廃ガソリンスタンド-422
 旧車ブルーバードの横には昔ながらの木製の茶箱が二つ、玄関のドア前、探索者の前に敢えて立ち塞がるかのように積み重ねて置かれていた。僕のことなど想定もしていなかっただろうが、せめてもの抑止のためにと、ドア前に障害物を置いていった可能性は高いように思える。

 ご主人が箱の中で丸くなったまま白骨化、不謹慎ながら、そんな情景がありありと僕の頭をかすめていく。

 取り越し苦労であってくれ。不可解な高級自動車二台野ざらしに、廃墟のガソリンスタンドと豪邸の放置。これで爪の垢ほども事件性を疑うなと言う方が無茶な話というものである。

 両脇を締め気味にして、ゆっくりと蓋を上に持ち上げてみる。

 引っ掛かりもなく、簡単に蓋を開けることができた。



廃ガソリンスタンド-423
 五割引で購入された、バッタもんヒートテック。

 サイズはLL。

 ヒートテック後にオマージュ商品が氾濫した時の物だろうから、思っていたほど大昔ではない。

 手を箱の底まで突っ込んみる。捨ててもいいような布類しか入っていないようであった。

 玄関の扉の取っ手に手をかけてみた、僕。



廃ガソリンスタンド-438
 何を意味するのか、いや、意味していないのか、施錠はされていなかった    



廃ガソリンスタンド-433
 数十年もの間滞留していた重苦しい淀んだ空気が一気に戸外へ放出される。

 死体臭などしない。

 無臭。

 手をじゃんけんのパーにして集音器のように両耳にあてがい、じっと耳を澄ますことニ分間。

 土間部分で僕は直立不動。

 無音。

 確実に、ご在宅ではないようだった。



廃ガソリンスタンド-425
 居間には今にもカーマニアのご主人がのっそっと奥から出てきて、

「カイラスさん、お待ちしてましたよ! さぁ、お上がんなさい   

と、招き入れでもしてくれそうな瑞々しい生活感の跡が残されていた。

 でもよく見るとテレビはタンスみたいに重厚感のある家具調ブラウン管式。ある日を境にして時間がとまってしまっているのだろう。

 独り身の荒れた生活が窺えるような室内の乱れがあった。



廃ガソリンスタンド-426
 玄関付近にはもらいっぱなしのお歳暮の山などのゴミ類に混じって、ご主人ならではの、車関係の部品も多く転がっていた。

 樹脂製のバンパーだろうか。客から修理を依頼されて、そのままになっているとか。



廃ガソリンスタンド-427
 玄関を上がってすぐ右には子供部屋のような狭い部屋。そこから廊下が奥へと伸びていて、今や開かずの勝手口があり、その手前にはやはりゴミというか、ご主人にとってはいつか使うだろう保管品が多数。レーシングカーのゲームの箱も。

 どこから手を付けてよいのか迷うが、とりあえず、居間に進み出てみた。



廃ガソリンスタンド-439
 その重量ゆえ、足がカーペットを通して畳に食い込み(年々と)、前屈みに傾いている。

 轟音とともに前倒しに倒れるのは時間の問題だろう。



廃ガソリンスタンド-442
 ビデオデッキは無い。



廃ガソリンスタンド-444
 テレビ越しに背後を見ると、ニ階への階段がほぼ崩壊していて、上に登って行くのは難しそうだった    




つづく…


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