秘密基地に興奮した、探索者725
府中基地RX-202
 建物を覆い尽くすような草木をかき分けて行くと、



府中基地RX-201
 広大な敷地の端の部分に到着。

 建物の向こう側からであろう、往来の激しい車の行き交う音が絶え間なく聞こえてくる。

 剥がれそうな苔むしたトタンの壁面。

 赤錆びっしり観音開きの鉄の大きな扉が誘い込むかのようにお手頃な角度で口を開けて待っていた。

 進むしかなかった   



府中基地RX-203
 映画で観た軍需工場のような趣が目の前の視界に開けていた。

 なぜ、廃墟なのかと、よく聞かれる。

 僕はかなりのドラえもん愛読者である。

 その昔僕が子供の頃、小学館は「小学○年生」といった月刊誌を「小学一年生」から「小学六年生」まで各学年ごとに発行していて、その全てにドラえもんが各学年の精神年齢に合わせた内容と画風で連載されていたのである。

 ドラえもん読みたさあまり、たいして仲のよくない近所の子供の家に上がり込んでまで、「小学一年生」から「小学六年生」に連載されている各ドラえもんを毎月のように貪り読んだ。

 将来漫画家になりたいという友達と一緒に、アポ無しで神保町駅近くにあるコロコロコミックの編集部に行ったことさえある。僕のその友達がそういう事情には詳しくて、追い返されるどころか、コロコロの編集部の方が編集部内をご丁寧に見学さてくれたばかりか、帰りには大きな封筒にコロコログッズがぎっしりと詰まったお土産までくれたのである。ドラえもんのベルトのバックルやステッカーなど、今思えば貴重なレアグッズばかり。

 編集部内にはおそらく巻頭カラーページの特集で使うために製作したのだろう、実物大の「どこでもドア」が設置されていてただならぬ異次元感を漂わせていた。

 編集部員の方がアンケートをお願いしますと、今学校で流行っている言葉を聞かれたのだが、僕の友達は何を思ったのか、僕とその友達しか使っていない、彼いわく『これ流行らせようぜ』と、事あるごとに『イヤッホーッィッ!』と適度に叫ぶ二人だけのクラスで流行らせようとしていたその言葉を「学校で皆使ってますよ!」と、編集部員の方の質問に堂々と答えたのである。

 そんな質問に答えたのもすっかり忘れた頃、いいや、微かな期待を込めてコロコロコミックを以前よりは注意を払うようになって読んでいたその時、「ろぼっ子ビートン」という漫画の冒頭のシーンで主人公のロボットが何の脈絡もなく、事情を知らない人(僕とその友達以外全員だが)が読めば違和感でしかないその言葉を、唐突にそのビートンが、確かに発したのであった。

『イヤッホーッィッ!』

 ちなみに、コロコロ編集部の方がせっかくくださったコロコログッズが沢山詰まった大判の封筒を僕は京王線の電車内に置き忘れて来てしまった。その後五年間ぐらいは何かにつけその事を思い返しては深いため息を吐くことをやめられなかったのは、言うまでもないだろう。

 漫画家志望の友達は、後に高校生になってから当時地元界隈で一大勢力を誇ったという暴走族「ブラックエンペラー」に入ったと風の便りで聞いた。元々彼は気性が荒く、兄貴もブラックエンペラーに入っていたので、全く意外ということはなく、ある程度予想されていたというのが正直なところだが。

 ドラえもんといえばタイムマシン。

 学習机の引き出しに足を突っ込んだのは僕だけではないはず。

 21世紀になってもタイムマシンは発明されることはなかった。

 廃墟内は時間が静止したかのように建物は朽ちて残留物は記憶の彼方の物ばかり。まるで、過去にタイムトラベルしたみたい。廃墟から出ると、過去から未来へ時間が遡る。

 そう、廃墟探索は、子供の頃ドラえもんでみた夢、タイムマシン旅行を現実世界で実現させてくれる唯一の手段でもあるのです   



府中基地RX-206
 工具の影絵。

 既にツールは何一つないが、その残像だけが亡霊のようにいまだ居場所を主張し続けている。
 


府中基地RX-209
 差し詰め、タイムトンネル   



府中基地RX-210
「ドラえもんを夢中で読んでいた君にこの先でもし逢えたら、話さなければならないことが、山ほどあるんだ   



府中基地RX-207
 退廃の美。

 崩壊と緑の混濁。

 思わず、息を呑んだ   



府中基地RX-221
 工場だったのか。

 なら座っていた人は工場長か。



府中基地RX-211
 メッセージ性皆無の落書き。



府中基地RX-212
 落書きに費やした時間を、もっと生産性のあることに使ったら、どんなにか有意義に過ごせただろうかと、ハッと我に返るのは、何十年も後のこと   



府中基地RX-214
 カラータイマー部分がスイッチになっているという、工夫   



府中基地RX-217
 ベトコンが被っていたようなヘルメットに見えたが、よく観察してみれば、ホーロー製の電灯の傘か。



府中基地RX-215
 解読する気にもならない。



府中基地RX-218
 水が溜まった溝には本来人が入って作業出来るぐらい深かった。

 溝を跨いで車両がとまる。溝の下にいる整備士が車両のシャーシ部分を整備したと。



府中基地RX-220
 車両整備工場だったのかもしれない。



府中基地RX-222
 枝豆が吊るされているかのような、連なる蛍光灯の死骸という死骸   



府中基地RX-224
 屋根の姿が見えない。

 コンクリートの床には土が堆積し草が生え木々が繁殖。

 鉄をも飲み込む勢いの自然の回復力に唖然・・・



府中基地RX-228
 死にきれないダクトの悲哀   



府中基地RX-230
 植物プラントのディストピア風味。



府中基地RX-231
 そこはかとなく醸し出される、秘密基地感。



府中基地RX-233
 育ってますね・・・



府中基地RX-234
 工場用電熱ヒーター?



府中基地RX-235
 イランからパキスタンに抜けた時の国境のイミグレーション隣にあった売店がこんなだったのを憶えている。

 砂漠の中のイミグレーションという名の人の集まり。

 乗れと言われた爆発しそうなクタクタのバス   



府中基地RX-237
 こういうシチュエーションで必ず捻るけれども、僅かに残留する空気の音さえ届いて来ない・・・



府中基地RX-238
 逆に万が一を恐れて、決してONにしてみたりはしない、スイッチ。



府中基地RX-241
 サンダーバードにウルトラ警備隊世代が熱視線を送りそうな・・・



府中基地RX-242
latrineとは (兵舎・野営地などで、下水道のない)便所

 入ってみます!




つづく…

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