54
 キョーコさんに残された冬休みは、あと一週間もない。

 もう何もする気がないと弱音を吐きながらも、当時、日本中で大ブームを巻き起こしていた、テレビゲームをして一日中遊んでいたいのだと、受験勉強を放棄するような悲観的な言葉を口にする。

 受験生には禁句である「落ちる」を連呼する。達観したかのように「おちるでしょう」とも   

 人生を切り開くためには、やらなきゃいけないことはわかっている。実行しなければと。しかし、夢ばかりが膨らんで、やる気が夢でかき消されてしまう、もう駄目だ、私はどうしたらいいのでしょう、と、キョーコさん。

 進まなければ地獄、進んでも地獄のキョーコさんの口から、「努力」「希望」「自由」といった言葉が突如踊り出す。数ページにもわたって、「自由」の意味を説く、キョーコさん。

 父からもたらされた衝撃的な、我が母校の廃校の話。

 姉史之舞の部屋に数日間の予定で泊まることになった。その翌日、史之舞の恋人に会うが、まるで自然界を制圧してしまいそうな、普通に暮らしていればまず耳にしないような三文字の苗字に、昭和の少女漫画の登場人物のような名のその男。

 キョーコさんのその男に対する感想は、実に意外なものであったのだ   



13a
13b
  1979年   1月 13 日     (1 4 日)   *1 1 : 51

  今日 は 土曜 日で した , あ と  5 ~ 6 日 しか あり
  ませ ん  ,  もう 何 も す る 気 が あ り ません  ・  一日 中 テ レビ
 ゲ ーム をし て 遊ん で いた い  、  私 は   受験 し て も
  おち るで  し  ょ う ・  私 として は 落ち たく あ り ま せ ん  .
  で も  今の 私 は  落ちます 、  私 は ま た  自分 は

  受か る と 思 っ てい る よ う で す.   バ カ で す ,  私 は  。
  今 の 私にとっ て 必要 な のは  夢を お う こと で は あり
  ま せ ん  .   今 の 時を ど のよ うに して す ご せ は 自 分 に
  と っ て 良 い の か , これか ら の 私の 人生 と して も や く
  に た つ か 考え て 実行す る と い う こ とが
  私に は 一  番  必 要 な ので す  、  知ってい る ので す 、
  でも  知って いて も 考 え よう と して も  ほんとう の 心 は
  いつも 夢で  い っ ぱ い で 考 えよう と して も  ・  知っていて
  も .  すべ て が 夢で けされ て し まう .  耳 ~ー 耳 へ と
  つたわっ て 出て い ってしま う _  夢 を 追 いか け る の は
  や めよ うとしても  ,   むりで し ょ う . だ* めで しょ う  .
  わか ります ・  そう感 じ ます . 知っ て い る の で す  .
  もうだめで す . もうだ めです 、 もう だめで す  .
  私は ど う した ら い い の で しょう , ど う した ら .
  お しえてく だ さ い 、 お しえ て くだ さ い .
  夢 よ  .   きえ て お く れ .  な く な っ て お くれ .
  どう せ 夢 を見る の な ら  自分 は ど ん な 道 を 選
  んだ ら 良 い か  , そ んな 夢 を 見な さ い 、 今 の 私 の
  見ている 夢 は 何 に も な ら な い 夢で す . 

冬休みは残り一週間を切っている。なのに覇気もなくやる気なしのキョーコさん。

> 一日 中 テ レビ ゲ ーム をし て 遊ん で いた い

正月に喫茶店でやったスペースインベーダーにすっかり嵌ってしまったのか、新しいものに目覚めた時特有の初期の依存症にかかってしまっている様子の彼女。世間は取り憑かれたように、ゲーム筐体のテーブルの上に100円玉を積み上げてプレイに熱中していたので、キョーコさんも、家にいながら『ゲームがやりたい。あの続きがやりたい。あの電子音に包まれた中で打って守るのハラハラとする世界観に入り込みたい』と、ちょっとした中毒症状になっているのだろう。当時の日本人は皆そのようだったので、キョーコさんとて例外ではないということだ。

>私 は   受験 し て も  おち るで  し  ょ う

言い切っている。やらずば落ちる。身を呈して体現している最中であるから、そのままを言っているのだ。わかっていてなぜやらないのだと、理屈をこねて説明しようする、キョーコさんなのであった。

>私 として は 落ち たく あ り ま せ ん  .  で も  今の 私 は  落ちます 、  私 は ま た  自分 は 受か る と 思 っ てい る よ う で す. 

