鴻之舞-156
 ツーリングマップルの中扉のカラー写真に胸を射抜かれてから、もうどれぐらいの年月が経っただろうか。

 かつて、寝ぼけ眼で、朝焼けのギリシャのエーゲ海の船上から見たキプロス島、白じむ石造りの建造物と重なり合うような、紋別鴻之舞のコンクリート神殿のごときこの建物。

 森の神殿がまさか、鴻之舞にあるとは夢にも思わず、前回、いや、今までの訪問では見過ごしてしまっていた。

 中扉のグラビア写真の神々しいまでの、森にそびえ立つ構造物が、もう何度も訪問している鴻之舞の森に存在すると知った時の衝撃は計り知れなかった。

 僕は、今まで、鴻之舞で何を見て来たのかと。

 で、森のどこにこんな巨大な姿を隠す場所があったのかと。

 森の地べたを舐め回すように、這いずり回って見尽くしたと思っていたのに、自力では到達することのできなかった己の探索能力の低さに愕然とし、その昔精錬所であった今では殻のみを残す建物ホールの真ん中で、感激と不甲斐なさがないまぜになり、嬉しさと羞恥心を隠す僕なりのそれが答えであったのか、床から突起した溝の傾斜する縁と縁の間に大股を開いて足をかけ、高知県にある播磨屋橋のように僕自身がしなってみせ、しばらく踏ん張ったまま太腿が小刻みに震えながらも、宙を保ったままアーチ状になって耐え忍んでみることにした。

 時間が流れ、もう許してもいいだろうと、開脚をやめ、二階へと続く階段の方へ、何事もなかったように、僕は歩き出したのである   



鴻之舞-148
 何の跡だったのだろうか。



鴻之舞-138
 二階から眺めたかった景色。

 あの写真の景色をついに見られたとはいうものの、そのツーリングマップルは今や需要が激減して風前のともしび。改訂版が出るたびに紙質は低くなり、王道が醸し出していた風格、活気が紙面から全く感じられない。バイクでツーリングなど、今時オッサンしかいないのだからそれも仕方がないのだろう。発行元の昭文社は業績を下方修正して希望退職者を募っているという。

 この景色も決して盤石で永遠では無いのだということを肝に銘じる、僕   

 

鴻之舞-147
 二階の部屋に到着。



鴻之舞-146
 窓際に木製の事務机らしいのが一台だけあった。



鴻之舞-142
 下で油まみれになって働く作業員をよそ目に、ホワイトカラーの背広を着た職員が決済用のはんこでも押していたのでしょう。



鴻之舞-141
 タートル型のタイルが敷き詰められている床。



鴻之舞-145
 森に眠る産業遺産。

 二階はもう十分味わいつくしたので、降りることにした。



鴻之舞-122



鴻之舞-136
 人知れず残って欲しい場所。



鴻之舞-123
 中国雲南省の麗江の安宿で、思えばこれとそっくりの便所があった。仕切りなど無く、皆跨ってウンコをするという、野外便所である。深さは2.5メートルぐらい。溝の幅も広く、大げさに言うとプールに跨っていするような感覚があったのを今でも鮮明に記憶している。下には他人のウンコがたんまりと溜まっていた。翌朝行くと、そのウンコは綺麗に無くなっていた。ウンコの溜まる溝にはなだらかな傾斜があり、上流から放水して下流へと落とす構造になっているらしかった。ここで跨ってみようと思ったのは、その時の無意識の記憶がそうさせたに違いない。



鴻之舞-143
 これだけ森に取り込まれていたら、予備知識の無い僕が見つけられなかったのも無理もない。



鴻之舞-131
 大自然を見渡す窓に、機能的なノブが取り付けられていた。



鴻之舞-130
 奥にも部屋がありました。



鴻之舞-117
 もう一生ここに戻ることはないにしても、悔いは残していないだろうと、外に出ることに。



鴻之舞-153
 


鴻之舞-116
 相変わらず煙突は倒れそうになく天に向かって伸びやかに。



鴻之舞-102
 大の大人がひとり、ただでこれだけ興奮をしてシャッターを次から次へと押してしまう場所、そう無いです。



鴻之舞-101
 夕方になっても訪問者は僕だけ。



鴻之舞-105



鴻之舞-110
 隣接する施設へ。



鴻之舞-111
 残るのは木片ぐらい。



鴻之舞-112
 晩秋の夕暮れ、紅葉に染まる森にマリモみたいな色の青錆がよく映えている。



鴻之舞-115
 木片と、なぜか便器の破片の一部も。やはりここでも忘れずに光沢を放っていた。



鴻之舞-113



鴻之舞-100
 とうの昔に生気を失ったゴーストタウンに実は残されていた、僕だけの憩いの場「週刊ベースボールハウス」に、ようやく、訪れるが時が来たようなのであった   




つづく…


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