お宿の食堂 タイトル
 今回の日記で和香子ちゃんは、自分の部屋の見取り図を詳細に図にして峰尾に説明をしてあげている。

 そう、それは見比べても信じられないだろうが、この写真の部屋を漫画チックに図にしたものなのである。

 中央にあったはずの和香子ちゃん曰く『愛しの・・・』とまで言わしめたコタツは何処へ行ったのだろうか。

 和香子ちゃんがここを去った季節は夏だったのでコタツは押入れに仕舞ってあったのか。図にある電気ストーブもまた無い。

 ドアと姿見の位置関係からすると、写真を逆さにすると和香子ちゃんの見取り図とピッタリと重なるようである。



相模湖-105
 『壁にはポスターがドバッ!!』とあるが、廃墟になった和香子ちゃんの部屋には香港のポスターぐらいしか貼っていなかった。図にはテープレコーダーがあるが、写真にあるブラウン管のテレビは無い。

 つまり、何かの理由で和香子ちゃんがお宿を去る時は、この交換日記が書かれた少し後のことだったのだろう。

 世界で活躍するジャーナリストになりたいと中学生時代に夢を語っていた彼女。

 中学生だった少女が成長をして、ある時期、国際的ジャーナリストの夢が自分の中でますます現実的な目標として具体化してきた時があったのか。

 お宿の廃墟の『和香子部屋』に貼られていた香港のポスターが、夢の国際的ジャーナリストの活躍の場としての憧れの国であったなら、『なんで香港のポスター?』と現場では訝しがってみたものの、そんなに深い切なる想いがあったならば、日記を読み返してみた今、あの時、現場で香港のポスターを見てなかば苦笑してしまったことを、今ではひどく悔いている僕がここにいて、もしかしたら、香港で夢を叶えて、デモの先頭に勇ましく立つ立派に成長を果たした和香子ちゃんがいたのでは?と、日記と香港のポスターを見比べながら、そんな現実になっていないかなと、かすかな期待を抱かせずにはいられないのである   



12
 今回のお宿交換日記は、和香子ちゃんからmineo君宛て。

 見取り図やイラストをふんだんに盛り込みながら、飲酒タバコ事件や高校入試のことなどを書き綴っている   



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 2/10~2/11 to 峰尾

・ わーい ♡ ついに 明日から とび石 連休♡
  うれしいのだわん るん ♪

・ さて、 いよいよ あと 2週間だね。
  身心 ともに ひきしめ、 がんばしよー!!

・ ところで 今日 あのホラ、 過去 3年間(2年間カナ?)の
  入試問題 やってみたんだけどさ e むづかしいよお ~~~ 
  とくに 数学! 今回の月例だって。 数学が
  足ひっぱってなけりゃeさ。 んもう! ぐやじ ~~~ 
  思わず 歯ぎしり <なんちゃってぃ!>

・ そーなのよねえ。 朝って ふとんが すっごく あたたかいでしょ。
  もー おきたくないしィ    さむいしィ     ねぇ。
  やっぱり 7:50 の バスにのらなけりゃ あとは ちこくバス
  と 呼ばれてる 8:20 の バスしかないもん。
  しょうがないんだよね。 帰りに したってそう。
  自分の好きな時間に帰れないし。 バス◆は(あーん ごめ~~~ん)
  もう ギュウギュウだし。 あ ~~~ 高校いったら も、1回
  のらなきゃ いけないんだ!! あぃ~~~ん。

・ あっ! そうそう。 私 髪の毛 切りましたです。
  あのねえ、 ショートでね。 今 はやっているでしょ。耳だすの。
  でも あんまし だすと 恥かしいので ほーんの ちょっと、
  耳たぶが でるくらい ・・・・ どえす。 よろしく

  ホントは          おみごと ざんぎり!
  この髪がただって        えーん えーん
  気に入ってたのに                      多摩川のオバサン
  前の方がぜったい                         にくんだる!
  いいよね!

もうすぐ飛び石連休が来るのよと、待ちきれない感情を紙面に弾けさせる、和香子ちゃん。

ちなみに『るん』とは、気分が浮き立っている時に用いる鼻歌を表す語。1979年のアニメーション作品『花の子ルンルン』が語源で1980年代に流行って以後定着したという説が有力なのだとか。

運命の入試まで残すところあと2週間ばかり。自分はもとより、mineoにも心身ともに引き締めよと、自戒を促すしっかりとした世話女房のような心遣いをみせる、彼女。

>今回の月例だって。 数学が足ひっぱってなけりゃeさ。

和香子ちゃんの苦手な科目は数学だった。それもあって文系のジャーナリスト志望だったのだろう。

>あとは ちこくバスと 呼ばれてる 8:20 の バスしかないもん。

7時50分のバスに乗れなければ、当時学校で呼ばれていた通称『遅刻バス』こと8時20分発のバスしかなかった。山から通学する和香子ちゃんにとって、遅刻バスとは三年間、親密な関係にあったに違いない。で、どこの学校にもありそうでつけそうな呼び名に思わず、ほっこり。

>あ ~~~ 高校いったら も、1回のらなきゃ いけないんだ!! あぃ~~~ん。

高校に合格したら、通学のバスがもう一つ増えてしまう。『あぃ~~~ん』の語源はナイナイ岡村と仲の良い吉本芸人とも「電波少年的懸賞生活」に挑戦していた「なすび」とも言われるが、それらより遥か前に、なぜか、和香子ちゃんが使っていた!?

