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 第一志望校に見事合格したキョーコさんはすっかり落ち着きを取り戻し余裕が出て来たのか、あれが欲しい、これが欲しい、テレビが観たい、ラジオが聴きたい、などと、充実した冬休みを思う存分満喫している様子。

 大好きな松山千春のラジオ放送『アタヤン』が終了する情報を聞きつけ、もう千春の声が聴けなくなるのかと危惧するも、それはどうにか別の形で回避出来たようで、ホッと胸を撫で下ろす。

 そこそこ好きだった南こうせつのオールナイトニッポンも終了となるようだったが、次のMCには新しい時代の幕開けを感じさせるような人選であり、キョーコさんも不安を口にしながらもどこか納得して期待を寄せているようなのであった。

 余裕というより張り詰めていた精神が弛緩したことによりとめどなく溢れ出てしまった怠惰であるのか、日々のことなどどうでもいいと言い出し、高校生活における勉学やスポーツ活動のへの目標などを何一つ語ることなく、趣味や遊びしか口にしないキョーコさんだったが、それは後で振り返ってみると、激動の高校生活が始まるまでの束の間の休息の日々だっりするのだろうか  



22
1979年 3月22日 (23日) 1:16

千春の歌が 聞きたいなあ。
ゴダイゴのLPが ほしいなあ。
今、私 ほしいもの 沢山あるなあ。
ステレオ ほしいし . ラジカセ もほしいし ・・・・
ギターも スゴク ほしいし , 服もほしいし ・・・
レコード ほしいし ・・・・ 本当に 沢山ある .
*GODIEGOの LP ほしい . 曲が 聞きたい。
千春の歌ききたい . 千春の 窓 。新曲の窓.
家にいても全々 つまらない。一つも つまらない.
ピアノないし, ギターもない , 歌ききたくても _
カセットないし テープもない , おもしろくない
毎日 . 全々 たのしくない . おもしろくない,
今、こうせつ おいちゃんの オールナイトニッポン
やってるけど あと 2回 くらいで 終わっちゃうんだって
ザンネン ・・・ こうせつ おいちゃんのあと には ・・・ あの
サザンオールスターズの くわ田さん だって ・ - - -- - -- 。サ!
千春はどうなるのかな ... やめないでほしい おやすみ。

受験を終えて暇を持て余している、キョーコさん。

呪文のように、聞きたい、欲しい、などを復唱し続ける。それから数十年後、ネットで無料でいくらでも音楽を聴けるようになるとは、この時、夢にも思っていなかっただろうが、あぁ、あの時の私に聴きたがっていた音楽を届けたい、そう思っているに違いないだろう。

>ステレオ ほしいし . ラジカセ もほしいし ・・・・ギターも スゴク ほしいし , 服もほしいし ・・・レコード ほしいし ・・・・ 本当に 沢山ある

服やレコードは適度に買っていたようだが、ステレオとラジカセとギターは持っていなくて、狂おしいほどにそれらを欲している、彼女。当時家計は段々と傾きつつあった頃だろう。親がホイホイとキョーコさんの希望通りギター一本でさえ買ってくれるわけがない。恨み節のように心の底からの願い事のように願望をつらつらと書き連ねていることから、その反動が内気そうな彼女にしては思い切ったミスタードーナツでのアルバイト応募へと踏み切らせる理由となったのではないだろうか。

>GODIEGOの LP ほしい . 曲が 聞きたい。千春の歌ききたい

ゴダイゴに松山千春。レコードを買って自分のステレオで大音響で家の牧場の向こうまで届くような音量で聴いてみたい。高校に入学してせっせと働いたアルバイト代でその夢が叶うのか。今の欲しがりようならやってみせてくれるのかもしれない。

>毎日 . 全々 たのしくない . おもしろくない

無の部屋で過ごしている、キョーコさん。この年頃なら、せめてラジカセぐらいは持っているものだろう。ラジオ単体は部屋にあるみたいだが、カセットレコーダーが無ければ、好きな千春やゴダイゴを繰り返し聴くことが出来ない。いくら好きでも千春の曲を聴くためにラジオに一日中齧りついているわけにはいかない。高校を入学してアルバイトを始めるまで、キョーコさんの不遇の日々が続くことになりそう。

>こうせつ おいちゃんの オールナイトニッポンやってるけど あと 2回 くらいで 終わっちゃうんだって

南こうせつのオールナイトニッポン終了のお知らせがラジオ内で告知されたようだ。キョーコさんさんが「おいちゃん」と言っているように、中高生にしたら当時の南こうせつはもう「おじちゃん」なのである。深夜ラジオのリスナーなど殆どが受験生だろう。あと実数は極めて少ないが長距離トラックの運転手。そう、おじちゃんの年齢に差し掛かるとキョーコさんのような年代からすると、深夜ラジオの最大の魅力の一つである『フリートーク』のネタがジジ臭く感じてしまうものなのである。そんなこともあって、南こうせつは肩をを叩かれた、といったところか。大炎上したナイナイの岡村にもこれは言える。あの歳でフリートークをするとなると、妻帯者なら子供の話題。独身でろくな趣味を持っていない岡村なら、風俗ぐらいの話題しかリスナーに提供出来ないのである。ナイナイ岡村は大きくなり過ぎた。今のオールナイトニッポンはスポンサーが一社ぐらいしかない。岡村ほどのスターなら、たった一社のスポンサーを離れさせないがために、ニッポン放送の方から拝まれて出演しているというのが実際のところなのである。若い受験生のリスナーはオッサンの岡村に興味は無く離れる。残っているのはハガキ職人か高齢化した同じおっさんリスナー。現代の深夜ラジオはこのようにして益々先細りとなっていくのである。

