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 街で見てきたばかりの話題のハリウッド映画をよっぽど気に入ったのか、それとも、街の歯科医院で一目惚れをしたあの彼と同じ頭をした人ばかりが出演しているので、スクリーンの中にその彼の姿を見ていたのか。

 今日の今、見たばかりであるのに、後世に語り継がれる名作でもなんでもないその映画を、キョーコさんは声を詰まらすように、もう一度見たい、たまらなく見たいといじらしげに呟くのであった。

 今日も歯医者へ行った。

 そこには均君や伸一君もいたが、彼らの存在なんてどうでもよかった。なぜなら、あの人がそこにいたから。

 思い返せば、今日見た映画、スクリーンを突き破って出てきたような格好をしている、愛しの彼。

 想いは募り、若干禁じ手でもあったが、見事、彼のフルネームの入手に成功をする。

 もっと知りたい、彼のことを。また見てみたい、あの映画。

 主人公は口が大き過ぎてちょっと・・・。準主役のあの人がお気に入り   

 歯医者の次は姉の史之舞の家に行かなければならなかったが、気づくと、彼が向かったであろうバス停の方へ、キョーコさんは走り出していたのだった。



18a
1979 年  ( 59 年 )    1 月 1 8 日     1 1:50

今日 グリー ス を 見 て 来た 。  も う 一 度 見た い 。 た ま ら
なく 見 た い 。
 今日  , 父 の 車で  歯医者 まで   も の す ご  い  コ ミ 様 だった.
 もう , す ご い の 。  均君 . 伸 一 君 も来 てい た,
 伸 一 は  2時 か ら の  受 け つ け に な り  . 均君 は も う
 終 っ た と こ ろ だ っ た .  私 は  1 1 時 4 0 分 ご ろ 終 っ た .
 * 待 っ て い る 時間 内 の 時  ( だ い たい 来たば か り の 時)
 あ の 人 が 来 た 。  私 は 昨日 も書 い た よう に  一 目 ボ レ し て
 し ま っ たの 。  あ の 人は  ...... だボ だ ボ の ジ ーンズ(ブ ルー)
 そし て  皮 ジャン を  き て  ・   リ ー ゼ ント  で ・・・  で も  ぜんぜん
 不要 ぽ く な い 。  す ご く  心 はやさ し そ う 。  何 と なく おとな し
 くて  ・・ ・ -  背 は  1 6 0 ち ょ っ と く ら い  。  ひ く い け ど  ....
 一目 ボ レ した ん だ も の . 目 は 二重で  口 の 所が と んがっ
 ている と いうか  ・  出てい ると い うか  ,  鼻 は ふ つ う . (どっち
 か とい う と 下 )  *  体 の わ り に 頭が大き くて .、、.
  そんな 貴方 に 一 目 ボ レ 。 今 日 も  彼 はきたけれ ど
母さんも  いっ しょ に い た。(来た )  あの 人 の 名 は

二つの希望校のうち難しい方を敢えて、自分の未来のためにもと選んだはずなのに、入学試験まで残りわずかだというのに、なぜか映画を見に行ってしまう、キョーコさん。

>今日 グリー ス を 見 て 来た 。

映画「グリース」とは、1978年の(アメリカ)の学園ミュージカル映画。サタデー・ナイト・フィーバーが大ヒットをしたジョン・トラボルタの次の作品。アメリカでの公開から遅れること翌年に日本で封切られ、キョーコさんが映画館に駆けつけたのだろう。

みたことはないですが、髪をグリースでカチカチに固めた札つきの不良リーゼント少年の物語であることは想像に難くない。

>も う 一 度 見た い 。 た ま らなく 見 た い 。

日本でいえばビー・バップ・ハイスクール程度のB級映画と思われるが、いたく感動した様子の、彼女。若さによる豊かな感受性により、薄い内容でも感動出来るのかもしれない。でも、たまらなく見てしまいたくなるのには、別の理由によるものらしかった。

>今日  , 父 の 車で  歯医者 まで   も の す ご  い  コ ミ 様 だった.

