津久井-39
 ソワール総本山の真正面にバイクをとめてしまうと何かと不都合があると思い、正面左の側道を少し先に進んだ道路脇にバイクを駐車させる。

 オーナーに理不尽な理由で追いかけられたとしても、走って逃げて少し距離のあるここまで辿り着いてセルでエンジンをかけバイクを動かせば問題の発生からは逃れられるだろう。

 探索者たるもの、敵の導線に愛車を置いてはならない、これは、廃墟に通う者の鉄則なのである。



津久井-37
 バイクの背後、つまり、ソワール総本山の左横には山林の一部となりかけた一軒の廃屋が。

 山の日当たりの良い目立つ場所にソワールの総本山が建っている。一般の方の住宅も数棟並んでいる。

 この廃屋は山の側面の少し離れた場所に位置する一軒だが、同じ山に建っていることもあり、ソワールと全くの無関係でもなさそうだ。

 実入りが少なさそうなのに、建物は質素ながら多くの物件を持つ、デビュースのオーナー。親が地主かなにかで、それを相続でもしたのではないだろうか。

 この山も彼の所有となり、造成して自宅兼オフィスビルを建てた。余った部分を分譲して売り出したと。

 僕の憶測でしかないものの、二代目が会社を潰す、とよく言われるように、全盛期から現在の凋落ぶりを見るにつけ、彼はそれを緩やかに具現化していっているように思えてならなかったのである。



津久井-38
 大家があれなのだがら、店子も逃げ出してしまったのか。



津久井-34
 バイクを降り、徒歩でソワールのオフィスビル前まで来る。

 ヤシの木があり南国情緒を演出しているが、葉は潤いを失い枯れてしなだれ、樹下には用途の目処のないガラクタが溢れる。

 もし万が一、彼が出て来たら、「ペンションの予約のことでお聞きしたいのですが・・・」という言葉をとりあえず用意していたが、今のところその必要はなさそうなぐらいこの場は静まり返っている。



津久井-32
 ここ自体が「ソワールクラブ」なのか、それとも、津久井湖にあるあのペンションのことでその宣伝なのか、相変わらず分かりづらい。

 虫の声さえせず、退廃感のある重苦しい空気が周囲一帯を包み込んでいる。

 営業をしていないのは確実だろう。

 廃墟なのだろうか。

 そもそも、これを前にすると、何をもって廃墟とするのか、線引が難しい。



津久井-27
 ストリートビューで見て気になっていた錆びた青いドア。

 ここから中に入れるのではと事前に思っていたが、狭い。

 扉の中には塗料の缶などが積み上げられていた。

 倉庫にしても、だらしなく開けたままであるし、雑草も生い茂るままに。

 些細な管理も行き届かないほど心が荒廃されてしまっているのか、それとも、愚直なまでの廃墟であったのか。

 答えを出すにはまだ早い。

 法という枠組みの中で、粛々と進めていく必要がある。

 僕はオーナーのビジネスに興味を持ち、二三話を聞きたい、将来のビジネスパートナーとして、ここにやって来ているのだと、胸を張らなくてはならない。であるならば、廃墟かな? ご在宅かな? と、時に越えてしまっても、真っ当な訪問者として扱われることになるだろう。



津久井-30
 オフィスビル前から移動。

 垂れ下がる防水シート。単管パイプにコンパネを多用したソワール工法ともいうべき特色のある建築は、彼の存在を無言のうちに語りかけてくれている。



津久井-28
 排水口から放射状に吹き出した蔓が壁に奇怪な模様を描きながら上に上へと伸びていた。

 たった一つの染みさえ気にならなくなると、他もどうでもよくなってくるもの。

 もしいるのであれば、御主人は心のケアが必要な状態にあるのではないだろうか。



津久井-26
 お馴染みの廃材をストックしてある倉庫が道の向かい側に。

 しばらく持ち出された痕跡は見られない。



津久井-29
 ホームページではイキイキとしたご活躍を報告する御主人だったが、相当追い込まれている様子。

 廃墟か、籠城でもして息を潜めておられるのか。



津久井-21
 白壁の染みをじっと見つめ、沈思、腕を組み、道路の真ん中で三分間は逡巡していただろうか。

 手招きをされ引き寄せられるように、僕は所々がひび割れた滑り止めのコンクリート製の階段を一段一段確実に登っていったのである   
 



つづく…

「踏み下ろした、探索者」空中回廊のある、廃墟ペンション.11

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