・ * 怒 る の も い い  . ただ  私 を 救 っ て くだ さ れは い い 。

チーサマでも宮脇君でもいい。甘えて楽をしようとするばかりの自分を、厳しく戒めて鬼の心で先に導いてくれないかしらと、一家の中で存在感の薄い父の本来の父親のような役割を求めている、彼女。

>チ ー サマの歌の声 そ し て話*を聞 い て い る だ けで い い 。 私 は それだ け で幸せで す 。

一番入れ込んでいる時期が受験時期と重なったが、それは幸か不幸だったのか。声を聴いているだけで幸せだと。

>私 は並木 の人達と 一 諸に いる だ けで 幸せです ・ 宮脇君と金山君 と , 山角君 が好きだか ら . 

ラジオからチーサマの声をきいて癒やされて、窓の外の草原を見ては、あの三人と近い距離で地続きでいられることに無常の喜びを感じる、そんなささやかな当たり前のことが私の幸福なのよと、届くことのない四人への感謝を述べて、このような発表形態が無かったら、その儚げでいたいけな想いは誰にも理解されることなく、土の中に消えていたのに、なのにせっせと毎晩心情を綴るキョーコさんは、自らに訪れる運命を知ってか知らずか、今日も日記を書き終えると安らかな眠りについた。



8a
19 79年   1 月 8 日 (月 ) (9 日 )  2:0 5

  今, チ ー サ マ の  オール・ナイ ト ・ ニ ッ ポ ン 聞 い て ますの よ。
  チ ー サマ は  たの しい  。
  チ ー サマ の 声 と 話 を 聞 い て い る だ けで 笑 が  うか
  んで 来る . だ っ て . チ ー サ マ の 話し方 と ス ト ー リー は
  もの すご く おもしろ い んだ もの 。
  チ ー サ マ は  本当 に  たの し い 。  チ ー サ マ が  好 きだか ら
  心 のや す ら ぎ は チ ー さま の 声 。
  チー サマ 。 私 は チ ー サマ の 声 を聞い て い る だ けで 幸 せ です .
  チ ー サマ が 好き だ か ら 。 そうよ チ ー サ マ . 今の 私には
  チ ー サマ し か い な い . 私に や さ しい 心 たの し い ひ と 時を
  あたえてくれる人 は チ ーサマ しか い な い . チ ー サマ  ,
  そう .  やっ ぱ り 私は チ ー サマ が 好 きだか ら .
  チ   サマの 話 す たの し い 話 は 私の心 まで を 明るく する  .
  私の心 の すべ てを 明 るく 照 ら して くれる  .  チ ー サ マ  .
  私 はチ ー サマ が  好 きだ か ら ,  チ ー サマ が  。
  チ ー サマ .  私だ け の チ ー サマ で い て ほしい の に ・・ ・・. . .. 。
  チ ー サマ は  日本 中 に 有名 に な っ て しま っ た。

彼女があの家を最後に出る時に最後まで迷い手に取った日記帳。心血注いた日記帳。持って行こうか、どうしようかしらと悩みながらペラペラと頁をめくると、チーサマ、チーサマの文字。顔面は紅潮し、あの時は受験が迫っていたのになんてバカだったなと、若かったとはいえ、闇に葬り去ってしまいたいと、勉強机の一番下の引き出しにこっそり入れたままにした。確かに恥ずかしいものではあるが、誰にでもある病気のようなもので、数十年後に見返せば、笑って振り返ることのできる良い思い出だったには違いない。日記を置いていった理由など、そんな他愛もないことだったのだろう。

>チ ー サマ の 声 と 話 を 聞 い て い る だ けで 笑 が  うかんで 来る . だ っ て . チ ー サ マ の 話し方 と ス ト ー リー はもの すご く おもしろ い んだ もの 。

多感期ならではの感受性の強い恋心を直撃されているのと、勉強から逃げたいのが重なり、その傾倒ぶりは受験勉強どころではないほどに見境がなくなってきている。まさか松山千春のせいで、ランク下の高校に行くことになったとか、あるのだろうか。

>そうよ チ ー サ マ . 今の 私には チ ー サマ し か い な い . 私に や さ しい 心 たの し い ひ と 時を  あたえてくれる人 は チ ーサマ しか い な い . チ ー サマ

あの今ではふてぶてしささえある松山千春にも、全国の女子中学生を盲目にさせる時期があったとは、今の人には想像できないだろう。頭では若い頃ならそうだろうと考えはつくものの、こういったまさにその時期の生の声を聞けば、彼の歌手人生はより深く讃えられるべきものであるといえる。人の心をここまで動かす商売が他にありますかと。

