相模湖-145
 お宿自宅のトイレ。

 和式便器内はスプレー噴射のような強烈な夥しい飛沫により斑に染め抜かれていた。あまりにも酷い有様であったので、画像に修正を加えないと見るに耐えなかったのだ。

 ご主人が最後の日、旅立つ間際に急激に催され、慌ただしくやられた結果なのであろうか。

 タイルには土が多く付着している。土足で何度も上がり込んだ証左だろう。つまり、廃墟化してから、世捨て人が移り住み、ここで用を足していた。それとも、僕のような探索者によるものか。

 ここへの到達に難儀したように、世捨て人が住むにはハードルが高い。毎回あの寸断された鉄階段を昇り降りするのは甚だ現実的ではない。まだ上の離れ小屋の方が住環境も道程も容易で快適だと言えるだろう。実際、痕跡が多く発見されたのは僕の記事にあった通りである。

 それらを勘案すると、廃墟になってからここで大をしたのは、誠に悲しいことながら、廃墟探索者とほぼ断言出来てしまうことになる。

 いいや、心霊スポット巡りのヤンキーの一団だっているじゃないか、と思うかもしれないが、彼らは危険を冒して寸断された階段を飛び越えてまでして目的を遂行、という気はさらさらない。先輩に後輩、女ともだちらとギャーギャー叫びながら、雰囲気だけを味わえればそれで満足なのである。カラオケに飽きたからここに来たぐらいの軽い感覚。怪我をするリスクを伴いながら二階も見逃せないと、飛ぶような、そんな貪欲な探究心があるはずもない。大勢で来ていることもあって、無茶な集団行動は実際問題物理的にも無理であると言えるに違いないだろう。
 
 和歌子ちゃんの美しい思い出を掘り起こすことができた反面、そこに泥を塗るような、許し難い行為をする人間の振る舞いに、誰もいない薄暗い廃墟で大の大人がたったひとり、喉元が締め付けられるようで、なんともやるせない気持ちにもなった。そいつ(犯人)は、同じこころざしを持つ仲間かもしれないのだ。

 廃墟の一室に眠っていた和歌子ちゃんの輝ける青春時代の記録を丹念に紐解いてゆけば、当然のような態度で我が物顔で、流れない便器に大をした不届きな探索者も、こころ洗われる思いがして、家族の思い出を汚してしまうことになるんだ、と、自らの行為を、悔い改めてくれるかもしれない。

 声よ届けと、僕は、和歌子ちゃんのかけがえのない青春時代を描き出してゆくことになんの躊躇もなく、むしろ胸を張って固い決意をもって世に送り出し続けてゆく所存なのです    
 


8
 今回は、峰尾から和歌子ちゃんへの交換日記。

 峠のお宿住みならではの、山の雪化粧に、見たの私ぐらいかしらと、前回mineoに報告していた、和歌子ちゃん。

 いや、俺も見たよ、と峰尾。

 同じ空の下、話題を共有できたことがよほど嬉しかったのか、彼は雪の降り様を詩的に数行に渡って言葉を重ねてゆく。

 わかこは雪が好きだから、きっと今ごろ見ているだろうな、なんて思っていたと、mineo。

 もっと、雪よふってくれ、と、峰尾。

 その後、街中で二人の後輩女子学生に会ったとか、とりとめのない話を続ける、峰尾なのであった    



m15
                                                                        to わ か こ
・朝 かいたの かぁ~ 、 そ りゃぁ~ ごくろうさん 。

・みんなは知らなかったかも しれないが、オレは見た
よ~ 。- - - - そう、雪ふったよ~ 。
・・・ そうか~ . わかこも見たか~ 、 オレは、ちょ~ど 犬の
散歩の時 でひた 。 そうだな~ 、 あんまり わかんないけど
五時ごろだったかなぁ~ 。
なんか 、”ポツン” っと ふってきて、そのうち、ポツ・ポツ・ポツ
・ポツ と ”みぞれ” っぽかったけどふってきてさ、”もしこのまま
ふってくれれば、つもるなぁ~”なんて、思ってたら、やん
じまってさぁ~ . 五分ぐらいだったよね~、ふってたの、
  たしか~ 。

