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 高校生活スタートまでの最後の中学生としての余韻を楽しんでいる、キョーコさん。

 少し前までは高校進学が危うくて人生に絶望をしているような悲観的な言葉ばかりが日記に踊っていたが、今では、炭鉱のおじさんに高校入学のお祝いなのかプレゼントを貰ったり、高いコーヒーを飲んだとかどうでもよさそうな感想で頁を埋め尽くす、でもそれが心が安らぎ心身ともに充実していて楽しい毎日を過ごしている証明、彼女にとって最良の日々であることを物語る、後の高校生活で振り返った時に、あの時は良かった、あの頃に戻りたい、なんてしみじみ思い返すような貴重な時間であったのかもしれないのは想像に難くないのではないか。

 キョーコさんの視線の向こうには高校生活ではなくて、既にその先の将来の自分のなるべき職業が燦然と輝いていてそれについての熱い語りがもうとまらない。

 音楽だ。MUSICが自分の進むべき道なのだと。

 まもなく日記のページの終わりが近づいているということもあり、今までの総括を迫られ、高校を受かって得た自信は彼女に前向きさを与え、それが自然と自身の未来像を力強く語らせる結果となっているのだとしたら、ペラペラの少女漫画雑誌の付録の日記帳時代から読んできた者としては、これほど喜ぶべく嬉しいことはない。

 最終ページで掲げられる夢、いや具体的な目標を宣言する彼女には、夏休みに家に籠もって受験勉強をやろうとするも、結局遊び呆けてしまい、自分の不甲斐なさに涙した、あの時の情けないキョーコさんの面影は、もうどこにも感じられなかったのである   



24a
1979 年 3月24日 0:00

今日、炭こうのおじさんに くつを買ってもらってしまった。
そして エビチャーハンを ごちそうしてもらった。(店に行って)
そして 他のコーヒー きっさ(あおい)に行ってコーヒー
をのんできた。高いコーヒーだった。350円。でも とても
おいしい Coffee だったので まあ・・・ と うなずけた。
私もサイフォンを買って来て飲みたい。I like coffee。
私はトミーを好きになってしまった...。ダメネすぐ人を
好きになってしまってさ! GODIE GO 大好き♡
私は音楽が好き。すてきな音楽をつくり音楽を
つかいこなしている .... だからGODIEGOも好き*
何というか .... 今までの音楽というのは .... だいたいが
きまりきっているような感じだった。GODIEGOもどうか
今の私にはよくわからない。でも ... すてきな歌を
作ると思う。もっと私の知らない曲で とても良い
曲があるかもしれない。 でも何というか ...
私は音楽 ... が大好きです。 I like music ,
だから 音楽に感する物は 好き♡

土地柄か、親戚の叔父さんが炭坑夫をしているらしく、その彼から入学祝いと思われる靴を買ってもらい上機嫌のキョーコさん。

一緒に出掛けた街のデパートで靴を買ってもらい、エビチャーハンもご馳走してもらったのだという。美味しいコーヒーでも飲もうかと、当時評判だったと思われる喫茶店「あおい」でサイフォンで淹れたコーヒーもいただいた。

>高いコーヒーだった。350円

悲しいことに、今とたいして物価が変わっていないという...。日本経済の停滞ぶりをこんな一行にみて顔を曇らせてしまう、僕

>私もサイフォンを買って来て飲みたい。I like coffee

普段インスタントコーヒーしか飲まないキョーコさんが、高価格という高いものは良いものだという心理的付加価値性加えて、意味もわからない『サイフォン式』という言葉の魔力にすっかり取り込まれてしまい、実際、味も良かったのだろうけど、お気に入りとなってしまった、『あおい』の一杯のコーヒー。
>ダメネすぐ人を好きになってしまってさ! GODIE GO 大好き♡

ちなみに、ザ・ベストテンにゴダイゴが出演していて、キョーコさんの好きなトミー・スナイダーが久米宏に向かってどうやら『fuc●』と言ったらしく、久米宏が顔を真っ赤にして「今この人とんでもない失礼なこと言いましたよ」と、本気で怒っていたのを子供心に僕は今でもそのシーンを鮮明に憶えている。歌を歌うだけなのに私生活の細かいところまであれこれ聞かれるのだから、外国人にとっては相当違和感があったに違いないだろう。

>すてきな音楽をつくり音楽をつかいこなしている .... だからGODIEGOも好き

ゴダイゴの音楽性が好きだと語る、キョーコさん。家族で楽しめる歌謡曲が氾濫するなか、歌詞が全編英語だったり、インドの影響を受けたような楽曲が、北の草原の中の一軒家に住む彼女にとっては驚きの新鮮さを持って受け止められたのかもしれない。

>でも何というか ...私は音楽 ... が大好きです。 I like music

今の日記帳の最後で語られるが、もしかしたらゴダイゴの洗礼が将来の目標に少なからず影響を受けた可能性があるといっても過言ではないだろう   



24b
金山君が好きなのも音楽ということが関係している。
ギターがうまく声も ... きれいだというのかなあ?
何というか歌はうまいワケ♡ . だから・・・ 好きになって
しまったの。 千春もそう。ギターがうまくて声もよく
曲もいいし ... . 歌がうまい ..... 性格的にも好き。
ということもある ...。ゴダイゴも始めは モンキーマジック
や ガンダーラ の曲を好きだったの ...。でも ...
テレビで GODIEGOを見るたびにひかれていった。
音楽が好きだから ... 楽器をうまくひける人に
私はあこがれてしまう .... とにかく 音楽が好き。
自分も楽器をうまくひけるようになりたい。ありとあらゆる
楽器を ... 。そして .... いろい音楽に対することに
ついて知りたい ....。おしえてくれる人がいれば
すぐにでもやりたい。私は音楽が好きだから。
シンセサイザーなどの機械類なども*使えるように
なりたい .. . やりたいことが いっぱい ・・・ ・
やりたくて うずうずしている ... 夢がいっぱいで
うずうずしている ... 音楽が好き ..... 大好き。
音楽に終わりという*言葉はないと思っている......