当然ながら高校には行きたい。でも、冬休みの終盤にテレビゲームをやりたいなどと一向に机に向かおうとしない現状なので、受験失敗は目に見えている。だけれども、私は何の根拠も無く、受かると思っている。どの口が言うのか我ながら恥ずかしいのですが、受かると思っているようなのです、と、顔を真っ赤にせんばかりに、キョーコさん。

>今 の 時を ど のよ うに して す ご せ は 自 分 に と っ て 良 い の か , これか ら の 私の 人生 と して も や く に た つ か 考え て 実行す る と い う こ とが 私に は 一  番  必 要 な ので す

夢が先行してしまい、足元が疎かにになっている。合格するだろうと漠然と思うだけで、テレビゲームや宮脇君のことばかり考えてしまい、今日も一日が終わろうとしている。実行が必要だと。

>ほんとう の 心 は いつも 夢で  い っ ぱ い で 考 えよう と して も  ・  知っていて も .  すべ て が 夢で けされ て し まう . 

>夢 よ  .   きえ て お く れ .  な く な っ て お くれ . どう せ 夢 を見る の な ら 自分 は ど ん な 道 を 選 んだ ら 良 い か  , そ んな 夢 を 見な さ い

しばらくの間、飲み込めなかった。キョーコさんは行き詰まっていて、ノイローゼ気味になって幻影でも見て支離滅裂になっているのではとさえ思った。この常人とは思われない言動も、夢を「根拠無し努力無き高校合格」と置き換えれば、勉強をしようとしても先に夢ばかりみてしまい、肝心のそれに至る過程の勉強が手につかない、と解釈することができる。勉強もせずに高校合格なんて、そんな夢は消えておくれ、今は将来のことを考えて何をしたらいいのか、そんな夢をみなさいと、彼女は冷静に自分を諭しているのだ。



13c
                       あ なた

は , バ カで す .   馬鹿 で す  .
何故 , 知っ て いるの に  勉 強 を し な い人で す  .
努 力 を しなさ い .  あ なたに と っ て  たり ない も の は
努力 で す 「努力 」 く じ けて し まっ て はだ め です .
努 自分 の 進む 道 の 希望を 持 ち な さい  .
 そして  、 一歩 一  歩  正画  せい か く に  その 時間
を . す ご して 行き なさ い 、 努力 で す  .
希望  ・  私は この 漢字 は 好き で す . でも 意味
 は・  そ ん な に  好 き で は あ り まで ん  ・ 希望
私の好き な 言葉 は 自 由 です  .
 それは  とても はかない もの 、  つめた く て .
さみ しくて . み じめで  こ ど く で  . . . .  . .
 そんな  み にくい  人生 が 自由 で す .
で も だ れか ら も  _ 何 も言 わ れ す  ・ 何 にも さ れ ず 、
 ただ 一人  自分 の 好き に で き る  . 自 分 の心 を、
 一 人 .  さ み し く いる 。 自 由  、 み じめ な 人生 だ け ど
 私は  自 由 と いう 言葉がす き  _  青色 もす き  、
 つ めた く _  こ ど くで  .  さび しく て .  か な しくて .
 何か さみ しさ  ,  か な しさ . をあ た え* 

あなたはバカだ、それを知っていて勉強をしない愚か者の怠け者であると、もう後が無いと、今までになく自分に対して厳しい態度で臨む、キョーコさん。その落ち着き払った様子が逆に事の重大さを窺わせる。こんな自分にホトホト困り果てた末の戒めなのか。

>あ なたに と っ て  たり ない も の は 努力 で す 「努力 」 く じ けて し まっ て はだ め です .

親や先生などの人生経験のある人からの忠告ならまだしも、怠け癖のある自分が自分にともすればエラそうにかしこまって苦言を述べて言い聞かそうとしているのは、傍目からみれば滑稽かもしないが、キョーコさんは真剣であり、自らを奮い立たせようと躍起になっているのだ。

>努 自分 の 進む 道 の 希望を 持 ち な さい  .

