ついに、廃墟ラーメン屋「どさん子」の二階にある焼肉屋「もーもー亭」一番奥の座敷に到達する。
吊るされているのは、恵比寿様か、大黒様のお面だろうか。
どういう趣味を持つと、焼肉屋の客席にこんなお面が。
もしや、遺体にはこのお面が被らされていたのでは、と、つい、とんでもない、まるで本意でない、不謹慎極まりない想像が頭を駆け巡る。
心の中で丁重に幾度も頭を下げ、土足ではあったが小上がりの座敷にあがり込み、「どさん子」総決算とも言える、最終の大探索に、今、取り掛かかろうとしていた
人形のチョークの跡がないかと、卓上ロースターを備えたテーブルの下を仔細にに確認。
手応えは無い。
無理に残留物をどけた空間にも見える。
畳に積もった砂埃に人型の乱れは感じられず。
どさん子と違い、グラスやカップにお金をかけて高級感を演出してある。そこはまあ、評価するとしよう。
が、コーヒーカップのソーサーと、アイスを出す小皿が全く同じなのはいただけない。女性などは不衛生さを覚えていたのではないだろうか。
こういうところが、積もり積もって、ただでさえ瀕死のどさん子を廃墟たらしめる要因となっていったであろうことは間違いないところだと思う。
素人がデザインしたような牛のキャラが描かれた箸袋の「いらっしゃいませ」が廃墟で虚しく胸に響く。
居抜きで人に貸すこともできたのだろうけど、年齢的にもう無理を重ねたくなかったのでしょう。設備はじゅうぶん過ぎるぐらい整っていて、余力を残していた。
二階、最深部、トイレ前。
雑然とするが、ここで絶命したとする確然たる形跡は見当たらない。
狭いし、彼も場所を選ぶことだろう。
僕がこの奥座敷に到達する手前で、横目でちらりと、実は、ある物を視界に入れていた。
それがそうであるならば、片道三時間もかけて遠方の千葉の果ての廃墟ラーメン屋まで、それを目当てにして、僕はやって来たと言えるのだ。
逃げるな、逃げるな、と、五回ほど言葉を飲み込む。
暗澹とした空気が滞留して息苦しい殺伐とした店内を紹介できただけでも、普通なら良しとするところだ。
僕はそれでけでは気が収まらなかったのだ。
これには、警鐘を鳴らす意味もある。
世捨て人となり、人知れずお亡くなりになられても、救われることは何一つありませんよ。
辛くても今をしのげば、何か道は開けてくるものなのです。
フジテレビの新春特別番組にあともう一歩で出演することになっていた僕が見出したあの「廃屋生き仙人」さんが言われるように、周期的にはもうあと僅かで関東大震災が起きて、東京オリンピックは中止、日本国民の生活がリセットされるのだと、彼は独特の嗅覚で熱弁してくれていた。
そんなことが本当に起こるかは疑わしいけれど、生きてさえいれば、何か別の飛躍出来る可能性を掴める権利を誰しも有することが出来ることは、間違ってはいないだろう。
生きてさえいればです。
”彼”のような過ちを踏襲しないためにも、是非、これを見て欲しく思う
もう、お分かりいただけただろうか
盛り塩だ。
こうなっては、何のためにこの世に生を受けたのか、彼の生誕した時のご両親の喜びの笑顔を想像すると、この身が削られる思いがする。
寂滅された方のお名前だろうか。
ひっそりとあの世に旅立つけれども、最後に、自分の名前だけは、一部の人にだけでも、我、確かにここにあり、と、緩やかな自己主張はしておきたかった。
現世において、最後に目にしたのが、ワンピースであるとしたら、これほどの皮肉は見たことがない
盛り塩のすぐ下に、「新★都市伝説」の雑誌。
どうせ、内容はほとんど作り話に決っている。
僕は、過酷な真実を伝えに、はるばる千葉くんだりまでやって来たのだ。
厳然たる事実を前にして、嘘ばかりが詰まった本など、立ち読みする程度の価値も無しだ。
その瞼の裏に焼き付けて欲しい。
こうなってしまっては、夢さえみられないのだよと
この階段を踏み外し、前転して転がり落ち、脳天を地面に叩きつけて死ぬのもこれまた人生、そんな達観した肩の力の抜けた考えをこの状況において自分がこの短い時間の間に出来るように成長したような気がしたのだ。
往来の激しい幹線道路沿い。
狭い歩道にも自転車で通行する人が絶えない。
そんな歩道の一画に立ち、好奇の目に恥じることなく、両手を脇にそれぞれ揃え、中指はきりりと真っ直ぐ下に、深々と黙礼を、いつもより若干長めの六秒間ほど、黙々と続ける。
どうか、静かに、安らかにお眠りください。
また遭う日までや、また来ますは嘘になるので、言いません。
駅に向かおうと歩き出す僕に、車からの視線が突き刺さったが、僕はなんだったら、こんにちは!と手をあげて挨拶しかねない爽やかな心持ちで、駅までの道のりを軽くステップを踏む躍動感溢れる足取りで、老人の自転車を追い越しかねない速度で帰って行ったのだった
おわり…
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コメント
コメント一覧 (28)
今は他県在住ですが地元民でございます。