普段はいないも同然の父親が積極的に運転手になってくれている。わざわざ父の車と書くあたり、父親を嫌悪する思春期の少女のこと、素直に感謝の言葉は出さないが、大喜びとまではいかないものの、嬉しく思っているには違いない。

>均君 . 伸 一 君 も来 てい た,

当時まだ街はギリギリ活気もあり人も多かった。でもマトモな歯医者はそう多くなかったのか、決して狭くはない街のとある歯医者さんにて、知り合い同士がかち合ってしまう。

>伸 一 は  2時 か ら の  受 け つ け に な り  . 

君づけのところを、大して気になる存在でもないことから、呼び捨てにして書いてしまっても気づかないまま。もう心はあの人のことだけ。

>待 っ て い る 時間 内 の 時  ( だ い たい 来たば か り の 時)あ の 人 が 来 た 

均君や伸一はもはや空気。キョーコさんの待ちかねた、”あの人”が来たのだ。

>私 は 昨日 も書 い た よう に  一 目 ボ レ し てし ま っ たの 。

雷が落ちたように、胸を貫かれて、彼のことしか見えなくなってしまった、キョーコさん。受験に必至に藻掻き苦しんでいても、ひと度走り出すと、もう誰にも彼女をとめることなど出来やしなかった。

>あ の 人は  ...... だボ だ ボ の ジ ーンズ(ブ ルー)

現代のスキニーとは対極にある、ダボダボだというジーンズ。ボンタンのデニム版が当時流行っていたのか、それとも彼オリジナルのコーディネートであったのか。

>そし て  皮 ジャン を  き て  ・   リ ー ゼ ント  で ・・・  で も  ぜんぜん不良 ぽ く な い 。

宇崎竜童リスペクトか、矢沢永吉か。横浜銀蝿の登場にはまだ時間を要する。典型的なヤンキーの身なりをする、彼。キョーコさんは必至に彼は不良でないとの説明をする。別に不良だって構わないとは思うが、もしヤンキーの彼と付き合うことになると、自分もレディースの道に進まなければいけなくなるのではという怖れがあるのだろう。それはあまりにも今の自分と乖離している。何より親の悲しむ顔は見たくない。高校に受かったとしても、勉強などろくにせず、高校生活を過ごし、その先の展望は全く開けないに決っている。彼は不良じゃない。そうであってくれ。何なら、キョーコさんは、独特の感性で、不良かそうでないか、見極める力を持っていたのかもしれない。

>す ご く  心 はやさ し そ う 。  何 と なく おとな しくて  ・・ ・ -  背 は  1 6 0 ち ょ っ と く ら い  。  ひ く い け ど  ....

不良は体が受け付けない。牛みたいな草食動物のような人がいいのだと。ここでも、見た目で男を選ばないというキョーコさんの確固たる信念(性癖?)は揺るぎない。背は低めだが、そんなことは気にしない。ハートなのよと。

>目 は 二重で  口 の 所が と んがっている と いうか  ・  出てい ると い うか  ,  鼻 は ふ つ う . (どっちか とい う と 下 )  *  体 の わ り に 頭が大き くて .、、.

二重以外はチャーミングポイントとは決して言えない。むしろ欠点ばかりの不細工な男の説明。キョーコさんは徹底している。内面から滲み出る彼の優しさを感じ取ったのだろう。