努力の「努」ってこうだっけ、これで合っているわよね、と、試し書きの跡。

>私の好き な 言葉 は 自 由 です  .

努力という漢字は好きだが、意味、つまり、自らが努力をすることはそう好きではない模様。

草原の中の一軒家に住み、普段から束縛の無い生活を送る彼女にとって、好きな言葉は「自由」。漢字を一つ一つ覚えたり、数式を解いたり、日々の積み重ねの勉強など、窓から広がる壮大な大草原のうねりを見ていると、勉強に縛られている自分が囚われの身のようで、息が詰まりそうになる。私から自由を奪ったら、何が残るのよと。

>それは  とても はかない もの 、  つめた く て .さみ しくて . み じめで  こ ど く で  . . ..  . .

さぞ自由を謳歌しているかにみえたキョーコさんだったが、そうではなかった。彼女の思う自由を語ってくれた。

儚く、冷たく、寂しくて、惨めで、孤独・・・。

あの二階の一室で、自由を得てはいたが、キョーコさんの心は実は荒涼として隙間風に吹きさらされていたのだ。夢を掴みたいと、飛びついてしまうのも無理もない。

>そんな  み にくい  人生 が 自由 で す .

草原に解き放たれて自由であっても、醜い。ひとりはもう堪えられないと、屋根下の余剰スペースのような天井の低い狭い部屋から、声なき声をあげる、キョーコさん。

>で も だ れか ら も  _ 何 も言 わ れ す  ・ 何 にも さ れ ず 、 ただ 一人  自分 の 好き に で き る  . 

孤独と引き換えに、自分の好きに出来る時間がある。今はみじめかもしれない自分を、慰めるように自由も悪くないと並び立てる。

>み じめ な 人生 だ け ど 私は  自 由 と いう 言葉がす き  _  青色 もす き  、 つ めた く _  こ ど くで  .  さび しく て .  か な しくて . 何か さみ しさ  ,  か な しさ . をあ た え

自由という言葉に、自らの境遇を重ね合わせる。みじめだけど、言葉は好きなんだと。青色も、冷たくて孤独で寂しくて悲しいものではあるが、その哀切を帯びた言葉は好きなんだと説明する。

みじめな人生と言いながらも、高校入学をなんとか果たし、今と違う自由を手に入れようと、心の底では思っているのだろう。

キョーコさんは、自由に続き、「希望」という言葉にも触れ、自らの想いを訥々と語りだした   



13d
                                                                   涙を 思い出

 される 色 すみ き っていて  ひ ろ く て  大き くて
  さわや かで まるで す い こまれ そう な . ..  _ .
  青 .  自 由  .    希望.   この中 で  き らい な 意味
  をも つ もの は 希望  .  私は この  漢字が  書き
  やす い ので  好き な の  . 希望  . とく に 希
  望は 好きで は な い  , 希 ! この 字が 好 き ,
  希  希希 希希希    か け ば か くほ ど
  好きに な る  ・    私の 心 はそ んなのよ .
  こん な こ と ば か り  が  つ まっ てい る 私
  私は バ カ で す  .
  知ってい ます ・ 努力   き ら い な 言 葉 . 漢字で す _
  で も  好 き に な ら な く ち ゃ  い けな い   .
  今 の私 に は す べ  て 努 力 が 必要 .
  考えなさい  努力 しなさい  ・  お  や す み

  つ い し ん  ,
   昨 日 . 父 か ら き き ま した  今年の 4月  、  か ら
  54 年度か ら . 行間辺 小中学校 は なく な り ます  .
  並木といっ しょ に な る ので す .  私 が  9年 間す ご した 家 .
   この学校が あっ たか ら こ そ , 単球が で きたの に   . .  .
  最後 に の こ っ た もの は 9年間 の 生活 .

北の空の澄みきった青、広くて大きくて爽やかで吸い込まれそうな、青。自分の中の自由と青は今はとても憐れで救い難いけれど、その二つの言葉が本来持つ意味は詩的で情感が溢れてきて好きなんだと、キョーコさんは言う。

>この中 で  き らい な 意味  をも つ もの は 希望  .  私は この  漢字が  書き  やす い ので  好き な の  .

