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 鳥の囀りや風にそよぐ木の葉の音を時折切り裂いてゆくバイク音。それも一瞬だけで、峠はすぐさまいつもの平静さを取り戻し、森閑として山の鼓動だけが響き渡る。

 バイクや暴走車が群れをなして峠を夜通し騒乱に陥れていた、あの熱い時代に、峠の中腹に勤労オシドリ夫婦の営む一軒のお宿があった。

 膝に空き缶を縛り付けて、ハングオンでコーナーを曲がり、火花で路面に雷撃シュプールを描いていた、あのバカ騒ぎの少年達は、もう、工務店の社長にでも納まっているのだろうか。

 バイクブームの沈静化や若者の貧困化による車離れにより、峠を訪れる人は激減。名物夫婦が苦しい経営状態のなか守って来たお宿も、苦渋の決断で、連れこみ宿に転業はしてみたものの、いつしか、ひっそりと廃業に追い込まれることに。

 それから、数十年の歳月が経ち、廃墟になったお宿に訪問したのは、ご存知、この僕。

 二階の子供部屋には、例の交換日記の横に、和香子ちゃん渾身の作品、少女漫画作品が数冊、お手にとってお読み下さい、と言わんばかりに、残されていた。

 魂を削って描いただろう、若き血潮が一ページ毎に脈動するこれらの漫画作品集を、今だから言えるが、いずれ倒壊することが運命(さだめ)であろう廃屋に、誰が無責任に見過ごして置いたままに出来ようか   

 中高生時代なら、誰しも、漫画家になる夢を一度や二度、思い描いたことがあるはず。

 お宿の二階の窓の隙間から見ていた、大空一杯の夢、少女漫画家への道。

 閉ざされた夢ではあるが、夢の途中の目も眩むような瞼さえ透過しかねない赫奕たる残滓、輝きを放つ数冊の大学ノート。

 人の心を持つなら、和香子ちゃんの夢、叶えてあげたいと、公開に踏み切るのも、自然な流れであるように、僕には思われたのである。

 これは、中学か高校時代にお宿の少女が描いた、コンセプトアートを含む、連載少女漫画作品、お宿三部作の第三番目の作品となる、作品名「初恋」である。

 
1
 入念にコンセプトアートを重ねてゆく、和香子ちゃん。

 物語の中核を担うだろう主人公らしき男女が早くも描き出されている。


2
 煮詰まってきた。彼は普段からブレザーを着こなす良家のご子息か。

 顎の修正に余念がない。顎の角度には執拗なまでのこだわりをのぞかせる。

 そして、苦心の末、四人の登場人物が、和香子ちゃんのペンより、産み落とされた。


3
冬木 真矢

長井耕平(こうへい)モテモテプレイボーイ.

佐山 英文(ひでふみ).気のよわい、のっぽさん. 

すずき光(ひかる)フェミニスト.


4
左手で髪をかきあげる、冬木真矢

「あ、あの・・・・・・・・・ まゆりさん!」

「はぁい?」

「・・・・・・(汗)」

おわり


5
 見切り発車で描いたみたものの、これじゃなぁい、と、速攻、ペンを折った、和香子ちゃん。

 一からやり直しである。

 悩み抜いた末、大胆にも、外国国籍の双子を主人公に据えることにした模様。


6
双子

サシャハミルトン 18才 イラストレーター

リラハミルトン 18才 タレント

 サシャとはソ連(当時)国籍だろうか。二人とも18歳ながら、すでに職業を持って働いているという設定。

 働いているなら若過ぎる気もするが、自分と等身大の設定の方が描きやすいのだろう。


7
おわし

 またもや、設定崩壊を起こし、早々に断念。

 取り乱して苦悶する精神状態を強調して混沌を表現するために、漫画「まことちゃん」のギャグ「グワシ」と「おわり」を掛け合わせて「おわし」とやってみせた、和香子ちゃん。

 創作家としての産みの苦労と格闘中の様子。


8
 再び、コンセプトアートに試行錯誤する。

 細密に書き込まれたセーラー服の造形描写は見事だ。

 そして遂に、コンセプトが練り上がり、堂々、少女漫画連載の華々しい、船出となる。

読み方に彼女流の特殊性があり、左から縦読みとなるので、ご注意下さい


9
三崎真琴

上杉耕平

若松武人

仲よし 4人組
クマ マコ(真琴) ノン カオ


10
私・・・、三崎真琴. えんげきクラブ所ぞく。 ただいま文化祭にむけて もう れんしゅう中!

「はい、今日は そこまで」

「フウ・・・・・・」

「あら、どうしたの? ためいきなんかついて。」

実は 私め 片思い・・・。 それも・・・・・・

「あ・・・先生、いえ、何でも・・・・・・・・・」

よりによって大の仲よしのノンの片思いの相手


11
思いを言葉としてだせる事が・・・ どんなにしあわせなことか ノン・・・ あなた しっていて?

す っ ・・・

「ん・・・?」

若松くん・・・」

「あんまり むりすると つかれっちまうぞ!」

や さしい・・・・・・

「ん・・・・・・ そうだね。」

この人・・・ 若松武人(たけひと)くん・・・ 同じ えんげきクラブ・・・ 。 一年のころ つっぱってて 成績もひどかったらしいけど 今では 毎回 80点以上の中に名をよばれている 努力の人・・・

そんけいしてる・・・・・・・・・ この人と話してると あいつを忘れてられる・・・




12
「ねえ、マコ あんた もうすぐ バースデーじゃない?」

「あ、そーだなあ。」

ふむ。

「いわれてみれば・・・」

「わーい わい」「ざまみれ!」「わー!いよいよオバンだ!」「ケッケッ、われわれ同じよ   !」

「う~~~~~」(く そ ~~~)

    

「・・・・・・・・」

「おっ はよぉ!」


13
「え?」

あぜん    (クラスのみんな)

『ちょっと 大声 出しすぎたかなぁ・・・』

「♪~」

「えっ?!」「わっ!?」

「耕平・・・!」

「真琴・・・・・・?」

<ドキッ>

「手・・・ はなして。」

「ああ・・・ ごめん」

「気をつけろよ!」

「ん・・・ ・・・・・・ ありがと・・・」


14
     

『  真 琴  』

『あ  あ・・・・・・ いつのころからだったのか・・・・・・ こんなに 気まずくなったのは・・・  

今さら 一年も前のこと ふりかえったって おそいわ!(ふん!)

 わずか一年前、今では険悪ムード漂う真琴と耕平の二人が談笑をする姿がそこにはあったのだ。

 この一年の間に、二人に何が起こったというのか?         




つづく…

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