>そんな 貴方 に 一 目 ボ レ 。

宮脇君の期間は短かった。歯医者の待合室の彼にもう夢中。

>今 日 も  彼 はきたけれ ど母さんも  いっ しょ に い た。(来た )  あの 人 の 名 は

リーゼントに革ジャンを着こなした彼が今日も来た。それもお母さんと一緒に。母親思いの人かしら。

あの人の名は・・・



18b
  菅野 時治 .  あの 歯医者 は い い 歯 医者  , だ って
  バ ッチ シ 名 前 が  わ か っ ち ゃ う も の 。   で も  あの人 は
  明日 か ら 学校 。  ど この 高校 に 行 っ てい る ん だ ろ う
  何年生なんだ ろう .  知 り た い .  あの 人 の こ と .  貴方 の こ と.
  *******  あの人 は   2 時 か ら の 受 け付 け に
  なったの で ど っ か に  帰 っ て い き ました (また  来 る
  のは 知 っ てい たけ ど  , ) 私 は その あ と  .   写真 を
  とり に 行っ て   す ぐ  終っ たの で  すぐも ど っ て 来て
  自分の 番 が 来 る ま で ま っ た   。   終 っ てか ら   .  私は
  グ リ ース を 見に行っ  た   1 10 0 円  も 高 か っ け ど
  良かっ た,   あ      見 た い   も う 一 度  見たい   .
  私は あの 中 の   キリキ     と い う 人 が  好 き に なっ て
  し ま っ て .   ジョ ン トラ  ボ ルタ も  べ つ に 悪 い 顔で はな い
  でも 口が 大 き すぎ る ( のまれ そう )  歌 は うまい  .
  キリキ ー が 好き  .  あ ~~~~  * グ リ    ス を また 見た い .
  見たい 見たい  。     グ リース を 見 た あ と で  又  .
 私 は歯医者 に 行 っ た . 何 の 様 も な く 、  (伸 一 は まだ
 いる か なと 思 っ て .  東 か んまで  行 っ たけ ど  入るのを
 やめて 行 こ う と した . する と   ・・・・ あ の 人 が   い た .  

一目惚れだった。

キョーコさんの心をわし掴みにした歯科医院、待合室のリーゼント頭の男。

キョーコさんは、彼のフルネームを入手。

>菅野 時治 

その名は「菅野 時治 」。

鎌倉時代の武士「北条時治」のように、勇ましくあり、芸術方面にも長けて欲しいとの願いが込められて名づけられた名前だろうか。

>あの 歯医者 は い い 歯 医者  , だ って バ ッチ シ 名 前 が  わ か っ ち ゃ う も の 。

キョーコさんは、歯医者を絶賛する。愛しの彼のフルネームをいとも簡単に提供してくれたもの、と。

呼び出しでフルネームで呼ばれていたとしても、漢字まではわからないはずだ。おそらく、受付で提出する診察カードは、ケースか何かに入れるようになっていて、誰にも見られる状態になっていたのだろう。時治君が診察カードを提出した瞬間を見計らい、キョーコさんは間髪を入れず駆け寄り、自分も診察カードを置くフリをしながら(実際彼の上に置いた)穴のあくほど彼のカードの名前欄を凝視した。『あっ、菅野 時治って名前だわ!!』と。

>で も  あの人 は 明日 か ら 学校 。  ど この 高校 に 行 っ てい る ん だ ろ う

彼と受付の女性との間に次のような会話があったに違いない。明日から学校が始まるので、放課後に通えるような診察時間にしてください、と。

彼の吐息さえ聞き漏らすまいと、待合室のソファーの上で神経を張り詰めさせてじっと聞き耳を立てていたキョーコさんだったが、高校名までは特定するに至らなかった。

>何年生なんだ ろう .  知 り た い .  あの 人 の こ と .  貴方 の こ と.

金山君、宮脇君、など、もうあの山の向こうに遠く霞んでいた。時治君、何年生なのだろう、知りたい、もっと知りたい、”貴方”のこと。辞書を引いて、「貴方」という漢字もつい今しがた覚えたばかり。

>終 っ てか ら   .  私は  グ リ ース を 見に行っ  た   1 10 0 円  も 高 か っ け ど良かっ た

歯医者での診察を終え、その足でキョーコさんは映画「グリース」を見に行った。大規模経営でもない決して裕福とは言えない家の娘のキョーコさんからしたら、1100円の映画チケットはさぞ高額に感じたことだろう。それでも見たかった。きっと、グリースでテカテカに固められたリーゼント姿の登場人物達の向こうに、時治君を見ていたに違いない。彼への一途な想いが、高額な出費を物ともせず、キョーコさんをスクリーンに向かわせたのである。

>良かっ た,   あ      見 た い   も う 一 度  見たい   .

