仄暗いお散歩

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カテゴリ:湖畔にそそり立つ、巨大廃墟ラブホテルへ

 同行者のSさんが、意外にも澄んだその目を爛々と輝かせ、おもちゃをねだるような、物欲しそうな子供のような顔をして、僕にこう切り出した。「私が仕事や友人関係のことで酷く落ち込み、思い悩み、暗い遠い目をして、日がな一日、ちっとも楽しいと思わない、スマホのゲーム ...





 倒木をすり抜けた際に木とこ擦れてジャケットに付いた木くずを僕が手で振り払っていると、もう待っていられないとばかりに、牧場に放たれた仔山羊のように、交互に高く上がる膝は腰上以上、フルパワーで元気一杯、踊り跳ねるようにして、ローヤル正面前の広場へと猛然と駆 ...

 同行者のSさんの姿が消えた。彼の声が遠くから聞こえてくる。 手の鳴る方へというわけではないが、彼の声追って建物横の崩れた戸の間をくぐり抜けて行った。 全てが息を止めているようなこの廃墟の地にて、唯一のエネルギー反応ともいうべきものと顔を合わせることになっ ...

 数ヶ月前に拒絶され、いい大人が二人、尻尾を巻くように逃げ帰ったという、苦い思い出の残る「ホテル ローヤル」。 フワフワと雲上を跳ねて飛び歩くような体感のあった後、スッポリと嵌り、そこから一生抜けられないのではという責苦にしばらくの間、まるで自分自身が絵画 ...

 階段を登る際のブーツの音が、非常階段限定で響き渡る。反響音を抑えようにも、ソールが加水分解気味なり、硬質プラスチック化していることもあって、緩やかに足を着地させて音を出さないようにするのにも限界というものがある。 自分が響かせる音に動揺はするが顔には出 ...

 非常階段を登りに登って五階に到着。防火扉前の踊り場。息を殺して様子を窺っている動かぬ巨人のその体内に潜行しているようなExplorer(エクスプローラー)気取りの僕。コンバットブーツのソールと床の塩ビタイルの擦れ合う耳障りな音だけが館内の上下一階分程度に響き渡 ...

 二階のとある一室以降、セキュリティの極めて厳しい館内において、二度目の奇跡的に開いていた部屋。 五階。 洗面台の上には、発色も鮮やかな生命力溢れる姿を廃墟の一室でとどめている造花の束。ほぼ使われていないティッシュ。ソニー製の電話機もある。 二階の部屋が ...

 六階の防火扉を開けて、客室のある廊下へ。 防火扉のチリ部分には小さなシールが貼ってあった。お察しの通り、ただのシールじゃない。可動部の扉と壁枠を繋ぎ合わせるようにして。防火扉を開けると、そのシールが剥がれるかして、人の出入りをチェック出来るという仕掛け ...

 最強のセキュリティーシステムを誇ると言われている、このラブホテル「ローヤル」。数々の困難を経て、ようやく最上階まで到達するに至った。 思えば、枠に囚われて身動き出来ずに、まるで、一枚の絵画のように空中に留まったまま、首の激痛とともに時間だけが経過してゆ ...

 ラブホテルでありながら、高級中国薬膳料理レストランの店舗を最上階に構えていたという他に類のない独自路線で相模湖の湖畔においてひときわ妖艶で底知れぬ異彩を放っていたという「ローヤル」。 廃墟となった今ではその外観はより一層深みが増し、緑も眩しい穏やかな湖 ...

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