 オレさ、”わかこは雪が好きだから、きっと今ごろ見てるだろう~
 なぁ~ ”なんて、思ってたんだ。
-  -  -  やっぱり、わかこは 見てたのか~ 。

   -  -  -  でも、もっと 雪よ~ .  ふってくれ~ 。

・土曜日のことだけどさぁ~ ・ ・ ・ ・    。
オレは、2時30分ごろ、家に帰えろ~として、学校を出ると、家に
向かったのであった。 すると、向こうの方から、二人の女の子
が、歩いてきた。おそろいの白いマフラーをしていたのであっ
た。 その二人の女の子は、オレを見ながら、こっとによってきた
のである。 オレは、”ギク”っとした。
そいつらは、オレに ”ルミ さんいる~”ときいてきた。オレは ”いる
よ~ ” ってこたえると、 ”よんできてくれる~” といわれ、オレは、
なやんだ。 家には、こたつとみかんが、オレをまっているので
あったからだ。しかし、オレはよんできてやることにした。
やつらは、駅で二時間まっていたというのであった。安田を ・・・ 。
いろいろ、話をしていたら、やつら二人は 藤野中の三年で、

平日、立て込む早朝に、かじかむ手で必死に書き上げたであろう、和歌子ちゃんを慮る、峰尾の心づかい。ごくろうさん、と、ねぎらいの言葉をまず第一にかけることを忘れなかった。

>みんなは知らなかったかも しれないが、オレは見たよ~ 。- - - - そう、雪ふったよ~ 。

峠のお宿に住む私だからこそ見た雪、街の住宅街に住むクラスの同級生は知らなかったかもしれないが、オレは見たよと、同調してあげる、mineo。彼女を疎外感から助け出したかったのか。それとも、似たような町外れに住んでおり、そんなところもあって共鳴しあっているのか。

>なんか 、”ポツン” っと ふってきて、そのうち、ポツ・ポツ・ポツ・ポツ と ”みぞれ” っぽかったけどふってきてさ

~を多用して軽薄な文章が目に余る峰尾だったが、珍しく、雪の降る情景を叙情的に表現してみせてくれた。よほど彼の胸を打ち、強いてはそれが和歌子ちゃんとの共通した経験になったことが、感激をより大きくし、忘れ得ぬ思い出となったのだろうか。

>オレさ、”わかこは雪が好きだから、きっと今ごろ見てるだろう~ なぁ~ ”なんて、思ってたんだ。

降りしきる雪をみて、峰尾は咄嗟にお宿につもる雪を想像したのだ。勿論、お宿の屋根の下には愛しい人、和歌子ちゃんがいるであろうことは、説明するまでもない。大垂水峠にはより降雪があり、わかこが二階の子供部屋から雪を見上げて微笑んでいる。mineoはそう思うと胸の奥からフツフツと熱いものが込み上げてくるのを胸にあてた手で感じ取り、顔をニヤけてさせるのであった。

>向こうの方から、二人の女の子が、歩いてきた。おそろいの白いマフラーをしていたのであった。

学校帰り、向こうからお揃いの白いマフラーをたなびかせて、二人の女の子がやって来たのだという。場の空気から、相手が話しかけてくるような気を即座に察知したのだろう、峰尾。

>そいつらは、オレに ”ルミ さんいる~”ときいてきた。オレは ”いるよ~ ” ってこたえると、 ”よんできてくれる~” といわれ、オレは、なやんだ。

予感は当たっていた。悲しいことに、自分が興味を持たれていないであろうことも当たっていた。和歌子ちゃんがいるということもあり、それは別段悔しいことでもなかった。

>家には、こたつとみかんが、オレをまっているのであったからだ。

冷え込む季節、家に帰れば、暖かいこたつと喉を潤してくれるジューシーなみかんがオレを待っている。オレのことを全く鼻にもかけない連中の世話を焼いている暇などあろうものかと、峰尾。

>しかし、オレはよんできてやることにした。やつらは、駅で二時間まっていたというのであった。

二人の白マフラーの少女。駅で二時間も待ち惚けした挙げ句、たまらず、学校まで来てしまったのだ。心情察すると胸が痛み、無下に断ることは、峰尾には出来るはずもなかった。

