廃工場-145
 工場を通り抜けて、家族の住居部分。

 砂壁が立ちはだかる床の間に、これは、バッファローの角だろうか。

 時代的に、ご主人がキン肉マンの名脇役「バッファローマン」の熱烈なファンゆえに買い求めた可能性もあるが、定かではない。

 いずれにしても、僕の人生において、バッファローの角の置物を拝見したのは初めてのことであった。

 視線をもとに戻し、冊子類の束から一冊のフォトアルバムを引き出した。



廃工場-60
 今だったら確実にグーグルからの検閲対象になってしまう写真。過去に数度警告されているので、指摘を受ける前にモザイク処理を施しておいた。



廃工場-61
 孫の写真だろうか。

 男の子を抱いているのはお祖父ちゃん。

 山の中の工場兼住宅で手塩にかけて育てた子供は結婚。待望の孫が生まれる。記念撮影。

 この時点で、着の身着のまま工場を飛び出すなんて、思ってもみなかったことだろう。

 夜逃げ時点で、お爺ちゃんは既にお亡くなりになっていたのは、老夫婦の遺影をみても明らかである。

 撮影者である息子か娘は、まだ、幸福の絶頂にいたのだ。



廃工場-62
 柔らかな紗のかかった光線の中で発光しているかのように浮かび上がって写る、お孫さん。

 その笑顔からは、背中に忍び寄る過酷な運命の気配は微塵も感じられない。



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 枚数が多い。

 長男で寵愛されていたのだろう。



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 工場も順調だったので、何かと行事があれば幸せの足跡を残すために、写真館に通っていた。



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 1988年、昭和63年に撮られた写真。

 ドラゴンクエストIII が発売されて、ビックカメラの前に大行列ができた年。

 青函トンネルが開業。

 ビッグエッグこと、東京ドームが開業。

 『とんねるずのみなさんのおかげです』が放送開始。

 撚糸工場の経営はまだまだすこぶる順調だったことが窺われる。



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 祖母の敬老会の写真だろうか。



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 象もだいぶ高齢の様子。



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 冊子類の束からひらひらと落ちた一葉の写真。

 昭和30年頃?



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 綴じられていない写真も沢山あった。

 金屏風前の着物姿の女性は白黒のセーラー服の彼女ととてもよく似ている。

 京都タワーを背後にして写っているのも同じ彼女だろう。

 つまり、彼女は、この撚糸工場の長女ではないだろうか。

 色付きサングラスの男性が婿養子になり、二代目撚糸工場の経営者となった。



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 ということは、これは奥様の卒業記念アルバムだろうか。



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 鎌倉の大仏前。



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 この中から奥様を探すのは至難の業である。
 


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 祖父と祖母の葬式が立て続けに行われた。

 大量の空の香典袋。

 一家の思い出の写真館の写真、卒業アルバム等、全てが置き去りに。

 ぼんやりとその輪郭が僕には見えてきた。



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 一番上のは奥様の二十代頃の写真。

 下段の二枚は高校生時代。

 全てが記録されて残されている。



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 成人式のアルバムも。



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無心不立

 心無くば立たず。

 先頃、滝川クリステルさんの第一子出産に伴い、育休取得を発表して物議を醸している、小泉進次郎環境相の父、元総理大臣、小泉純一郎氏の好きな言葉でもある。

 孔子は弟子の子貢に政治について尋ねられてこう答えた。

「食料を十分にし軍備を十分にして、人民には信頼を持たせることだ」

 子貢が三つの中でやむを得ず捨てるなら、どれが先か問うと「軍備を捨てる」、さらに残った二つのうちではどちらかと問うと、「食料を捨てる。」と答えた。

「食料がなければ人は死ぬが、昔から誰にも死はある。人民は信頼がなければ安定しない(民無信不立)」と語ったという。

 小泉環境相は不倫疑惑や政治資金問題で説明責任を果たしていない。そんな彼が育休取得を宣言しても、浮世離れしたお大臣の戯言だろうと、庶民の目は冷ややかである。

 育休に関して異を唱えると、女性差別主義者とレッテル貼られるため、表立って堂々と彼を批判しているのは一部の保守論客ぐらいのものである。

 父が元総理大臣、祖父も政治家、小泉進次郎氏は由緒ある家柄の何一つ不自由の無い華麗なる一族の出でだ。

 妻の滝川クリステルは元女子アナでありながら、先頃進次郎氏の資産公開で判明したところによると、彼女は有価証券を一億八千万円ほど保有していることが明らかになった。

 これでは、育休など、別のステージに住む小泉夫婦の好感度上げのパフォーマンスだろうと言われてしまっても仕方がないだろう。

 不倫疑惑や政治資金問題から目を逸らすためといった見方ある。

 ベビーシッターをいくらでも雇える財力があるのだから、税金を貰っておきながら公務を休むのではなく、まずは民間で育休を普及させてから、最後に政治家がやればいいだけの話である。勿論、夫が子育てに参加をする大切さは承知の上だが、庶民は育休取得によって減額される給与の金銭面、会社を休めない空気などが高いハードルとなっているのであり、それが世間離れした小泉進次郎氏のパフォーマンスを例にして、それに習おう、続けとはとてもじゃないがならないのだ。フリーランスや日雇い労働者にとっては育休など今の状況では別世界の伽噺のような話であろう。大臣が額に汗して、法整備をするなりの明確な結果を伴う実際の行動が必要とされている。

 心無くば立たず。

 進次郎氏は父の好きなこの言葉を、胸に手を当てて、噛みしめてみるべきではないだろうか    
 


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 そんな新成人のアルバムには、奥様の晴れ着姿の写真があった。

 捲った次の頁に僕は思わず”この目”を疑った    



 
つづく…

「変わられた夫人」一家蒸発の絶望工場.7

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