>こうせつ おいちゃんのあと には ・・・ あのサザンオールスターズの くわ田さん だって

当時は新陳代謝があった。大ブレイクをして快進撃を続けるサザンの桑田佳祐が世代交代だとばかりに、オールナイトニッポンのリスナーに抜擢されたようだ。

キョーコさんが心配をするのは、松山千春のオールナイトニッポンのこと。

津軽海峡の向こうの過疎化した僻地に住む一少女が、その小さな胸を痛めながら、我が街から全国区に成り上がったスターのMCの地位を心配しながら、今夜も静かに眠りにつく。

ラジオだけが今の彼女にとって社会と繋がる命綱でもあったのであろう   



23
1979年 3月23日 (24日) 0:24

だんだんひ日を気にしなくなった・・・。というよりは
ひ日とあまり 縁がなくなったので チンプンカンプン・・。
というより 日なんどうても いいのよ。 でも 曜日は
気になるヨ!見たいテレビや 聞きたいラジオ番組があ
るから...。 TVであれは 木曜の「ザ・ベストテン」を絶対に
見たいし... 日曜の「西遊記」を絶対に見たいから。
ラジオは 千春サンの「オール*ナイト ニッポン」と「アタック
ヤング」ね! でも アタ,ヤンもうすぐ終わってしまうの .
シゴクザンネン、 千春サンの声を聞けなくなる?
と思いきや ... 千春サンは他の新しい放送番組に
出るわけ ... その時は絶対に聞くど ~~~ 。
オールナイトニッポンの ほうはどうなるのだろう.
こうせつ おいちゃんはくわ田さんとバトン タッチ
だってサ! こうせつ おいちゃん おもしろくて好き
だったのに .... くわ田さんのオールナイトはどうな
るかしら.... いや         ギターひきたい , レコード聞きたい.
本当に家にいても全然ひまなのヨ!GODIEGO の LPほしいなあ.
                              Good Ni*ght♡               おやすみ

過酷な受験勉強から開放された、キョーコさん。朝早起きして学校に行くこともなく、宿題に追われるでもなく、クラスメートとの付き合いで悩むこともない。高校に通学する初日のその日まで、もしかしたら、今までの人生で一番心休まる日々を送っていたかもしれない、ここ最近の彼女。暇がそうさせるのか、口から出てくるのは堕落した趣味や遊びのことばかりだった。

>TVであれは 木曜の「ザ・ベストテン」を絶対に見たいし... 日曜の「西遊記」を絶対に見たいから。

好きな男性の趣味は相当変わっているが、テレビに関しては当時の年頃の少女と何一つ変わらない嗜好を持っていた、キョーコさん。ちなみに、西遊記の猪八戒が途中から西田敏行から左とん平に変わった理由は、西田敏行の子供が学校で『おまえの父ちゃんブタの猪八戒だぁ~~~』と壮絶なイジメを受けてのことだという。キョーコさんは、大笑いしていたに違いない、あのはまり役の猪八戒役が途中から交代したことに関して、この時、どんな感想を持っただろうか。その時が来たら、日記に書いてもらって、素直な反応を聞いてみたいものである。

>千春サンは他の新しい放送番組に出るわけ ... その時は絶対に聞くど ~~~ 

千春のアタヤンは終わってしまうが、別の番組に鞍替えとなるらしい。明るく振る舞ってはいるが、今、松山千春にラジオを辞められたら、生きる希望を失うぐらいの喪失感を味わうことになるに違いない。

救われた、キョーコさんだった。

>こうせつ おいちゃん おもしろくて好きだったのに .... くわ田さんのオールナイトはどうなるかしら....

南こうせつに未練はあるものの、桑田佳祐の勢いには一目置いていた、彼女。大きな期待を寄せているのは確かだろう。

>本当に家にいても全然ひまなのヨ!

高校生活という嵐を前にして、落ち着いた暇すぎるゆったりと流れる時間を実は楽しんでいるかのように過ごしていたかもしれない、キョーコさんだった   



 炭鉱のおじさんにプレゼントを貰って大喜びのキョーコさん。

 喫茶店に行って彼女曰くお高いというコーヒーを飲んで舌鼓を打つ。

 サイフォンコーヒーだけあるわねと。

 暇がそうさせるのか、高校生活における勉学をすっ飛ばし、好きな音楽を自分のこれからの仕事に出来ないものかとあれこれ考え始める。

 一生の仕事にしたいのだと、どうやらキョーコさんは本気で思っているらしかった   




つづく…

「サイフォン珈琲と音楽について熱弁を振るう少女」廃屋に残された少女の日記'79.35

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