私的ながら、「ゴーストバスターズ」を今年度一番の映画だったと評して、大恥をかいたことがある。キョーコさんも、青春時代のこととはいえ、よくあんな映画に夢中になっていたものねと、後年、頬を赤らめているのではないだろうか。

>私は あの 中 の   キリキ     と い う 人 が  好 き に なっ てし ま っ て

今となっては誰も知らない俳優かもしれないが、脇役の「キリキー」がお気に入りの彼女。

>ジョ ン トラ  ボ ルタ も  べ つ に 悪 い 顔で はな いでも 口が 大 き すぎ る ( のまれ そう )

ジョン・トラボルタは口が大き過ぎる、飲み込まれてしまいそうだと、生理的な嫌悪感を示す、キョーコさん。

>グ リース を 見 た あ と で  又  .私 は歯医者 に 行 っ た . 何 の 様 も な く

なんと、キョーコさんは、映画を見終えた後、再度、歯医者に戻っていた。時治君はとっくに診察を終えてそこにいるはずもないのは十分承知の上であろう。

ソファーに残る温もり、待合室に漂う残り香だけでもいいから、彼を感じていたいと、キョーコさんは用もないのに、再び歯医者へ向かった。

>伸 一 は まだ いる か なと 思 っ て .  

伸一の名前はもはや呼びつけであるようであった。以前指摘されていたが、やはり下級生なのかもしれない。

その伸一に学校のことを聞くのをさっきは忘れていたからという口実でも作り、そうやって伸一に会いに行くふりをして、歯科医院に二度も行くことを正当化してみせた、キョーコさんの見事な策略。

>東 か んまで  行 っ たけ ど  入るのを やめて 行 こ う と した . する と   ・・・・ あ の 人 が   い た

ざっと読んだ時は地名かと思いモザイクを入れてみたものの、落ち着いて読んでみるとこれは、歯科医院の東館という意味なのかもしれない。

くだらない、私バカなのかしらと、入るのをやめて行こうとしたら、彼はそこにいた。時治君はキョーコさんを待っていたわけでは勿論ないが、確かに彼はそこに座っていたのであった   



18c
 私は 気 に な っ て うろ ち ょ ろ  歯 医者 の 近 くを ぶ ら り
ぶ ら り , 彼が好 き ,  ど う して  こ んな に 好 き に な っ て
 しま っ たんだ ろ う .    あ の人 の こと 。
 あの 人と  .  お ば ち ゃ ん は 出 て ど っ か に き え た .
  私 は  さきを ある い て  いた の で  き ゅ う に い な く
  なっ て , 。  き っ と  あの か ど を まが  っ た の か も ・・・
 と 思 っ た ・    私 は 史之舞 の 所 に 行 か な きゃい けない
   で も  まだ 時間 が  ある   ・・・ 私 は  あ の 人 が  ・ まがっ
 て 行っ た と思 わ れ る  道を 行 っ た  ・  前 に は いなか
  った  .” ふ ”っ と  大 通 り の 歩道  ,  を 見 た  。あ の 人 ら し い
  人が  い た  .  私 は  い そ い で  わ た っ た  .
  あの 人達は  北 陸 銀 行 の  バ ス の り ば で ま っ た
  私も  ど う せ バ ス に の る の だ か ら  . ち ょ う ど よか っ た
  と 思 っ た  ・  私 は こ こ まで  あ の 人 を お い か け て
 来た  。 で も も う  こ れ 以 上 は  い け な い -- - - ・
  へ ん な 立 て ふ だ ( だ ぶ  大 き な  立体 カ ン バ ン)
  を はさ ん で  あの人 と な ら ん だ  ,  タカツ堰  行 き の
  バ ス が来 た ので  私 は  あ の 人 の バ ス を の る

