田浦-75
 予想以上に進行していた、田浦廃村の解体作業。

 空き家という空き家の死屍累々と折り重なる廃材の上を、器用にバランスを保ちながら、果敢に前へ進んで行った。

 振り返ると、口をあんぐり開けたまま僕を放心状態で見送る宗典邸が、何か言いたげであった。

『カイラスさん、行政や大企業に翻弄され、強制退去させられた挙げ句、我がふるさとが、この無残な有り様です。僕の帰る故郷が、子供達にみせてあげたかった村が、無かったものとして、地上から今、カイラスさんの目の前で、消滅させられようとしています。あなたが立っているのは、明日にでも撤去される運命にある、田浦廃村の遺骨という名の、住民の汗と涙が染み込んだ、彼ら(行政や業者)からみれば、ただの廃棄物です。僕の言わんとしていること、数々の現場を渡り歩いているカイラスさんになら、おわかりいただけることと思います。あなたがここで見たことの全てを、どうかお話し下さい。二度とこのような愚行を繰り返させないためにも、あなたのお力が是非、必要なのです   

 僕は宗典邸に向かって、四十五度の慇懃な礼を尽くすことで、その任を果たす意思を厳かに伝える。

 次に踏み出した右足が、背中越しに手を添えられているような気がして、いつもより力強く地面を踏みしめたような気がしたのだ。

 きっと、気のせいに違いないだろう。

 当たり前のことをやろうと、僕は次の廃屋に取り掛かるのであった。



田浦-78
 田浦廃村は、山に囲まれた狭隘な土地に造成された住宅地。

 宗典邸を村の入り口だとすると、ここは山の手前に建つ平地最奥部の
家。

 斜面の山にも住宅はあり、幾つかはまだ残されているのがここからも見える。



田浦-81
 虫の息もしない、室内。



田浦-80
 近所の公園に散歩する時にでもかぶっていた、バゲットハット。



田浦-79
 去り間際のような、汲み取り便所。



田浦-83
 宗典君、これが大企業の、手のひら返しですよ。ご両親は、終の棲家としてローンを組んで購入したことでしょう。シェアハウスに、レオパレス、老人を騙して地方の畑にアパートを乱立させる、◯東建託。

 ここで目を瞑ってはいけないと、僕は目の前の現実を切り取った。

 自分のやり方で、声をあげればいいんだ   



田浦-82
 廃村背後に控える山。

 山道を覆う手延素麺の天日干しのような樹木。



田浦-102
 どこのインドネシアのジャングルですか?

 いえ、横須賀なのです。

 元家主の悲鳴が聞こえてきそうだ。



田浦-100
 優先順位が低いため、原型が保たれているのだろう。



ポスト-1
 空だったポスト。



田浦-85
 白いレースのカーテンが手招いているようだ。

 三秒ほどの黙礼をしてから、入り込んだ。

 おじゃまさせていただきます。



田浦-89
 畳はしおれていて形をなしていない。



田浦-87
 横たわる、ぬいぐるみ。

 女の子がいたご家庭でしょうか。



田浦-88
 手作りのパッチワーク感が残るぬいぐるみ。

 丹精込めて作ったお人形のはずだ。

 持って行ってあげられなかったのだろうか   




つづく…

「平成最後の昭和大探索」廃村に行ったら取り壊し直前だった件.8

こんな記事も読まれています