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 サンリオではなくて学研のキャラクターである『タイニーキャンディ』の日記帳を選んだ、キョーコさん。

 地平線まで続く草原。放牧されている羊やウサギ達。

 煙突から煙を出す赤い屋根の家。

 そう、このタイニーキャンディの少女とは、親に頼まれて牛の餌やりをする時のキョーコさんそのもの。

 イラストの主人公を自分に重ね合わせて思わず共感してフレンドショップでこの日記帳を手に取ったか。

 ビニールのカバーが令和の年の今になっても掛かったままである。

 ビニール製のカバーは数十年の時の重みを反映してか1.5cm程縮んでしまっている。
 
 表紙裏には引き続き凝り続けているのか、ヤンキーっぽいリーゼント頭の男二人のイラストと、マッシュルームカットっぽい明らかにヤンキーではない、もしかしたらキョーコさんを男性化したともすればなよっとした中性的な男子のイラストが具体的な説明も無く描かれていた。

 高校には今までの中学校にはいなかった、こんな男子達がクラスメートにいてくれたらな、という願望なのだろうか。

 日記の内容はなるべく先行して読まないようにはしているものの、日記帳が新しい物に変わった際にはパラパラと捲って少し先を覗いて読んでしまうことがある。

 今回もそのようにやってしまったのだ。

 驚いたことに、僕がこの日記帳を持ち去るきっかけとなった、ある事象、僕とキョーコさんに関連する運命的なある共通した事柄が、この日記帳のそう遅くない段階でもう出て来てしまうようなのである。

 その部分を読んでくれれば、誰もが納得するに違いないだろう。

 あぁ、この日記帳はカイラスさんに拾われるべく、あの廃屋の学習机の引き出しの中に眠っていた、いや、待ちかねていたのではないか、と。

 北の地の片隅の町の更に外れの草原の中にたたずむ一軒の廃屋のかつての住人である少女と僕との関連性とは一体   

 
 
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1979年 3月27日 (火) 11:07

今日は初めて... と、言より 2さつ目の日記の初めのページ
に書いております。(見れは わかるわよね            !)
今日(3:00)まで 千春のオール・ナイト・ニッポンを聞いて いました。
だって 最後のオール・ナイトだったから ..。
今日 目がさめたのが 10:00 起きたのは 12:00。
3番の*汽車で市へ来たのですが . . . .
並木から のったの。 でも 一時をあらそう ところ.
ついた時には もう 動きだしていたのよね              !
アセッタ          ! 止めて もらったのヨ! 乗ったの。
そして 目の前に いた人は 山角君 だったの。
ハズカシ           カッタ。 すっと 山角君は 戸口の所にいるし
私も いたの ... 話しかけようと思ったけど ・・・・・ 話せな
かった... でも あいさつは したもん!あせった!ホント.
今でも ドキドキ ... 思い出すと .... ハズカシ                !
今. 史之舞チャンの おたくで書いておりますのです。

キョーコさんの認識では日記帳は二冊目になるようだが、実際はハードタイプの日記帳二冊以前に少女マンガ雑誌の付録のノートを流用した日記帳が二冊あるので、細かい事を言うと現在で四冊目になる。

>千春のオール・ナイト・ニッポンを聞いて いました。だって 最後のオール・ナイト

当時若者に人気絶頂だったはずの松山千春がオールナイトニッポンを退くのだという。アイドルではない松山千春は、コンサートに客を呼んで日銭を稼ぎ、そのお金で大所帯のスタッフを養う、といったスタイルが彼にとって本来の形であろう。深夜ラジオは一時の若者向けのアピールの場でしかなかったのだ。その段階は終わりだと言わんばかりに、松山千春はオールナイトニッポンを卒業するのである。

>今日 目がさめたのが 10:00 起きたのは 12:00。

明らかな二度寝をしてしまった、キョーコさん。言い訳がましく「目がさめたのが10時」なんて言っているが、その後に二時間も寝てしまえば元も子もない。昼に起きたも同然。

>並木から のったの。

キョーコさんはなぜか最寄り駅を使わず、かなり離れた駅をいつも使う。離れている方の駅は自転車で行くには遠すぎるので親に車で送ってもらっているに違いないことは確かだ。遠方の駅を使う理由は、親の仕事のついでに乗せて行ってもらっているからか。定期代が安くつくからか。近い駅は湖の近くを通ることもあり、女子中学生一人では危険だからか。今もって判然としないが、もしかしたら金山君と駅舎で遭遇する可能性が高いので、彼と少しでもベンチで一緒に過ごしたい、といったロマンチックでささやかな願いあってのことなら、なんて涙ぐましくいじらしい努力であろうかと、とめどもなく溢れる同情を僕は禁じえないのである   