希望も、意味は嫌いだが、漢字は好きなのだと話す、キョーコさん。今の自分には夢も希望も無い。自分の中の希望が嫌なのであり、本来の言葉の意味は好きであるということなのだろう。錯綜する胸の内を彼女なりの精一杯の言葉で説明しようとする。

>希  希希 希希希    か け ば か くほ ど  好きに な る  ・

嫌いと言いながら、好きなんだと言ってみたり、ざっと読むと、情緒不安定なのかと心配にもなる。ただこれは、言葉としてはその通りになりたい自分がいるが、退廃的で閉塞感のある未来しか見えて来ない現状に窮して、自己嫌悪に陥っており、二律背反する言葉の中で揺れ動いているのかもしれない。
                                                                   
>私の 心 はそ んなのよ .  こん な こ と ば か り  が  つ まっ てい る 私

鬱積した思いを上手に言葉に表せなくて自棄になる彼女。

>私は バ カ で す  .  知ってい ます ・

もどかしい。胸に渦巻いたもやもやを自分にさえ説明できない自分がもどかしい。私はバカなんだと、キョーコさん。

>努力   き ら い な 言 葉 . 漢字で す _  で も  好 き に な ら な く ち ゃ  い けな い   .

自分と対極にある、忌み嫌う努力。でも好きにならないと、未来は切り開けない。あの草原の中の家で孤独に老いて死を待つのみの人生しか今は見えない。

>考えなさい  努力 しなさい  ・

努力をして勉強をすれば、未来はきっと変わると信じて、キョーコさんは布団の中に入り、そっと目をつむり、深い眠りについた   

つ い し ん  ,

>昨 日 . 父 か ら き き ま した  今年の 4月  、  か ら54 年度か ら . 行間辺 小中学校 は なく な り ます  .

長距離トラックか季節労働者として内地に出稼ぎにでも行っていると思われた、滅多に話題に出てこない父から、突如、膝から崩れ落ちそうにもなる、悲報がもたらされたのだ。

いくら北の端の凋落する一方の寂れゆく過疎の町とはいえ、我が学び舎が、消えて無くなるのだという。小学校、中学校、共に。

>並木といっ しょ に な る ので す . 

正確には生徒数激減により、並木に統合される模様。沼の名にもなっている、地元の土地の名を冠した学校が全て消えてしまう。キョーコさんに胸に去来するもの、察するに余り有る。続けざまに、彼女は、想像もしていなかった事実を口にする。

>私 が  9年 間す ご した 家 .

舗装もされていない道沿いにたたずむ、草原の中の質素な木造一軒家に、てっきり慎ましく生まれ育ったのかと思っていたら、意外なことに、どこからか引っ越して来たらしい。

9年前といえば、キョーコさんが小学1年生の時。

お父さんが脱サラでもして、酪農家に転業したのかとも思っていたが、以前のご職業でそんなに成功していたとも思われず、土地や建物など新たに購入したと考えるのは現実的ではない。

コメント欄では、酪農家の祖父が体調を崩し、家業を継いだのでは?との指摘があったが、実際、それが一番信憑性が高そうである。もしかしたら、その祖父というのは、母親の父であり、つまり、お父さんは婿として、今の家に入った。酪農を手伝うのは母であり、婿である父は以前から続いて長距離トラックの運転手でもやっているので、滅多に家にいないのかもしれない。

祖父母がもう歳だから一緒に住んでおくれ、家と土地はやるからと、キョーコさんが小学校に上がったのにあわせて、キョーコ一家があの今では朽ち寂れた廃屋になっている家に引っ越して来たということだろう。

>この学校が あっ たか ら こ そ , 単球が で きたの に   . .  .

我が母校を失うことに動揺して、卓球を単球と書いてしまった、キョーコさん。

>最後 に の こ っ た もの は 9年間 の 生活 .

