絶えず(株)木下のトラックが戸手の町中まで侵入して来て決まって同じ箇所で右に折れる。そして不快なディーゼルエンジンの音を唸らせ黒煙を吐きながら激走して行く。
会社は道路沿いにあるのだから、なにも町の中程まで来なくてもとは思うが、きっと、道路を跨いで対向車線に出るのは危険なので、それを回避するためにこのようなルートを通っているののだと思われる。
戸出の町と(株)木下は切っても切れない、豊田市とトヨタのような関係にあるようだ。
全国で多摩川を含む五つの河川がスーパー堤防化河川に指定されているが、多摩川では戸手地区が最大のネックになっている。
戸手の違法河川敷集落の整備なしに、スーパー堤防の建設を進めることはできない。
スーパー堤防の完成後は従来どおりその上で土地利用が出来るため、通常は用地買収の必要はない。しかし、国有地である河川区域に住む戸手の住民は「不法占拠」状態にあるために、「立ち退き」の対象となり、スーパー堤防が完成しても元の場所には戻れないし国からの保証も無い。
今ではスーパー堤防の計画自体が見直しになっているので、それをもってして立ち退きを突きつけられはしないがろうが、だからといって安住の地ではない。
「不法占拠者」とはいうが、河川敷の”不法占拠者”は朝鮮半島から来た人およびその子孫達が日本社会の差別のなかでやむなくここに住むようになったのだから、もっと寛大な目で見て欲しい、と、在日の方の目線で書かれた本には書かれていた。高度経済成長時代の混沌とした時代ならまだしも、今の時代にそれがすんなり通用するのかは、再考と議論の余地が多分にあるだろう。
次から次へと来るトラックを避けながら、会社の方へ。
おいそれと立ち入れない空気があって一般人など通りそうもないのに、守衛の詰め所まである。たまに街宣車でもやって来たりするのだろうか。
多摩川の土手から迷い込んで来ました風を装い、あたりを見回しながらキョロキョロと、守衛所の前を素通り。
呼び止められることはなかった。
常に忙しそうです。
ゴツい一眼レフを首からぶら下げていたら恫喝の一つでもあったかも。こういう現場では腰の位置に装着したケース(ベルト通し)に入れたコンデジ「RX100M3」の出番。ケースは上着の下に隠れていて通常は見えないようになっている。
緊張が走ったがお咎めは無かった。
ネット上でよく囁かれているデマっぽい噂、「木下」さんの「朴」さん説、あれは本当なのだろうか。
(株)木下の壁伝いに川の方へ降りて行く。
国有地を防犯カメラで監視? どっちが監視対象?
なかには正当に土地を所有している戸手の住人もいるので、こういった皮肉や非難は当たらないのかもしれない。
いつものように我関せず、グイグイと進んだが、中から血相を変えて人が飛び出して来るようなことはなかった。
東南アジアの水上集落のような建物。
水草が生い茂る湿地の上。
どこにでも住めるものですね。
教会の施設でした。
住居も併設してあるのか。
トタンに描かれた十字架。
教会入口。
平日は不在なのか人の気配はない。
宗教施設の強制撤去は物議を呼びそうなので、真っ先に作ったとか。
しばらく待ったが出入りしている様子は無さそうなのでこの場から去った。
スーパー堤防の完成がたとえ四百年後だとしても、彼らがあと四百年ここに住めるわけではないだろう。
戸手集落のある土手沿いの道路の向かい側のアパートもまた異様な空気を醸し出していた。
ペンキ代もバカにならなかったでしょう。
ブルドーザーが入り、老婆が泣き喚き散らしながら徹底抗戦する姿がいずれニュース映像として流れるのだろうか。
こうまで定着してしまっていると、ここの住人がいなくなる絵が頭にイメージできなかった。
目前まで迫るタワーマンション群の影を踏みながら、社会主義国家のように整然と整備され過ぎて寒気さえする駅前通りを、駅までのバス代をケチり、徒歩で急ぎ足で帰路につく
おわり…
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