顔が並よりちょっと下の金山君を愛してやまない理由、それは音楽に関係していること告白する、キョーコさん。

思えば、タモリや所ジョージもそうだった。思春期の女の子なんて普通顔から入るものだが、キョーコさんは違っていた。一貫していた。音楽を操る人に憧れを持っていたのである。

>千春もそう。ギターがうまくて声もよく

確かに、松山千春の美声はこの僕でも聞き分けられし惚れ惚れとすることがある。当時は顔も良かったはずだけれども。

>テレビで GODIEGOを見るたびにひかれていった。音楽が好きだから ... 楽器をうまくひける人に

流行りの曲でゴダイゴを好きになっていったものの、次第に彼らの楽器演奏に目が向くようになっていった、彼女。なんて美しい音楽を気持ちよさそうに奏でるのだろう。私もあんな風になりたいな。意のままに楽器を操りたいな   

>シンセサイザーなどの機械類なども*使えるようになりたい .. .

YMOにも影響を受けていた。三人の中で好みなのは今までの傾向として細野晴臣あたりだろうか。

>やりたくて うずうずしている ... 夢がいっぱいでうずうずしている

今までこの日記の中でこんなにも夢を語って胸を膨らませているキョーコさんがかつてあっただろうか。だらだらと過ごしているだけで、とくに将来目指す職業などを今まで口にしなかった彼女が、明確に目標を定めたようだ。音楽をやりたいのだと。高校では吹奏楽部にでも入るのかもしれない   



24c
私はそうであってほしいとも おもう。
音楽には世界がふれ合うことの何かがあるだろうし
心をなごらかにする何かがあるのだとも思う。
そして その音楽の音もありとあらゆる物があると
思う。これは音じゃないという物はないと思う。
それから音ではない何かが出てくるかもしれ
ない ・・・・ でも それはそれですばらしいことだ
と思う。次から次へと新しいものが生まれて出て
くることは一番すばらしいことだと思う。
音楽は一番私の好きなもの。
ただ 一言に音楽というても ... この言葉がなかっ
たら ... その言葉を表すためにはこの日記*
帳が100さつあっても書ききれないほど
内容のずっしりと重いたいへんなものだと
思う。私は音楽が大好き。
だから Godie go . も大好き。
とくに トミーとスティーヴが大好き。
トミーのあの やさしそうで なやましい顔が
大好き♡ , あ ~~~ もうすく日記帳もなくなる ~~~ 。
                  おやすみ。

音楽を、いや、将来自分が進むべき道、方向性を語り尽くす、キョーコさん。

音楽で言葉や宗教を乗り越えて世界中の人と触れ合うことができる。心和やかにしてくれて戦争だって鎮めてくれるだろうと。

>これは音じゃないという物はないと思う

世の鼓膜を震わせるもの全てが音楽であるとキョーコさんは言う。万国共通、世界中の人が等しく理解共有できる伝達手段、それが音楽なのだと。

>次から次へと新しいものが生まれて出てくることは一番すばらしい

さだまさしみたいな、語りのお経みたいな歌もあれば、インドブッダガヤの寺院で流れていそうなゴダイゴの歌もある。ザ・ベストテンを観ているだけでも毎週のように新曲が出てくる。それは私を幸福にしてくれる。なんと素晴らしいものなのか、音楽とは、と、キョーコさん。

>その言葉を表すためにはこの日記*帳が100さつあっても書ききれないほど

100冊まではいかなかったが、結構な数が廃屋の机の中には収まっていた。そこでも音楽を語ってくれているだろうか   

>とくに トミーとスティーヴが大好き

バンドが好きになるとなぜか外人メンバーがお気に入りになる、キョーコさん。閉ざされた環境に住むゆえ、外国、外国人への憧憬が強くなるのではないだろうか。私をここから見知らぬ外の異境の地へ誘ってくれる人いないかな   

> あ ~~~ もうすく日記帳もなくなる ~~~ 。

中学生活の終わりとともに、この日記帳もまもなく最終ページに差し掛かろうとしていた   



 キョーコさん、皆で買ったプレゼントを先生方に渡すために学校まで行く。

 もうお別れということもあり、各先生方との思い出や感想などを書き並べる。

 あれほど胸焦がした松本君だったが、今では姿形さえ薄らいではっきりと憶えていないと、高校生活での新たな恋に期待を寄せる、彼女。

 文通が途中で不通になり心折れた均くんがそのことを先生に相談していたことを聞きつけ、気遣ってあげる優しい一面もみせるのだった   

 


つづく… 

「自分より男友達を気遣った少女」廃屋に残された少女の日記'79.36

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