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 六階の防火扉を開けて、客室のある廊下へ。

 防火扉のチリ部分には小さなシールが貼ってあった。お察しの通り、ただのシールじゃない。可動部の扉と壁枠を繋ぎ合わせるようにして。防火扉を開けると、そのシールが剥がれるかして、人の出入りをチェック出来るという仕掛けなのだろう。シールには、探索者の誰もが震え上がる、あのおなじみのマークとロゴが印字されていたのだ。

 ただそのシールは扉に付着する粘着面が乾燥していて一見粘着しているように見えるが、実際は隙間に紙一枚も入らない程浮いていて、扉には貼られていない状態を保っていた。

 つまり、扉を開けて入って避難階段側に引き返して来ても、こっそり貼られている封印シールは、見た目、元通りの姿に戻るので、ドアが使用されたかの痕跡をそのシールから追うことは出来ない。

 片手落ちではあるかもしれないが、こんなトラップもあるものだなと、深く胸に刻みつけた、僕    

 金色の照明カバーが散乱するぐらいで、大きく荒れてはいなかった。



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 あんなサイケデリックな彩色ながら、スリッパはえらく地味。



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 六階は、全てが閉じられていた。

 最近やけにテレビ番組で特集されているセキュリティガバガバの鬼怒川温泉の廃墟ホテルと違い、格の違いをみせつけられているような、そうでもないような。

 いつか鬼怒川温泉の廃墟ホテルには行ってみようとは思っていたが、これだけ連日テレビ番組で取り上げられてしまうと(今日もミヤネ屋で特集)、ニッチな需要を狙う僕の出る幕はもう無いのかもしれない。

 鬼怒川温泉の廃墟ホテル群が廃墟から脱却する方法として、熱海の例をあげていたが、その二つは立地が違い過ぎるだろう。同次元で語れるものではない。熱海は東京から近いし新幹線が停車する。熱海が数年前まであの好立地で衰退していたのは、行政や地元観光協会の怠慢でしかなく、東武鉄道しか通っていない鬼怒川温泉に同じサクセスストーリーを求めるのは見当違いも甚だしい。

 廃墟の街だった熱海が復活した理由として、若者を呼び込む努力をしたのだとか。

 広告代理店に大量にお金をばら撒き、街ぶら番組や情報番組、ドラマのロケ、ニュースと称してニュース番組内で「熱海復活の理由(わけ)」みたいなニュースや特集を組んでもらったところ、物価だけ上がって据え置きの時給、益々貧困化し遠出が出来ずにいた若者達がこぞって熱海に押し寄せたという話なのである。

 熱海で今一番の若者に人気のスゥイーツの紹介では(ミヤネ屋より数日前にやっていた番組)、懐かしの味と称して、小ぶりの牛乳瓶入プリンが紹介されていて、若者が行列を作っていた。でもそれって、あの富良野にある店のそのまんまパクリ商品でしかないのだが、生キャラメルと同じく、どこがオリジナルかは、ステルスマーケティングによって流行に流される人らにはどうでもいいことらしく、皆、喜んで、牛乳瓶のプリンに舌鼓を打っていた。タピオカジュースの店が出来るのも時間の問題だろう。いや、もうあるのかな。

 北海道物産展で行列必至で買えないという富良野の牛乳瓶プリン。富良野に行った際に、店に直接買いに行ったことがある。

 富良野の森みたいな所を切り開いた場所にあったが、駐車場は満杯。警備員が誘導しているぐらいの盛況ぶり。北海道の田舎であの混雑とは、奇跡に近い。

 店名物の牛乳瓶プリンと、お菓子やケーキ類などを購入。この時の僕は甘味に制限を設けていなく、食えるだけ食ってやろうという危険な思想を持っていた。

 念願の牛乳瓶プリンであったが、まぁ、普通の味。美味い、とも言えない、ただただ普通の味。今店頭に並んでいるか知らないが、セブンイレブンのとろけるプリンの方が数倍美味であったと断言できる。お菓子は自分の所で作っておらず、他所から仕入れているものだと思われる。あの程度の小さな店で、自家製の多品種展開は絶対無理。ブランド力のある店ならどこでもやっていることであるけれども。ケーキも、可もなく不可もなく。

 インスタバカの若者が一時的に熱海にやって来ているだけかもしれないので、ライザップやいきなりステーキ、東京チカラめしのように、一時的にメディアに取り上げられて、内容が伴わないと飽きられるのも早いだろう。子供からお年寄りまでが満足してリピーターを生むような、抜本的な改革が必要となってくる。


 
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 封印シールが元におさまったことを確認して、また階段を昇ってゆく。



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 気づくと、中央高速が同一目線上に   



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 窓の下には、避難用ロープを結ぶのに使用する輪っか。



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 かつて、館内放送が響き渡っていたこともあった。



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 七階。

 外から建物の階数を数えたわけではないので、最上階はまだか、屋上はまだなのかと、見えない出口を手探りで、息を切らしながらの階段昇りが続く。



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 上階は平穏なものです。



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 一部屋さえない。



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 鬱ぎ込みがちに、上へと。



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 八階。



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 回せど回せど、虚無がつき纏う。

 今思うと五階は奇跡だったらしい。



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 胸塞がれる思いであるものの、今度は何かが違う様子。



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 その前に、食パンを食べた後の袋、しかもご丁寧にバッククロージャーで留めてあるのを発見。

 おにぎりや菓子パンならまだしも、食パンとは、よっぽどの倹約家の侵入者がいた模様。

 シンナーの吸引でもやったのだろうか。

 さして興味もないので、これ以上の詮索はしない。



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 九階。

 差し込む日差しが、最上階であることを物語っていた。



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 高級中華レストランに、一体何が起こったのか、店内の床は卑猥な残留物で埋め尽くされていた    



 
つづく…


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