驚いたことに、時治君はまだ歯科医院にいた。キョーコさんの手の届くすぐそこに   

>私は 気 に な っ て うろ ち ょ ろ  歯 医者 の 近 くを ぶ ら りぶ ら り

治療を済ませ、映画まで見終わっているのに、帰ろうともせずに、挙動不審の変質者であるかのように歯医者の周りを見悶えするかのごとくぶらつく、彼女。

>彼が好 き ,  ど う して  こ んな に 好 き に な っ てしま っ たんだ ろ う .    あ の人 の こと

運命って、こんなものなのだろう。しかし、接点が歯医者しかなく、見続けられないことには関心は持続しないだろうから、冷めるのは案外早そうだ。

>あの 人と  .  お ば ち ゃ ん は 出 て ど っ か に き え た .私 は  さきを ある い て  いた の で  き ゅ う に い な くなっ て

歯科医院から出てきた時治君と付添いの母親。前の予告でお婆ちゃんと書いてしまったが、よく読むと「おばちゃん」、つまりお母さんのようである。おばあちゃん子ではないようだが、もういい歳をしてリーゼント頭に革ジャンを羽織っていながら母親と歯医者に来るぐらいなので、マザコンの気はありそうな、彼。

歯科医院の前に道でぶらついていたところ、二人が急に出てきた。キョーコさんは怪しまれないように適当な方向に歩き出したが、時治君親子も進む方向が同じで、二人に後ろを付かれるという、彼女にとって好ましくない状況に置かれる。で、気づくと、後ろを歩いていたはずの二人がいなくなっていた。

>き っ と  あの か ど を まが  っ た の か も ・・・と 思 っ た ・ 

どこかの角で曲がったんだわ。つくづくあきれ果てるくらい間抜けな私。意図せず先導をしてしまい、まんまと逃げられたようなもの。

>私 は 史之舞 の 所 に 行 か な きゃい けないで も  まだ 時間 が  ある 

姉の史之舞のアパートに行かなきゃいけない。でも時間にはまだ余裕がある。ギリギリの時間まで、時治君の背中を追いたい。

>私 は  あ の 人 が  ・ まがっ て 行っ た と思 わ れ る  道を 行 っ た ・  前 に は いなか った  .” ふ ”っ と  大 通 り の 歩道  ,  を 見 た  。あ の 人 ら し い 人が  い た

今では人っ子一人歩いていない、夏でも吹き付ける風が冷ややかにさえ感じる、あの寂しいコンクリートのもぬけの殻のようなゴーストタウンのような街で、当時のキョーコさんは熱い息を弾ませて、二人の親子の追跡劇を演じていた。今こんなことをしたら、相手にバレバレになってしまうことだろう。

雑踏の中に、時治君らしい人が、いた。

>あの 人達は  北 陸 銀 行 の  バ ス の り ば で ま っ た

>私も  ど う せ バ ス に の る の だ か ら  . ち ょ う ど よか っ たと 思 っ た

その親子は今でも知るはずもない、キョーコさんの息を切らしての追跡劇。

キョーコさんもバスに乗るので、時治親子に近づいてもおかしくなかろうと、とりあえず、荒れた息を整え、落ち着きを取り戻す。

>こ こ まで  あ の 人 を お い か け て来た  。 で も も う  こ れ 以 上 は  い け な い -- - - ・

こちらもバスに乗るとはいえ、これ以上親子に近づいたら、不審者丸出しでけったいな子がいると、二人に顔を覚えられてしまう。これ以上はとても行けない。

>へ ん な 立 て ふ だ ( だ ぶ  大 き な  立体 カ ン バ ン)を はさ ん で  あの人 と な ら ん だ  ,  タカツ堰  行 き の バ ス が来 た ので  私 は  あ の 人 の バ ス を の る