>チ ー サマ .  私だ け の チ ー サマ で い て ほしい の に ・・ ・・. . .. 。

>チ ー サマ は  日本 中 に 有名 に な っ て しま っ た。

地元のチーサマでいて欲しかった。寒村生まれの北の英雄として、北の地でコンサート活動をしてくれていればそれで良かった。ところが、歌の大ヒットにより、全国区にのし上がってしまい、手の届かないところまで行ってしまわれた、チーサマ。



8b
昨年 は 昨年 まで  (2 年 前) まで は そ う で は な か
 っ たの に _  チ ー サマ . 私 だ け の チ ー サマ で い て ほしい
 チ ー サマ  .  私は  チ ー サマ が  好 きだ か ら  、
 チ ー サマ . チ ー サマ  ・  チ ー サ マ  .  チ ー サマ  . チ ー サ マ . チー サマ .
 チー サマ ♡ 大好きよ .  チ ー サマ 。  チ ー サマの ”何 な んだ い .” ”ネ!”
 ”アホ か よ  . お ま え ”  ”お まえ ”  ” た~~~ ま んなか っ たり な んか
 してね ,”   ”   ・ ・ ・・・ だ ぞ  。  . . .  だ よ な   。 ... . だ べ 。”
 ”や って み れ ”  ”  .  . . .  だ け ど ナ ! ”  ” ナ!” ”ナァ~”
 ” オ レ !”  ”オ マ え!”  ” 言 っ た  . ..。  ”  ”ナン**ナン ダ ヨ  オアマエ”
 ” ア ~~~ ホ が よ  ”   これ ば っ か し  .   千春 の 口 ぐ せね  .
 チ ー サ マ  口 悪 い もの  ,  オマ エ!オ マ エ! っ て もう .
 ” お こ る ど ”  ” お ~~~ こ る ど  ”  ” か っ て に お こって よ
 チ ー サ マ   . _ .   ”  私 は  チ ー サ マ が 好きだ か ら  .
 大好 き  チ    サ マ  . 千春 . 千春  ♡ .  チ _ サマ.
 そ う で し ょ う ・ チ ー サ マ 。   チ ー サ マ ?  チ ー サ マ ?
 大好 き な  チ ー サ マ  .   一 生  .  チ ー サ マ の 声 を 聞 い て
 いたい  .   チー サ マ が 好きだ か ら 。
 い つ も  _  い つ も  チ ー サ マ が  好きだ か ら _.. .. 。
今日* はげ しく 風邪ひ いた . 西村 君家で 勉強して き た . お や すみ
                                        GOOD . N I GHT ,

恋の病とはまさしくこのことで、胸に詰まった言葉を誰にも見られていないところで活字にしたとすれば、まさにこのような醜態を晒すことになってしまうようだ。他に自分の過去の青春時代の日記をそのまま掲載する人がいそうにないのは、若さゆえの過去の痴態を披瀝したくないからであろう。

降霊術であるかのように、チーサマ、チーサマを繰り返す、キョーコさん。書き起こしている側の僕に尋常ならざる狂気が紙一枚隔てた向こうから熱を持ってじんわりと伝わってくるようだった。

>これ ば っ か し  .   千春 の 口 ぐ せね  . チ ー サ マ  口 悪 い もの

ぶっきらぼうな物の言い方が、従順なキョーコさんの女心を掴んで離さない。無理を言われて、呆れながらも、振り回されたい。

>一 生  .  チ ー サ マ の 声 を 聞 い て いたい  .   チー サ マ が 好きだ か ら 。

千春様。砕けた表現で、チーサマ。本質は変わらない。強い主従関係がそこにはある。彼女は有無を言わさずに頭ごなし言うような威圧的な男を求めている様子。

一緒にギターを弾きたい、声を聞きたいなど、音楽的な感性で心を通じ合わせたいというのもキョーコさんの特徴。

タモリがジャズ、所ジョージがコミックソング、松山千春は言わずもがな。思えば、一見してバラバラの彼らが、実は音楽で繋がっていたことに、今になって愕然とし、キョーコさんの底流にはそういった感性が息づいていたのだなと、意外に深くもあった彼女の人間性を見つめ直すきっかけになった。



 懐かしい先生から年賀状が来た。まだ独り者なのかなと心配をしてあげる、心優しい元教え子のキョーコさん。

 だらだらしているうちに、冬休みは残りあと10日だけ。

 妥協をして、もう進学先は「南」でいいを連呼する。寄せられた情報によると、この新設校である「南」は、後に女性の芥川賞作家を排出することにもなる高校である。

 文末には当時の大ヒット曲の能天気な詩を嬉しそうに書いて、依然として受験に挑む緊張感の無い態度続ける、見ている側には不安しか抱かせない、彼女なのだった      





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