好きな男の子に髪の毛を切ったことを報告する。女性にとっては断頭台に臨むような気構えで行う一大行事でもあるショートのヘアカットだが、殊にこのぐらいの年代の男の子にとってはさほど感心も興味も無く、受け流しているようだが、その事の重大さ、女性の髪に託す心情の重さに彼が気づくのはもう少し年齢を重ねてからのことなのだろう。

>ほーんの ちょっと、耳たぶが でるくらい ・・・・ どえす。 よろしく

そんなのどうだっていい...と峰尾は思っていそうだが、どえすと茶目っ気で誤魔化しつつも、予防線を張っておく和歌子ちゃんがまたいじらしかった。

>多摩川のオバサンにくんだる!

美容室に行く家計の余裕はなかったのか。おそらく多摩川の流域にでも住んでいる親戚のオバサンにやってもらったものの、見事なザンギリにされてしまい憤っている彼女。いや、もしmineoがショートを気に入らなさそうな態度をとった時のために、多摩川のオバサンのせいだからと、言い訳を用意しておいたのかもしれない。この結果は私の本意ではないのですと   



w23
見取り図725
和歌子の部屋-79 725
それとねえ、 今日は 部屋を そーじして、 もよーがえ
をば・・・

きゃッはは・・・ ♪ ホーント、 お酒の方は私たちも少しかか
わってる♡ でも どーしてだろうね。 お酒なんかだった
ら わりと 家の人なんか うるさくないでしょ、 見つかっても。
だけど タバコとなると 先生方も 親も 目の色かえ
ちゃってさ。 バカみたい。 タバコをやる、やらないの
問題より 以前にさ、 それを やろうとする 精神をおこ
るべきだと 私は 思うんだよね。 もう15才、中学も
卒業。 大人のやること全てに きょうみをもってあたり
まえだよ。 それを どーして 頭ごなしに おさえつけ
ちゃうんだろ。 わかんないなあ~~~

Yes. 正直にこたえましょ、
あのくしを とられて、 先生の 話を 聞いた 日から
私 ××和香子は 断じて 学校に くしは
もっていっておりません!! , 断言!!
                                     (神かけて!) ✙

 なんで?
                しんけん

部屋の掃除をして模様替えをしたことをルンルン気分で報告する、和香子ちゃん。

雑誌などは廃墟になってもそのままに置かれていたのかもしれない。

琴への言及がある。時たま弾いているとのこと。

和香子ちゃんの姿見。

どうしてこんなことになってしまったのか、映した全てを再生できないものかと、下唇を噛んだ、僕   

>お酒の方は私たちも少しかかわってる♡

くしの持ち込みやタバコはやらなくても、お酒を嗜むぐらいはやっていた、二人。お宿の食堂で顔を真っ赤にした和香子ちゃんの姿が営業当時見られたのだろうか。

>それを やろうとする 精神をおこるべきだと 私は 思うんだよね

未成年の飲酒には寛容的な彼女も、こと喫煙に関しては厳格だった。吸おうとするふざけた精神を叩き斬るべきだと。

>それを どーして 頭ごなしに おさえつけちゃうんだろ。 わかんないなあ

タバコを吸うのはよくないが、もうバス料金だって大人の運賃を払っている歳なんだから、首根っこを押さえてやめさせるのではなく、言い方、やり方、叱り方、というものがあるのではないかと、慈愛に満ちた見解を示す、和香子ちゃん。子供と大人の間にいる揺れ動く若者の心の声を代弁してくれているかのようであった。

>××和香子は 断じて 学校に くしはもっていっておりません!!

一大騒動に発展した”くし事件”。

和香子ちゃんは逃げも隠れもせず、今では廃墟どころか、更地となってしまった、お宿二階の彼女自身の部屋の中で高らかに言い放った。私は潔白です、と   

その汚れなき透明のような純真な心、今でも持ち続けていてもらいたいものです   



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・髪の毛? うーん どーかなぁ。
 あんまり 短く 切るのも 勇気が いるだろーしネ。
but 先生に 注意されるのは しゃくだから 少し切ったら
 どうですか? 言われてみれば 少し長いのかなあ。
 でも 峰尾の 髪の毛だからね。 なんともいえない。
 <アハハ・・・ なんか おかしいなあ。 ・・・・?・・・・>

・ねえ 一日 前の峰尾のペイジ、 書いて消してある
 ところがあるでしょ、 最後の方。
 あれ なんて 書いてあんの? あーゆーのって気になる!

 The POP!!

 good
 buy!

峰尾の髪相談に親身になって答えてあげようとする、和香子ちゃん。

体制側に屈するのは癪だから、少しでも抵抗をしている姿を見せたらと、ギリギリのラインを狙った答えをmineoにアドバイス。

今まで峰尾が勘ぐってやきもちを焼いていても涼しい顔をしていた和香子ちゃんだったが、従順で自分の支配下にあるような男が少し不穏な行動をとると気になってしょうがなかった。消した行に何書いていたの?と、問い詰めたのである   

その追求があからさまで彼にとってはキツかったかなと思った彼女は、派手なイラストでページ全体を和らげる演出をしてみたが、その実、峰尾が消した言葉が頭から離れなかったようなのである   




 結局、角刈りにしてしまった峰尾。ダサイ頭だと自嘲気味。

 見取り図イラストにある『もらったレースみたいなやつ』とは、mineoからのプレゼントだったらしく、峰尾、感激の言葉を述べる。

 和香子ちゃんが気にしている、消した行の言葉を、しどろもどろに説明する、峰尾。

 お互い合格したら、いつもの四人でボーリングに行こうという計画を、mineoは和香子ちゃんに持ちかけるのであった   

 


つづく…

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