ローヤル-21
 階段を登る際のブーツの音が、非常階段限定で響き渡る。反響音を抑えようにも、ソールが加水分解気味なり、硬質プラスチック化していることもあって、緩やかに足を着地させて音を出さないようにするのにも限界というものがある。

 自分が響かせる音に動揺はするが顔には出さないように努める。

 入ってたった数階ほどでひりつくような精神状態を味わうなか、三階を示すプレートが見えて来た。
 


ローヤル-22
 右には館内への鉄の扉、防火扉。

 左には外が見える割れた窓。



ローヤル-23
 本来、車の通る道が草木によって埋もれようとしていた。

 自然を取り戻すには、人と車を排除すればすぐにこのようになるというわかりやすい見本であった。



ローヤル-24
 防火扉の真鍮のドアノブを回す。

 苦もなく開く。



ローヤル-25
 一番手前の301号室は施錠されていた。

 廊下には侵入者が枕投げでもやった跡が見られる。



ローヤル-26
 リネン室。

 業務用洗剤などが置かれたまま。



ローヤル-27
 リネン室は天井と床が突き抜けていて上下で移動できるようになっている。

 凝ったわりには、無駄になった模様。

 右手、左手で、暗闇の中、ドアのレバーをことごとくチェックをしていくが、どこも鍵は閉められていた。



ローヤル-28
 廊下の行き止まり。

 開いたら逆に怖い気もしたが、取り越し苦労だった。



ローヤル-29
 三階から四階へと。



ローヤル-30
 防火扉が冷蔵庫で固定され開いたままにしてある。

 この気持、わからないでもない。

 防火扉に鍵がかかることは無いにしても、ここを閉じて館内を探索して戻って来たら、建物老朽化による立て付けの悪さにより、もし閉じ込められたら、という恐怖は常に僕にもつき纏う。

 場合によったら先程の三階のように全部屋閉じられている状態で防火扉までロックされてしまったら、ワンフロアが完全な密室となってしまう。

 ロックされ仮に一室開いていたとしても、脱出するには、それこそ、ローヤルがかって流していたCMのように、あの逆バージョンで、シーツを結んでロープにして、窓から外に出て上から下に降りなければならないことになってしまう。その姿は相模湖から丸見えで、生き恥を晒した上に、この時代、拡散されて、大ごとになり、家の近所も歩けないほど気まずいようなことになってしまうのは目に見えているだろう。

 いま一度、気を引き締め直さないといけない。

 思いを新たにして、細心の注意を払いながら、四階の廊下へと進み出た。



ローヤル-34
 ここも数ミリの遊びもなく扉は動かず鈍いガタゴト音がするだけ。



ローヤル-33
 何の意匠か表象かよくわからない。

 上方向に向けられた間接照明の傘だろうか。



ローヤル-31
 全て閉まっていて特にやることもなく、ポスターでも破いて撒いたのか。



ローヤル-32
 設備はそんなに古くない。メッキ部には輝きさえある。

 立地と、潰しのきかないラブホテル経営に手を出してしまった末路がこれなのだろう。行き詰まり、最後の望みに賭けた結果なのかもしれないが。



ローヤル-35
 シャワーキャップ。



ローヤル-36
 閉じ込められることなく、四階から五階へと。



ローヤル-37
 ここ五階では、ある一室だけが、ひょっとして廃墟になってから僕が初? とさえ思えるぐらいに(ドアに固定物があるのでそれはないけれど)当時の趣をそのままに残している部屋に入ることができた。

 ふかふかのダウンピローが仲良く二つ。

 ルームサービスのメニュー。

 ローヤルの料金パンフレット。

 満たされたアウスレーゼ。

 ウェルカムドリンクの煎茶のパックやインスタントコーヒーのパックなど、小皿にセッティングされたまんま。

 何より、荒らされた形跡が全く無かったのである   




つづく…

「産みたてのような部屋」湖畔にそそり立つ、巨大廃墟ラブホテルへ.6

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