通いし我が学び舎が消滅する。まっさらになる。残されたものは、キョーコさんの記憶の中の9年間だけ。ことの重大さに、目の前が真っ暗になり、しばらく、言葉を失った、キョーコさんなのであった   



14a-15
 1979 年   1 月 1 4 日    ( 1 5 日 )   0:2 1

今日 は  史之 舞ち ゃ ん の部屋に とま る こと になって
 あ と   2 . 3 日  い や  1 . 2 日 く ら い と ま る こ とに
 な っ て ま し ゅ  .  そで で は そ ろ そろ ねます ・ 今 日 は
 ぜんぜ ん  勉 強 し ま せ んで し た .  お や すみ 、

 1 9 7 8   1 9 7 9 年  1 月  1 5 日 (1 6 日)  0: 5 0

今日 は . 海 山 田  煌 矢 と いう 人 に 会った  . *
 史之 舞 の  こ のみ は  あ んな か  - -ー-   ・・  へ ん な の ・
  私の  こ の み と  全々  ち が う  。 私 の全々 こ のみ じ ゃ
 ない ・  私 の こ の み は   ・  -  -  -   _    _____   。
  明 日 は  お っ か な い  バ バ       の  い る 歯医者 に
  行 くの だ   ・   ガ マ ン ジ ャ , ガ マ ン ジ ャ  _
  今 日 も  史之舞の 家 に  と まります ・  チ    サマ大好き
  宮脇君 元気か な  ・金山君元気か な ・ ・ ・  ・あ とし ょう 略
 *** み んな の 顔 が 見たくなっ た , 宮脇君 ・ 金山 君 に会い
  たい ・ 千春サ マ ,  私は千春 の お 話を き いてい る とやすらぎ -
                        ます ・ お や す み

前夜の、自由や希望といった言葉をマイナスへマイナスへと捉えていた暗く澱んだキョーコさんの姿はもうどこにも無かった。

街中に泊まるのがよっぽど嬉しいのだろう、姉をちゃんづけで呼んで胸高まる様子を文面上で表現してみせた。

努力しなければ惨めな人生だと悲観していたキョーコさんの姿は何処へやら。パッと切り替えて、姉史之舞とのお喋りにでも夢中になり、勉強をすることはなかった、夜   

>今日 は . 海 山 田  煌 矢 と いう 人 に 会った  . 

翌日。

病院でその名が呼ばれれば、皆、「俳優さんかしら?」と辺りを見回すような、特に三文字の苗字はそう聞かない苗字。下の名前もキラキラネーム一歩手前の芸名みたいな名前。苗字+名の組み合わせは、日本中に彼一人ではないかと思われる。

当初、キョーコさん側の肉親でもないし、全てを公開しようと考えていたが、昔別れた恋人の相手として今頃弄られていると、本人に憤慨されてもと思い、断腸の思いで、名を伏せることにした。

会ったと書かれているだけで、恋人とは言及がないが、キョーコさんが史之舞のアパートに泊まった翌日、海山田さんが知ってか知らずか、紹介も兼ねていたのか、訪ねて来たのだろう。姉より、この人が例の「海山田煌矢」さんよと、説明を受けた。

「海山田 煌矢(うみやまだ こうや)」とは、リアルネームからイメージをもとに僕が当て字をした仮名ではあるが、自分でも感心するぐらい、元の名を忠実に再現してある。本当の名前の方がインパトがあるぐらいだ。

>私の  こ の み と  全々  ち が う  。 私 の全々 こ のみ じ ゃ ない ・

海山田さん、キョーコさんの好みではないらしい。だとすると、タモリや金山君に惚れていたキョーコさんのこと、海山田さんは端正な顔立ちである可能性が大きい。

> 明 日 は  お っ か な い  バ バ       の  い る 歯医者 に  行 くの だ 

子供には厳しい歯科医のいた歯医者さん。今はもうその孫がやっているか、廃業になっていることでしょう。昔は、他人を叱ってくれる大人がいたものだった。

>今 日 も  史之舞の 家 に  と まります

冬休みの残りをカウントダウンして焦りを滲ませていたのに、全てを忘れ、姉のアパートに泊まって街を満喫する、キョーコさんであった   



 怖い人がいるという歯医者へ行った、キョーコさん。その歯科医はオバーさんだという。震える手で、乱暴に扱われたでもしたのか、恐怖体験を語る。

 歯科医によって荒らされた心を癒やしてくれるのは、やっぱり好きな人の妄想愛。

 憧れをテーマにして、今までとは別視点で恋愛観を披露してくれたのであった   



 
つづく…

「この期に及んで、一目惚れをする少女」廃屋に残された少女の日記'79.06

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