>アセッタ          ! 止めて もらったのヨ! 乗ったの。

汽車の発車を遅らせてしまった、キョーコさんだった。

ローカル線とはいえ、たった一人の女子学生を待ってあげる寛容さが、当時の国鉄や土地の空気にはあったということ。

>ハズカシ           カッタ。 すっと 山角君は 戸口の所にいるし

『まって、まって!!』と大声をあげないまでも、必死の思いから派手なゼスチャーぐらいはしたのではないだろうか。その様を山角君に全て見られていて、羞恥心から頬を赤らめたかもしれない、キョーコさん。

>話しかけようと思ったけど ・・・・・ 話せなかった... でも あいさつは したもん!あせった!ホント.

80年代のアイドルソングの詩みたいな内容を綴る、キョーコさん。今ままでの彼女なら挨拶も出来なかったはずだが、それが出来たということは、やはり高校合格が自信につながっているからなのかもしれない。

>今. 史之舞チャンの おたくで書いておりますのです。

久しぶりに訪ねた姉の家。

これまた高校合格が自信と精神的成長につながったのか、姉の存在に前より近づき、追い抜いてやるぞという無意識の表れだろうか、今までなかった姉をチャン付けにするという、内面の成長を如実に窺わせる言動をみせつけたキョーコさんだった   



27b
今日は とまって 行くの 明日も とまる つもり ....
GODIEGOのLP ほしい なぁ・・ このところ 毎日
そればっかり書いているナァ!
ToMMY の 誕生日 ワカッタワケ。 1952年12月20日。
今年で27才では ないですか。 STEVEの誕生日は
見なかったけど ぉ年はわかったよ。GODIEGOの中で一番
若いのよね。私 ToMMYが一番若いのかと思ってたのに。
1953年生まれなワケ。STEVEがね。 タケさんは ToMMYと
同じで 1952年生まれ。 ミッキーと浅野が1951年、
ToMMYと私は 11才も はなれているのね               え!
残念! GODIEGOのLPが ほしい。
I want GoDIEGO's record, I want!
But. I have not money, I want money.
I want GODIEGO's records,
I like GODIEGO. I love ToMMY.
Today is very tiard タイアード、アハ! スペルがわか
らんくなった。 ので もう終わります。Everyone Good night!

中学校時代にクラスメートに恵まれずにろくに友達が出来なかったキョーコさんは、遊びに行くといったら、姉の史之舞の家ぐらいがせいぜい。

しかし、

連夜宿泊することになるが、姉妹水入らず過ごすことも、もうこれで最後かもしれない。キョーコさんもそんなことを思いながら噛みしめるように連泊をしていたと考えるのは、深読みのし過ぎだろうか。

>GODIEGOのLP ほしい なぁ・・ このところ 毎日そればっかり書いているナァ!

喉から手が出る程欲しくてたまらない、ゴダイゴのLP。姉妹で趣味は似たり寄ったりだろうから、史之舞もゴダイゴのLPを欲しくても持っておらず、安月給と思われる姉も経済的には困窮していた様子。

GODIEGOのLP欲しいの一念で、ミスタードーナツのバイトに応募をするといった流れなのか。

>ToMMY の 誕生日 ワカッタワケ。 1952年12月20日。

きっと、明星や平凡といったアイドル雑誌を立ち読みしたに違いない。

>ミッキーと浅野が1951年

ミッキー吉野のことを『ミッキーと浅野』と勘違いして書いているのかと思ったら、浅野孝已というギタリストがいた模様。

>ToMMYと私は 11才も はなれているのね               え!残念!

今ではトミー・スナイダーもすっかり爺さんだが、当時は女子中学生に結婚の可能性を抱かれるようなアイドル的存在だったのだ。

>もう終わります。Everyone Good night!

慣れない英文を書き連ねる、キョーコさん。

高校に入学したら本格的な英語の授業が始まるだろうから、少しでも慣れ親しんでおこうという予行練習か。

キョーコさんの鋭い眼差しは、早くも高校生活に向けられていたのだった   



 念願のゴダイゴのアルバムを遂に手に入れた、キョーコさん。

 泊まった史之舞の部屋にお母さんが来て教科書を買いに行く。

 高校生活の準備はもうすっかり整った様子。

 高校の英語の授業に備えて練習のために日記に英文を書き続けていたと思わたが、それは全く別の理由によるものだった      




つづく

「叶わぬ愛を爆発させる、少女」廃屋に残された少女の日記'79.39

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