>安田を ・・・ 。

安田ルミ姉さん、あいつ、外ではそんなに慕われているのか。あいつのどこにそんな価値があるのやら。クラスで普段見せない魅力を持ち合わせているのだろうか。明日から彼女を見る目が変わりそうだ。

>いろいろ、話をしていたら、やつら二人は 藤野中の三年で、

後輩かと思ったら、同じ中学三年生!? 女子同士の呼び方に相容れないものを感じたかもしれない、mineoであった    



m16
二人とも、津高へ行きたいといっていた。(こいつら、てきや~。)
つっぱりの二人は、津高へ行くことを、よゆうだといっていた。
”ガッビ~ン”。 オレは、安田をさがしたが、いなくて、
かぶおにいったら、 せっきょうを、くらっていることが、
わかったのだ。その二人に、しらせようとしたとき、
先生に、オレも つかまってしまったのだ。
いしがきに、ローカで 10分ぐらい、ヘアースタイル・うわばき
のことを、いわれた。
 うわばきは、しょうがないので、新しいのを、かってきまし
た。 ヘアーは、まあ 普通にやっておきますけど。
 一言、ばっきゃぁ~ろ~う・・・。
今、こういう時期なので、先公にはんこうできねぇ~のが、くや
しいぜ。
 きげんのわるくなったオレは、その二人に安田のことをはなし、
とっとと、家にかえってきたっちゅ~わけよ - - - -  .
                                                        ・・・ なんのこっちゃ~ 。
  -  -  - 土曜日の出来事 でした。

・日曜日は、なにしてたのかなぁ~ 。
  オレは、 だらだらと 一日をすごして、しも~た~ 。

       あしたは、いい日だろう 。 

    わかこ、毎日 日記 を つけてるか~ 。

         バァ~ イ 。

少女達の希望進学校はお揃いの白いマフラーが示すように、和歌子&峰尾の二人と同じく「津高」であった。「こいつら、敵やぁ~」とおどけてみせているものの、二人一緒に晴れて入学を果たすためには、一人でもライバルはいない方がいいこともあって、突如出現した二人に、焦慮の色を隠せないでいる、mineo。

>二人は、津高へ行くことを、よゆうだといっていた。”ガッビ~ン”。

自分の学力に自身のなさそうな、峰尾。このままだと、白マフラーの二人と和歌子ちゃんが合格で、峰尾だけ取り残されるという危機感を”ガッビ~ン”に滲ませる。

>先生に、オレも つかまってしまったのだ。いしがきに、ローカで 10分ぐらい、ヘアースタイル・うわばきのことを、いわれた。

ルミさんは先生から説教をされていた。ミイラ取りがミイラになるとはこのことで、mineoまでもが、先生に捕まって説教をくらうことになってしまった。

>今、こういう時期なので、先公にはんこうできねぇ~のが、くやしいぜ。

全国の学校に校内暴力事件が吹き荒れた時期だろうか。どうみても不良っぽくない峰尾までもが、感化されてしまっており、一端の不良みたいな口をきいて、自分もご多分に漏れず尖ってますよアピールをする始末。

>きげんのわるくなったオレは、その二人に安田のことをはなし、とっとと、家にかえってきたっちゅ~わけよ - - - -  .

ワルを装いながら、二人の少女の頼み事をきっちりとこなし、ゲーセンにも寄らず、真っ直ぐ家に帰った、mineo。

>あしたは、いい日だろう 。 わかこ、毎日 日記 を つけてるか~ 。バァ~ イ 。

忙しいから朝に日記を書き、たった一ページだったのか。

朝に書いたから、一ページで済ましたのか。

和歌子ちゃんの日記が僅か一ページだけであったことが、愛情のバロメーターの低さとでも思っているのか、物寂しさを引き摺っている、峰尾。

オレのことを思ってもっと書いておくれよと、奮起を促す、mineoなのであった。



 和歌子ちゃんの胸のうちをもっと聞かせておくれよと、ならばオレからいくしかないのかと、この日記の後に、付録号まで加えて、相対的な質量を当てつけることで、和歌子ちゃんのペンを奮い起こさせようと尽力する、峰尾。

 mineoの熱意に負けたのか、答えたのか、二頁をしっかりと書き上げた、和歌子ちゃん。

 クシ事件が学校を騒がせたようで、彼女はそのことが気になっているようであった    




つづく…


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