愛情を持って時治君を追って来たことが極力バレないように、立体看板を挟んで彼と並んだ。

バスが来た   



18d
バスが来た   

 の も 見ず に . さき に い っ て し ま っ  た  ,
 あれか ら ど う した だ  ろ う  .  私 は  た だ そ う 思
 う ば か り .  私 は  彼に 一  目 ボ レ    .
 私 は 貴方 に 一 目 ボ レ  .  ど う し  ょ う も な い
 ど う にも な ら な い ,   私 には 何 も 出 き な い  .
 どう しょうも な い  ,  私 は  た だ  見つめ て ・
  お いか ける だ け .    私 は  貴方  に 一 目  ボ レ
  だ け ど ・  だ け ど  ,   貴方 は   .  .  _  _  .  _
  あと  一 日 し か 冬休 み の こ っ て な い け ど
  今 年 の 冬休 み は  あ ま り か わ ら な か っ た .
  で も  今 まで  と は 違 っ た  .
 今 まで 冬 休み 中 に    人 を 好き に なっ た
 こ と など な い の に  .  私 は 貴方 に  一 目ボ レ
 を してしま っ た  .   ど う しま し ょ う  .
 昨日 ・  あ の人の 横 のイス に  ど う ど う と すわっ
 たけ ど  . . .  .  _  私 は今まで の私 で は あり ま
 せん ・  今 まで は 気 に して いたけ ど   こ ん ど
  か ら は  その 心 を お し こ ろ  し  ,   で き る だ け
  貴方 に近づ く よ う に ガ ン バ  ル つも り 貴方が 好
                    お や すみ  き

親子の乗るバスが来るのも見届けず、キョーコさんは先に行ってしまった。今までのように遠くから見つめているだけで何になるのよと、切り込んで行かなきゃ振り向いてくれやしないわよと、いつものような自分の行動を戒めたのである。

もう、同じ轍を踏まない、と。

>私 は  彼に 一  目 ボ レ    .私 は 貴方 に 一 目 ボ レ  . ど う し  ょ う も な い  ど う にも な ら な い

>私 には 何 も 出 き な い  .どう しょうも な い  ,  私 は  た だ  見つめ て ・お いか ける だ け . 私 は  貴方  に 一 目  ボ レだ け ど ・  だ け ど  ,   貴方 は   .  .  _  _  .  _

まるで自作の詩を口ずさむかのような、キョーコさん。

>今 まで 冬 休み 中 に    人 を 好き に なっ たこ と など な い の に  . 私 は 貴方 に  一 目ボ レを してしま っ た 

冬休みに初めて恋をしたということは、学校以外の人を好きになったということ。狭い行動範囲。歯科医院通院が恋の恵みをもたらしてくれた。

>昨日 ・  あ の人の 横 のイス に  ど う ど う と すわったけ ど  . . .  .  _  私 は今まで の私 で は あり ません

昨日の待合室では、時治君の隣に、堂々と座った。今までの彼女なら、遠くからチラチラ眺めるだけだったが、もう今までの消極的な私ではありませんよと、キョーコさん。

>今 まで は 気 に して いたけ ど   こ ん どか ら は  その 心 を お し こ ろ  し  ,   で き る だ け貴方 に近づ く よ う に ガ ン バ  ル つも り

変なふうに見られていやしないかしら、付きまとわれているように思われていないかな、鬱陶しいからあっち行けなんてもし言われたら立ち直れなくなるからこっそり遠くから見ていよう、と、そんな今までの弱気な自分の心は隅に追いやって、新しい、大胆な自分を出していき、貴方にもっと近づけるようになれたらと、生まれ変わったようなキョーコさんが、確かにそこにはいたのであった   



 また今日も歯医者に行く。彼の姿は無かったが、名前はあって、診察時間が書かれていた。

 雪降るなか、北陸銀行前のバス停まで行って、彼が来るのをじっと待つ。

 涙が出そうになる。いつも私はひとりぼっち。たまらなく寂しい。いつまでこんなことを続けるのかしら   

 時治君似の頭をした人達が勢揃いする「グリース」を見たいと口では言っているが、今日見て来た映画はなぜか、世界的大ヒットホラー映画のこれまた第二弾。

 僕も見たことはあるが、そこまで夢中になるのかなといった、人とは違う感性をみせるキョーコさんは、そのホラー映画の感想を、膨大なページを割いて説明してくれるのであった   


 

つつく…


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