20年前、小学生の時に友人とこの廃墟に行った事があります。地元では有名な廃墟でした。白骨遺体発見のニュースを見た時は友人と驚きあいました。1階に新しい白色の自転車が置いてあったりと、当時も人が住んでいた形跡があったのを記憶しています。調味料や食器などがそのまま放置されている光景を目にして、何とも言えない気持ちになりましたね。2階に上がってジャンプをしたら建物がグラグラと揺れた事を覚えています。20年前、地元の少年達の心を擽ぐった思い出の廃墟です。
カイラス
がしました
モーモー亭は、同店かは分かり兼ねましが、春日部・大沼公園附近に現存しております。
そちらで色々と伺ってみれば、お話しが聞けるかと思います。
カイラス
がしました
ご存知かも知れませんが、当時の事件に関する記事です。
https://www.jprime.jp/articles/amp/8234?display=b
店舗の開業が'70年代初頭ということなので、残されていた冷蔵庫の年代と一致しますね。
廃墟になってからは周辺住民から忌み嫌われていたようなので、建物に近づく人がいれば警戒されてしまうでしょうね。
亡くなっていた方は記事に書いてある廃墟に住み着いたホームレスである可能性が高いですね。
発見当時ですでに死後数年経っていたので汚れや臭いも消え去っていたのでしょうね。
地方の中核市に住んでいますが、駅前にはよくホームレスがいます。女性のホームレスも見かけたことがありました。
ホームレスには体の病気だけでなく精神疾患を抱えている方も多いようで、とにかく無気力で全てを拒絶してしまうということもあるようです。
今後、全国に多数いる引きこもりが親を失って家賃や固定資産税などが払えなくなった時、彼等はどこへ行くのでしょうね。
異端を排除し続けてきた社会に跳ね返ってゆくでしょうね。
カイラス
がしました
生きてさえいれば...
こうなってしまっては、夢さえみられないのだよ...
その言葉が心に響きます。
爽やかな気持ちで帰路につけた事を知り、こちらも前向きになれました。
本当に生きてさえ...ですね。
カイラス
がしました
盛り塩が、湿気も吸わずにそのような形で残されている…。
どなたかが、時折塩を盛りにいらしているのでしょうか?
検死のままそこに盛り塩が綺麗に残っているとすれば、何かしらの力を感じざる得ません…。
身体に巻いて寒さを凌いでいたであろう緩衝材、雑誌…残留物に宿る思念の有り様にも重みが有りますね。
カイラス
がしました
2人で生活されてたのかな、と思いました。
そして左の方が亡くなられて、
この世に生まれた証しに、相棒が
彼の名前を壁に残し、盛り塩をして合掌をし、
この場を去って行った、、と勝手に想像してしまいました。
人間は、生まれる場所と死期死に場所は
選べないと思っていましたが、
ここには、この世の別れ際に寄り添い
見送る人もおらず、最後の景色は煤けた焼肉屋の天井と言うのは、あまりにも寂しすぎます。
せめて、空を見上げて尽きたいものです。
カイラス
がしました
カイラス
がしました
悪戯に塩を盛る人も居ないだろうから、間違いない無さそうです。
北海道と比べたら、比較的暖かいですが、数日滞在したらやはり慣れと言うのか寒く感じて来ますからね。
都会のビル群の中だと、北海道とは違った冷たさを感じます。
あのプチプチに繰るまってすきま風に耐えていたんでしょうか?
何とも切ない気持ちで御冥福を祈ります。
カイラス
がしました
勤務していた駅が飛び込み自殺の多い駅でして、通称「マグロ」というのですが
マグロがあった後は先輩が「塩盛っとけ。」と言われて引きずられて来た場所に
盛ったりもしました。この塩は警察関係の人が持ったのでは?と思いました。
間違っていたらすみません。
カイラス
がしました
いつも見ていると足のふみ場が無かったり、埃だらけ…写真でしたら見れるものの、実際には行く事が出来ない様な場所の探索、お疲れ様です。
今、私がちょうど病んでいるので(肺炎)色々と疑問が浮かびました。
ホームレスの方は、いくら苦しくても病院には行けないのでしょうか?私の今の様な状況になると、我慢しながらも誰にも言えずに亡くなるしかないのか…?
医師がみたら、やはり診てあげることもないのでしょうか…!
熱が上がり、食事も食べれず飲めず…!辛い時間でしたが、入院すると何もかもせずにいれる有り難さ、それを受けれずに亡くなる日本の、世界の国々の人々に申し訳なく、考えさせられました。
安らかに、眠りながら亡くなられていたら良いですね。
その方にも産まれた時、笑った幼少の時があって生きてきた事を思うと…!来世でまた、楽しんでくださいと祈るばかりです。
カイラス
がしました
盛り塩をした人の心中は本人にしか分からない
のだから、盛り塩の場所がそうであることを
明確には否定できないですね。。
ブログ主さん、ほんとうに探索お疲れ様でした。
カイラス
がしました
グロテスクな描写を避けるため意図して映らないように撮影したのでしょうか?
通常盛り塩は建物の入口にするものであり、亡くなった場所に盛るものではありません。
盛り塩には厄除けの効果があると信じられているからです。除霊の効果を謳う書物はありません。
また、盛り塩は白磁の皿に盛るものであり、地面や机に盛ることはありません。
カイラス
がしました
カイラス
がしました
今日行った西永福にどさん子発見でしたが昼過ぎたら早々に準備中とやるきなさ半端なしdeath。
カイラス
がしました