ローヤル-39
 非常階段を登りに登って五階に到着。防火扉前の踊り場。息を殺して様子を窺っている動かぬ巨人のその体内に潜行しているようなExplorer(エクスプローラー)気取りの僕。コンバットブーツのソールと床の塩ビタイルの擦れ合う耳障りな音だけが館内の上下一階分程度に響き渡る。

 窓からはうって変わって穏やかな表情を見せる山のその頂き付近にはコンクリート造りの美術館のような施設、すぐ横を中央高速の高架橋が通っているのが見える。

 半ば被害妄想気味になりながら、追っ手は来てやしないだろうかと、耳をそばだてながら、つるりとした冷たいドアノブを廻す。

 ここ五階の防火扉も、難なく開けることができた。安堵の生暖かい溜息が暗くて冷やりとした廊下の陰鬱な大気を少し和らげたような気がした。



ローヤル-40
 ここもかと、肩を落とし、もはやルーチン化した作業を始めるが、いきなりだった。



ローヤル-10
 対岸の「アイネ イン」と対峙した時、僕はなぜか、かなり昔にみたフジテレビの「素晴らしきかな人生」  ちなみにハリウッド映画の名作、僕もみて涙した、私的にバック・トゥ・ザ・フューチャー2の元ネタじゃないかと思う「素晴らしき哉、人生!」とは全く違う  のドラマのいち場面、ドラマ放映から数話目でとっておきの隠しキャラのように登場した、しかも、目の前の「アイネ イン」のように、森をバックに勇壮に立ち尽くし、背中に鳴り止まない井上陽水の「Make-up Shadow」を響かせながら、どう、こんな大物(当時なら。でも過去の人になりかけていた)のこんな登場の仕方って、悪くないだろう? とでも言いたげに、崖の上で片足を岩塊にちょんと乗せ、ヘリからの空撮で、颯爽と襲名披露でもするように、その回の放送が終わる直前ギリギリに姿を現したあの「田中健」を見るようだったのだ。

 完全な主観かもしれないが、ドラマをみた方なら、そう、そうよね、と、その遠からぬローヤル開放部屋の登場の背景と、通底する立ち位置の近似性もあって、理解してもらえるかもしれない。



ローヤル-53
 今朝まで、一戦を交えた、カップルがそこにいたような、情欲匂い立つような部屋が、そのままに残されていた。

 ふっくらカップル羽毛枕が仲良く寄り添う。



ローヤル-52
 当時最新の高度な性能を誇っただろうタッチ式通信システムも壊されずに。



ローヤル-47
 姿見兼、



ローヤル-48
 クローゼット。

 当時の臭いがむわっと放散、されたのか   



ローヤル-43
 何か足りないと思ったら、ベッドが撤去されていた。

 グループ傘下のホテルにまわされたのでしょう。



ローヤル-44
 ファサードのパネルが黄ばんだ、おそらく、購入価格一万円の安物電子レンジ。アイリスオーヤマ、山善、あたりでしょうか。僕も使っていたことがあるが、一向に壊れずに、買い替えの時期を逃し、気づくと、十年以上も使っていた。高いのを買っても、自動で調理してくれるわけでもなく、目を見張るような違いは実感出来ず、無駄金を払ったなと、激しく後悔すること、しきり。



ローヤル-65
 未使用なのではと思ったが、開けた枠の淵の下に、電子レンジにありがちな拭き残しの汁汚れの跡。

 つつましいカップルが、レトルトカレーでも温めて、食べていたのだろう。

※この電子レンジ、群馬の吉井電機という会社が、中国で生産、自社ブランド、アビテラックスと言う製品のようです。値段¥5980。「ひとし」様、ご指摘ありがとうございました。



ローヤル-49
 ここにもムードランプ。タッチ式なら、ネオレトロで、暇そうな個人のリサイクルショップのおじさんが喜んで買ってくれそう。メルカリなら、いいとこ六百円。業務用のこの質感の高さはあの小さな写真じゃ伝わりにくい。当然、送料込みなので、やるだけ無駄、骨折り損となるでしょう。



ローヤル-50
 こちらの床も、タイルごと何かが持ち去られている。

 やはり、廃業当時に即売れそうな、レーザーディスカラオケだろう。そのメーカーだったパイオニア、カーナビにこだわったあまり、まもなく中華企業に売り飛ばされかねない苦境に追い込まれている。廃墟に立つと、フィルターを通さない今の日本が見えて来ますね。

※ちょうど頭の位置にあるこのパネル、ベッドパネルと呼ばれるもの。ちょろっと出てる線はボディソニックの線。振動パッドが内蔵されているマットに繋げると、有線放送の音を拾ってズンズンと振動するそうです。 「たつのすけ」様、ご指摘ありがとうございました。



ローヤル-46
 中国人観光客が、持って行ってしまうという、電気ケトル。

 廃業当時、中国はまだ経済発展の途上にあった。その頃、日本に来てラブホテルに宿泊する中国人など、皆無だったろう。お手頃ケトル、赤貧カップルが持ち帰り、朝食のコーヒー用のポットに使っていそう。



ローヤル-45
 客室係のおばさんが、セッティングしたばかりのような、ウェルカムドリンクの煎茶パックまで残されていた。ドリップタイプのコーヒーのパックも。持参したミネラルウォーターのボトルの水で、水出し煎茶にして飲むことも考えてみたが、踏みとどまった。

 この他にも、ルームサービスのメニューや宿泊プラン表など、多種多様な魅力溢れる残留物を検証した後、ついに、最上階のレストラン、そこでは、誰のコレクションか分かりかねるが、膨大な数の如何わしいライブラリに触れて、思わず目を瞑ってしまう、僕。

 そこから屋上までは、ひとっ走りだった      




つづく…

「赤裸々な部屋」湖畔にそそり立つ、巨大廃墟ラブホテルへ.7

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